あなたの最初の印象は、誤解かもしれません。
確かに、この本は鳥の図鑑のようにも見えます。しかも、イラストにあるのは北アメリカの鳥の姿です。「外国の鳥の図鑑は、興味ないな」、そう思ったかもしれません。
しかし、これは図鑑ではありません。この本は、鳥の生活や行動、進化などを理解するための「イラストで描かれた鳥類学の入門書」なのです。
著者のシブリー氏はアメリカで多くの図鑑を手がけてきました。彼はこの本の中で、自身の長年の観察に基づく知識と、最新の鳥類学の知見を1つのものにして、イラストとともにわかりやすく紹介しています。こんな本は、これまで他にありませんでした。ここではアメリカの鳥が例になっていますが、内容はもちろん日本の鳥にもあてはまります。日本語版の発行にあたり「鳥たちのポートフォリオ」の各ページでは、紹介されたアメリカの鳥に対応する日本の鳥たちを紹介しています。
バードウォッチングと鳥類学は、午前0時と正午12時のような関係にあります。アナログ時計の文字盤では0時も12時も同じ場所に針がありますが、一方は真夜中で一方は真昼であり、全く異なるものです。バードウォッチャーも鳥類学者も、しばしば首から双眼鏡をかけて鳥を見ています。しかし、前者は観察や撮影を楽しむのが目的、後者は生態や進化などを解明するのが目的です。鳥の進化なんて知らなくても観察を楽しむことはできるため、鳥類学に興味のないバードウォッチャーも少なくありません。
ただし、0時と12時は全く無関係なものではありません。両者は連続的なもので、0時は3時や6時を経て12時につながっています。同様に、バードウォッチングと鳥類学もつながっています。観察の中から疑問が生じ、発見がなされ、理解が進みます。鳥類学を理解すればバードウォッチングは楽しくなり、熱心に観察すれば鳥類学の新たな知見が発見されるのです。
いや、私の文章はまた誤解を招いてしまったかもしれません。
鳥の面白さは、バードウォッチャーや鳥類学者だけのものではありません。鳥は山でも海でも街の中でも簡単に観察できます。そんな野生動物は他にはいません。リビングの窓の外から聞こえるスズメの声、散歩の途中に見かけるムクドリの姿、その外見や行動の背景にどんな理由や進化があるのかを知りたくはありませんか?
鳥について何か気になることができたとき、この本はもうあなたのためのものなのです。
川上 和人(Kazuto Kawakami)
森林総合研究所・島嶼性鳥類担当チーム長。小笠原諸島の鳥類を中心に、島の生物の生態や生物地理、保全などに関する研究を行なっている。最近は、海底火山の噴火によって新たな陸地が生まれた西之島において、生態系が成立するプロセスと鳥類が果たす役割について研究している。また、鳥類の骨格標本の収集にも力を入れている。著書『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』(新潮社)、『鳥肉以上、鳥学未満。』(岩波書店)、『そもそも島に進化あり』(技術評論社)、監訳『鳥類のデザイン』(みすず書房)等。