症例:吐血を認めた中年男性1 56歳男性,自宅で夕食を食べているときに急に嘔気を訴え,赤黒い吐血があったため救急要請.救急隊到着時,顔面蒼白であり救急隊からみると会話できる状態でなく,末梢冷感と湿潤は著明であった.救急車を要請した妻は気が動転しており詳細な病歴聴取は困難.救急隊は緊急搬送が必要と判断しすぐに現場を出発した.病院への搬送途中にバイタルサインの報告があった. バイタルサイン: 血圧 98/77 mmHg,心拍数 128回/分,呼吸数 28回/分,SpO2 93%(room air),体温 36.1℃,JCS 20 ※クリック/タップで拡大します ⓒ ABC とバイタルサイン確認 問題の解説:優先順位を考える この問題の選択肢はすべて,吐血の診断・治療をするために必要なことです.しかし救急の現場では常に優先順位を考えて行動していくことが重要になります.その優先順位において最も重要なことは患者さんを死なせないことで,そのためには心肺蘇生でお馴染みのA(airway),B(breathing),C(circulation)とバイタルサインを確認することが第一になります. A(airway:気道) 発語,口腔内の血液貯留を確認します.発語不能であったり,口腔内を吸引しても血液が貯留し続けるようなら気道閉塞の可能性が高く,また出血量が多くショックにより心肺停止になる可能性も高いことから気管挿管の準備をする必要があります.持続出血下の気管挿管は救急医でも困難なことが多いため,気管挿管の準備をしつつすぐに上級医を呼びましょう.気管挿管ができない場合は外科的気道確保が必要になることもあります. B(breathing:呼吸) 呼吸状態,呼吸数,SpO2を確認します.異常がある場合,吐血が気道に流れ込むことで誤嚥・窒息を起こしている,出血やショックにより代謝性アシドーシスとなり代償性に呼吸数が増加している,毛細血管が収縮しSpO2が正確に測定できていないなどの原因が考えられます.異常があるようならすみやかに酸素投与を開始しましょう. C(circulation:循環) 橈骨動脈,末梢冷感・湿潤,血圧,脈拍数を確認しショックであるかどうかを判断します(表1).ショックと診断したものの,すぐに輸血が必要かどうか判断がつかないか,輸血が必要だが準備が間にあわない場合は,末梢静脈路(可能であれば18G以上で2ルート)を確保し細胞外液(生理食塩水またはリンゲル液)を全開投与で開始してください.収縮期血圧が90 mmHg以上であったとしても,橈骨動脈触知不良,末梢冷感や冷汗,心拍数が100回/分以上などショックを疑う所見が1つでもあればショックの場合と同じ対応を開始し上級医に相談しましょう. 引用文献 鈴木 昌:ショック.日本内科学会雑誌,100:1084-1088,2011 (2021/08/23公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します 救急外来ドリル 熱血指導!「ニガテ症候」を解決するエキスパートの思考回路を身につける 坂本 壮/編 定価:4,400円(本体4,000円+税) 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内