フローチャート・表を多用し,デキるPTの頭の中をビジュアル化!よく出会う症状・現象ごとに,原因を追求して効果を出すための思考プロセスを解説!多角的に仮説を考え,絞り込んでいくスキルが身につく!
この書籍タイトルに目をとめた皆さんは今,臨床何年目の理学療法士だろう?日本に理学療法士が誕生して半世紀が過ぎた.当時は理学療法士の数も希少で金の卵と称された時代もあったが,今ではその数は10万人を超え理学療法士過剰時代に突入しようとしている.量的な数は充実してきたかもしれないが,一方で,1人1人の理学療法の質の差も拡大したように思える.
昨今,超高齢社会を迎える我が国においては,社会保障制度の見直しが迫られ,毎年のように医療費削減,診療報酬の切り下げが国会で議論されている.今,「国」は我々に根拠のある理学療法,質の高い理学療法を強く求めてきている.つまり,根拠のない不透明な「とりあえずの理学療法」には,お金を出さないと言っているのである.
こんな厳しい時代の中で,今,皆さんがすべきことは2つあると思う.1つは「技術」を高めること.そしてもう1つは「思考」を磨くことである.これは両輪の関係にあって,技術が一流の理学療法士は,臨床思考も一流なのである.つまり,より高いレベルの技術を目指すのであれば,自身の思考を磨くことが必要だと言うことである.その手助けをしてくれるのが,クリニカルリーズニング(臨床推論)である.これをマスターすれば,知識,経験の少ない新人,若手理学療法士にとって,未熟な思考部分を補い,より質の高い理学療法へと導いてくれる.この道標となるべくまとめ上げられたのがこの書籍である.
第1章では,クリニカルリーズニングの定義と学習方法が初学者でも分かるように丁寧に書かれている.そして,第2章では,運動器分野で臨床経験豊富な理学療法士が,非特異的腰痛症,肩関節周囲炎,股・膝関節症,膝前十字靱帯損傷,足関節捻挫,サルコペニアなど11の疾患(症候)を例に,①仮説の立案,②具体的評価,③治療,そして,④再評価と無駄な情報が全くなく,実にシンプルかつ明快に解説がなされている.
また,全ページがカラーで図表が多用されており,X線画像などは極めて見やすい.さらに,内容を深く理解するための工夫も満載である.特にクリニカルリーズニングで重要となる臨床思考プロセスを可視化するためのフローチャートには,否定(否定された仮説),NEW(新たに形成された仮説),絞り込み!と今まで他の書籍では見たことのない斬新な工夫がなされており,エキスパートの思考がまるで手に取るように見えてくる.これだけ情報が整理されていれば,新人,若手の読者諸氏も迷うことはないだろうと感じた.
これから先,とりあえずの理学療法でもいいのか.それとも,根拠のある理学療法を目指すのか.大きな岐路に立っている.やるか,やらないか,あなたはどっち?
加藤 浩(九州看護福祉大学大学院)