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第Ⅱ章 治療法各論
1 ホットパック
庄本康治
(畿央大学健康科学部理学療法学科)
- ホットパックが生体に与える影響と使用目的を理解する
- ホットパックの適応と効果,禁忌と注意事項について理解する
- ホットパックを健常者に対して実施できる
1ホットパックとは
2ホットパックの適応と効果
1)対象となる機能障害
- 疼痛,表在組織の癒着,拘縮などに対して運動療法前に実施する.また,リラクセーション目的で実施する場合もある.最も使用される目的は,リラクセーションと短期的鎮痛であろう.
- 身体深部に金属,プラスチック,骨セメントなどを使用している症例,高血圧を呈する症例,成長中の骨端軟骨周囲にも実施可能である1).
2)基礎・臨床研究報告
- 古典的には熱傷後の皮膚拘縮に実施されたこともあったが,効果は明らかでなく,近年では実施されていない.
Lehmann ら2)は,健常者の実験で皮下1 cmの組織温度が軽度上昇したと報告しているが,あくまでも表在温熱療法として使用すべきである.- コクランシステマティックレビュー※1(Cochrane systematic review)では3),9つのランダム化比較試験(RCT)を含めた1,117人の腰痛患者データから,発症5日前後の亜急性腰痛患者の鎮痛にある程度の効果があるかもしれないと報告している.
※1 コクランシステマティックレビュー
- システマティックレビューとは,特定の問題に絞って,類似した,しかし別々の研究の知見をみつけ出し,選択,評価し,まとめるために,明確で計画された科学的方法を用いる科学研究をいう.同様の研究にメタアナリシスがあるが,システマティックレビューに包含する場合もある.
- 英国の医師アーチー・コクラン(Archiebald Cochrane)がランダム化比較試験(randomized controlled trial :RCT)の結果を重要視し,常に最新のRCTを集めて分析する必要性を主張していた.この考え方を引き継ぎ,1992年からイギリスでRCTを集めて分析するシステマティックレビューが開始され,さまざまな方法論的改変を実施しながら現在に至る.これらはThe Cochrane Database of Systematic Reviewsといわれ,コクランシステマティックレビューとよばれている.CD版とオンライン版とで読むことができる.
3)ホットパックの効果
- 鎮痛,表在組織の温熱効果と循環改善,リラクセーション.
3ホットパックの禁忌と注意事項
1)禁忌
- 出血の可能性がある領域
- 局所的温熱療法によって全身や他の部位の温熱効果が起こるので実施しないこと.
- 血友病※2のような出血傾向のある疾患では基本的に禁忌であるが,凝固障害がコントロールできていれば実施可能である1).
- 深部静脈血栓や血栓性静脈炎がある部位
- 循環改善によって血栓を移動させる可能性があるため.
- 開放創のある部位
- 急性炎症※3のある部位,感染部位
- 炎症を増悪してしまう可能性があるため.
- 皮膚疾患のある部位
- 温熱療法によって炎症を増悪してしまう可能性があるため.
- 強い浮腫※4,循環障害がある症例
- 組織温度が上昇して熱傷を引き起こす可能性があるため.
- 末梢動脈疾患※5(peripheral vascular disease)症例の核心温度が上昇すると,血栓が形成されやすくなり,脳血管疾患や心臓発作のリスクが上昇する1).
- 末梢動脈疾患では四肢遠位は影響を強く受け,手と足部の皮膚は乾燥し,薄くうろこ状にひび割れてつやのある表面になり,爪は正常に伸びずにもろくなる.
- 心不全※6,重度な高血圧
- 温熱療法による末梢血管拡張,核心温度上昇が起こると,血圧を維持するために心拍出量が要求され,心負荷が増大する.
- 悪性腫瘍がある,もしくは疑いがある場合
- 局所的な温熱によってがん細胞の成長を促進する可能性がある.
- 局所的温熱療法によって全身や他の部位の温熱効果が起こるので実施しないこと.
- 5年以内にがんの既往歴がある症例で,確定診断されていない痛みがある場合,がんが再発している可能性があるため注意が必要である1).
- イギリスのガイドライン(Chartered Society of Physiotherapists Guideline:CSP)では,悪性腫瘍への直接的温熱療法のみを禁忌としているが,カナダ理学療法士協会(Canadian Physiotherapy Association:CPA)では悪性腫瘍,もしくは悪性腫瘍の疑いがある場合を禁忌としている1).
- 過去6カ月以内に悪性腫瘍に対する放射線治療を受けた場合1)
- 残存している悪性腫瘍の成長を促進してしまう可能性がある.
- 感覚障害が重度な部位
- 過度の温熱を感じることができず熱傷を引き起こす可能性があるため.
- コミュニケーションをとれない症例,重度な精神機能障害を呈する症例
- 患者が温熱療法の目的・方法などを理解できないことによる事故発生リスクが高い.
- 核心温度が上昇するような強度や広範囲の温熱を妊婦にする場合1)
- 母胎の温度上昇によって胎児奇形のリスクが上昇すると報告されている4)5).
- 手などの局所的部位への実施は問題ないが,広範囲の温熱療法実施は禁忌である.
- CSPでは妊娠35週までは表在温熱療法を避けるように報告している.
- 生殖器
- 睾丸への温度上昇が精子形成に悪影響を与えると報告されている.
- 皮膚表面に金属がある場合
- 金属は熱伝導率が高く熱傷のリスクがある.
※2 血友病
先天性血液凝固第Ⅷ因子障害(血友病A)と先天性血液凝固第Ⅸ因子障害(血友病B)を総称して血友病とよぶ.血液を固める凝固因子の一部の活性が低いか,あるいは欠如しているため,止血に時間がかかる体質である.関節内出血や筋肉内出血が主な症状であり,打撲や四肢の使い過ぎなどで出血が引き起こされる.出血を引き起こす関節としては,膝関節45%,肘関節30%,足関節15%,肩関節3%,手関節3%,股関節2%,その他2%と報告されている.
※3 炎症 炎症とは細菌のような異種物質や体内で生産された物質に対する何らかの複雑な局所的反応のことである.代表的臨床症状は,熱感,発赤,疼痛,腫脹である.
※4 浮腫 浮腫とは間質液(血液とリンパ管中のリンパ液を除く体液)が異常に増加した状態であり全身性や局所性にみられる.体液が腹腔内に貯留した場合は腹水,胸腔内に貯留した場合は胸水という.浮腫を引き起こす疾患はさまざまであるが,心不全,腎不全,ネフローゼ症候群,肝硬変,クッシング症候群,深部静脈血栓症,下肢静脈瘤,蜂窩織炎(蜂巣炎),熱傷,外傷後などがある.また,Ca拮抗薬などの血圧降下薬,非ステロイド系抗炎症剤,インスリン抵抗性改善薬,副腎皮質ステロイド,飢餓や吸収不良症候群,月経前,妊娠などでも発生する場合がある.
※5 末梢動脈疾患 末梢動脈疾患とは,心血管を除く末梢動脈に生じた動脈疾患の総称である.下肢動脈,頸動脈,腎動脈,腸管動脈などに生じる循環障害をいうが,大部分は閉塞性動脈硬化症である.
※6 心不全 心不全とはさまざまな原因に起因した心臓のポンプ機能障害により,体組織が必要とする動脈血を送り出せないか,静脈血を心臓に戻せない,もしくは両者のために生じる全身性の症候群である.このうち慢性の心筋障害により心機能が低下している慢性心不全と,急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻した急性心不全がある.
※3 炎症 炎症とは細菌のような異種物質や体内で生産された物質に対する何らかの複雑な局所的反応のことである.代表的臨床症状は,熱感,発赤,疼痛,腫脹である.
※4 浮腫 浮腫とは間質液(血液とリンパ管中のリンパ液を除く体液)が異常に増加した状態であり全身性や局所性にみられる.体液が腹腔内に貯留した場合は腹水,胸腔内に貯留した場合は胸水という.浮腫を引き起こす疾患はさまざまであるが,心不全,腎不全,ネフローゼ症候群,肝硬変,クッシング症候群,深部静脈血栓症,下肢静脈瘤,蜂窩織炎(蜂巣炎),熱傷,外傷後などがある.また,Ca拮抗薬などの血圧降下薬,非ステロイド系抗炎症剤,インスリン抵抗性改善薬,副腎皮質ステロイド,飢餓や吸収不良症候群,月経前,妊娠などでも発生する場合がある.
※5 末梢動脈疾患 末梢動脈疾患とは,心血管を除く末梢動脈に生じた動脈疾患の総称である.下肢動脈,頸動脈,腎動脈,腸管動脈などに生じる循環障害をいうが,大部分は閉塞性動脈硬化症である.
※6 心不全 心不全とはさまざまな原因に起因した心臓のポンプ機能障害により,体組織が必要とする動脈血を送り出せないか,静脈血を心臓に戻せない,もしくは両者のために生じる全身性の症候群である.このうち慢性の心筋障害により心機能が低下している慢性心不全と,急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻した急性心不全がある.
2)注意事項
- 眼の周囲,頸部前面
- 頸動脈洞は動脈系の循環を監視する圧受容器であり,温熱療法が循環動態に影響を与えることがある.
- 肥満症例
- 脂肪組織は断熱的役割を果たし,隣接する組織に熱を伝導するよりも蓄熱してしまう傾向がある.
Petrofsky ら6)7)は,肥満者に対してホットパックを実施すると,肥満でない人よりも筋温の上昇が少なく皮膚温の上昇が大きいと報告している.また,肥満者でみられた皮膚温の上昇によって熱傷を引き起こす可能性があり,高齢者,皮膚の薄い症例などでも注意が必要であるとしている.- 肥満者の体重負荷される部位の下でホットパックを実施すると,皮膚への圧が高くなり,皮膚毛細血管を過度に圧迫して血管拡張が起こりにくくなり,熱傷のリスクが上昇する.
- 皮膚に薬剤を塗布している場合
- 皮膚に塗布すると表在血管を拡張し,熱感が発生する薬剤を使用している場合が多く,温熱療法によって疼痛,熱傷が発生する可能性がある.
4ホットパックの実際
1)ホットパックの準備
1湿熱ホットパック
- ハイドロコレーター(温水槽)に水,お湯を入れ,約80℃に設定する(図3).
- 新しいホットパックであれば,少なくとも24時間浸水し,ホットパック内部のゲルに十分な水分を含有させる.一度使用したホットパックであれば約20分間浸水させれば使用できる.
- ホットパックにはさまざまな形状があり,各症例に対応するため多くの種類のホットパックを準備しておく(図4).
- ハイドロコレーターから使用するホットパックを取り出し,十分に水切りをする.
- 6〜8枚程度のバスタオルの上にホットパックを置き,ホットパックをバスタオルで包み込む.治療面側(患部に触れる面)はバスタオルが6〜8枚程度になるようにする(図5).
続きは書籍にてご覧ください
文献
- Rennie S:ELECTROPHYSICAL AGENTS-Contraindications And Precautions:An Evidence-Based Approach To Clinical Decision Making In Physical Therapy. Physiother Can, 62:1-80, 2010
- Lehmann JF, et al:Temperature distributions in the human thigh, produced by infrared, hot pack and microwave applications. Arch Phys Med Rehabil, 47:291-299, 1966
- French SD, et al:Superficial heat or cold for low back pain. Cochrane Database Syst Rev, 25:CD004750, 2006
- Shiota K:Neural tube defects and maternal hyperthermia in early pregnancy:epidemiology in a human embryo population. Am J Med Genet, 12:281-288, 1982
- Kalter H & Warkany J:Medical progress. Congenital malformations:etiologic factors and their role in prevention(first of two parts). N Engl J Med, 308:424-431, 1983
- Petrofsky JS & Laymon M:Heat transfer to deep tissue:the effect of body fat and heating modality. J Med Eng Technol, 33:337-348, 2009
- Petrofsky J, et al:Dry heat, moist heat and body fat:are heating modalities really effective in people who are overweight? J Med Eng Technol, 33:361-369, 2009