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第Ⅰ章 義肢学
5 大腿義足・膝義足アライメント
豊田 輝
(帝京科学大学医療科学部東京理学療法学科)
- 大腿義足・膝義足におけるベンチアライメント設定を学習する
- 大腿義足・膝義足におけるスタティックアライメント設定を学習する
- 大腿義足・膝義足におけるダイナミックアライメント設定を学習する
1大腿義足・膝義足アライメントについて
- アライメントとは,「ソケット・継手・足部の位置関係」のことである.
- 切断者の残存機能を最大限に活かすために,身体機能評価が可能な理学療法士がアライメント調整することは重要な治療手段となりうる.
- アライメントは切断者の断端長や機能および能力に応じて随時,変更する(図1).
- 義足アライメントは,ベンチアライメント(bench alignment),スタティックアライメント(static alignment),ダイナミックアライメント(dynamic alignment)の3工程を経て調整する※1(図1).
- アライメント調整の前にソケット適合を確認し,ソケット適合に問題がないことを確認したうえでアライメント調整を行う.
- 本項では,代表的な大腿義足アライメントとして「標準断端における四辺形ソケット」,「単軸膝継手」を使用した場合を紹介する*.
*多軸膝継手の場合は,各メーカー推奨アライメント参照. - 膝義足アライメントは,坐骨支持型ソケットの場合は大腿義足アライメントに準ずるが,断端末荷重を主とするソケットの膝義足では矢状面におけるアライメントが異なる.
※1 義足アライメント調整のポイント
義足アライメント調整で特筆すべき点は,①即時的な治療効果が確認できること,②治療効果が得られなかった場合には再度別の原因について検討できること,③それでも効果が得られなかった場合には初期設定に戻して再度,検討できることである.換言すると,理学療法士の適切なアライメント調整がそのまま切断者の能力に反映される.
2大腿義足・膝義足歩行に影響を与える因子
- 膝継手の安定性に関連のある因子を以下に示す(図2).
1)随意制御因子
- 切断肢側股関節伸展筋力が強いほど随意制御力は高い.
- 機能的断端長が長いほど随意制御力は高い.
2)不随意制御因子
1TKA線と膝継手位置の関係
- TKA線とは,大転子(trochanter major:T),膝継手(prosthetic knee joint:K),足継手(prosthetic ankle joint:A)を結ぶ線である(図2).
- TとAを結んだ線よりK(膝継手軸)が前方にあると不安定となり(膝折れしやすく),後方にあると安定性が高くなる(膝が曲がりにくくなる).
- 随意制御力が期待できない短断端や筋力低下が著明な者の場合には,このTKA線よりも膝継手位置を後方に設置させ(図3左),膝継手の安定性を高める.
- 長断端や筋力が発達した者の場合には,このTKA線よりも膝継手位置を前方に設置させ(図3右),切断肢側遊脚期に膝継手が曲がりやすくする(この場合,主な立脚期制御力は,切断者自身の股関節伸展筋力となる).
2ソケット初期屈曲角
- これを設定することにより切断肢側股関節伸展筋力を発揮しやすくなる.
3膝継手機構
- 膝継手機構には,立脚期制御と遊脚期制御がある.
4足継手前方バンパー(足背バンパー)
- 立脚終期から前遊脚期にかけての前方への体重移動に伴い,下腿パイロンは前傾する方向に力を受ける.
- この際,足継手前方にバンパーのあるタイプの足部では,前方バンパーが軟らか過ぎると下腿パイロンは前傾しやすくなるため,結果として膝は不安定となる(膝折れしやすくなる).
- 前方バンパーが硬すぎる場合,立脚終期から前遊脚期にかけて下腿パイロンが前傾しにくいため膝継手の安定性は増すことになるが,非切断肢側の歩幅が小さくなる.
5足継手後方バンパー(踵バンパー)(図4)
- 初期接地で踵接地した際,荷重により後方バンパーは圧縮される(単軸足部は底屈する).
- この際,後方バンパーが硬すぎると足継手の底屈が制限され下腿パイロンが前傾する力が働くため,膝継手は不安定となる(膝折れしやすくなる).
- 後方バンパーが軟らかすぎると踵接地時に下腿パイロンは後傾しやすくなるため,結果として膝は反張傾向となる.
6トウブレーク
- トウブレークとは,歩行時の立脚期後期の踏み返しを円滑に行うために重要な義足中足趾節間(MP)関節のしなる部位のことである(図5).
- トウブレークが近位に位置し過ぎると膝継手は膝折れしやすくなる(足部が小さ過ぎる).
- トウブレークが遠位に位置し過ぎると膝継手は膝折れしにくくなる(足部が大きすぎる).
3ベンチアライメント設定
- ベンチアライメントとは,作業台の上でソケット,膝継手,足部などの位置関係や軸位を設定し組み立てる工程※2のことである.
- ここではベンチアライメントにおける前額面,矢状面,水平面の設定基準を示す.
※2 ベンチアライメントの定義
通常,ソケット採型・ソケット製作後,義肢装具士が作業台の上で義足を組み上げる工程をさす.理学療法士が実際に対応するのは義足装着下でのスタティック/ダイナミックアライメントの設定からになるが,切断者が義足を装着する前に行う義足アライメントを臨床では広義的に「ベンチアライメント」と表現していることが多い.
1)義足足部に靴を装着させる(大腿義足・膝義足)
- 達成したい歩行の状態により靴装着の有無は変わる.すなわち,義足歩行範囲が屋内に限定する者の場合には,靴の装着はなしでもよい.
- 屋外歩行や屋外での立位動作が求められる者は必ず靴を装着させる.
- ここで装着させる靴は,今後の日常生活活動(ADL)において最も使用率の高いものとする.
- 特に低活動者の場合には,踵の高さがない靴を選択する(靴の有無によるアライメントの差をなくすため).
2)足部が安定している状態をつくる(大腿義足・膝義足)
- 靴底(足底)面がベンチ(作業台)上に安定するように設置する.
- 前額面・矢状面:下腿パイロンを作業台に対して垂直に設置する(図6).
3)膝継手を取り付ける(大腿義足・膝義足)(図7)
- 2)で取り付けた下腿パイロンに膝継手を取り付ける.
- 前額面・矢状面:作業台に対して水平に設置する.
- 水平面:進行方向に対して膝継手軸が直角になるように設置する.
- 前額面で膝継手が作業台(床面)に対して水平でない場合(パイロンが外倒れしている場合)には,図8のようにアライメント調整する.
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