第4章 肘
4 徒手療法・物理療法・運動療法の選択
坂 雅之
(八王子スポーツ整形外科リハビリテーション部門)
疼痛軽減効果を期待できる物理療法は?
体外衝撃波療法(拡散型圧力波,収束型衝撃波),電気療法,超音波療法がある.
外側上顆症に対する物理療法に期待される効果
- 超音波療法には短期的な疼痛軽減効果があるかもしれないが,安静やその他の治療と比較して優れた効果はない1).
- 電気療法の効果を検証した研究は少なく,微弱電流,干渉波,高圧パルス電気治療のいずれを選択すべきかに関しては不明である.
- 症状持続期間が6カ月を超える慢性例では,体外衝撃波による治療効果が期待できる2).
- 特に拡散型圧力波には疼痛軽減効果が期待できる2).
評価から物理療法の選択
- 外側上顆症の臨床症状は多様であるため,評価結果に基づいて物理療法を選択し,個々の症例に対する治療効果を見極める必要がある.
①共同伸筋腱を対象とした物理療法が治療適応となる身体所見
◆共同伸筋腱に対する徒手検査が陽性(抵抗下手関節背屈テスト,中指伸展テスト,圧痛)
②橈骨神経を対象とした物理療法が治療適応となる身体所見
◆橈骨神経に対する徒手検査が陽性(抵抗下前腕回外テスト,橈骨神経伸張テスト,圧痛)
◆共同伸筋腱に対する徒手検査が陽性かつ疼痛系変化を認める(PFG低下,頸椎自動運動時痛および可動域制限,下位頸椎椎間関節の圧痛および可動性低下)
- 共同伸筋腱や橈骨神経を対象とした物理療法の具体的な方法を以下に紹介する.
電気療法を併用した共同伸筋腱ストレッチング(図1)
【実施手順】
①患者の手関節背屈筋に沿って電極を貼付する.
②患者が不快感を感じず,筋収縮感を感じる範囲に電流の強さを調整する.
③患者は健側の手を用いて患側の手関節背屈筋に対するストレッチングを行う(図1A).
④示指と中指を屈曲位で行うことで,総指伸筋に対するストレッチングも行うことができる(図1B)3).
電気療法を併用したセルフ橈骨神経モビライゼーション(図2)
【実施手順】
①患者のC6-8神経根と外側上顆遠位に干渉波または高圧パルス電気治療機器の電極を貼付する.
②患者が不快感を感じず,電気を感じる範囲に電流の強さを調整する.
③患者は患側上肢を神経身長肢位とし,頸椎を同側に側屈する(図2A).
④患者は手関節を橈・背屈させ,頸椎を反対側に側屈させる(図2B).手関節背屈により強い痛みが生じる場合,肘関節を屈曲させる(図2C).
⑤手順③④を繰り返す.
共同伸筋腱・橈骨神経に対する拡散型圧力波(図3)
【目安となる治療パラメータ(表1)】
【実施手順】
①触診または圧力波の照射により,疼痛部位を特定する.
②共同伸筋腱をターゲットとする場合,痛みが最も強い外側上顆付近から開始するのではなく,共同伸筋腱より遠位である橈側手根伸筋筋腹から開始するとよい.
③最初に特定した共同伸筋腱に局所的に連続照射を行う.
④橈骨神経の関与が疑われる場合,橈骨神経の走行に沿って照射する.
疼痛軽減効果を期待できる徒手療法は?
- 軟部組織モビライゼーション,関節モビライゼーション,神経モビライゼーションがある.
- 軟部組織モビライゼーション,関節モビライゼーション,神経モビライゼーションがある.
外側上顆症に対する徒手療法に期待される効果
【軟部組織モビライゼーション】
①外側上顆症に対する横断マッサージの治療効果に関しては,1編しか報告がなく,不明である4).
②軟部組織モビライゼーション単独ではなく,関節モビライゼーションや神経モビライゼーションと併用することが望ましい.
【関節モビライゼーション】
①頸椎・肘・手関節に対する関節モビライゼーションは,外側上顆症患者の疼痛・機能改善効果が認められている5).
②治療によって即時効果が認められる場合,患者の短期的・長期的アウトカム改善に役立つ可能性が高い.
【神経モビライゼーション】
①橈骨神経モビライゼーションの治療効果に関しては,用いられるテクニックやアウトカムが異なるため結論が得られていない6,7).
②主として頸椎機能障害や神経伸張テスト結果陽性が認められた場合,治療適応となる.
軟部組織モビライゼーション
- エルボーバンドやキネシオテープにより肘痛が改善する,あるいは握力値が改善する場合(第4章-3図2,3参照),軟部組織モビライゼーションによる治療効果が得られやすい.
- 治療手順は以下の通りである.
①橈側手根伸筋に対する横断マッサージ(図4)
◆セラピストは患者の橈側手根伸筋を横断するようにマッサージを行い,橈側手根伸筋が短軸で滑走できる状態を促す.
②橈側手根伸筋に対する機能的マッサージ
◆セラピストは患者の橈側手根伸筋と隣接する筋を母指で圧迫しつつ手関節掌屈運動を行い,橈側手根伸筋が長軸で滑走できる状態を促す.
関節モビライゼーション(肘関節)
- 主として患側のPFGが低下しており,橈骨頭を後方に誘導することで握力値が改善する場合,適応となる.
- 肘関節屈曲・伸展運動または前腕回内・回外運動で疼痛が誘発され,橈骨頭を後方に誘導することで疼痛が軽減する場合にも適応となる(第4章-2図9参照).
- 治療手順は以下の通りである(図5).
・安静肢位(図5A)
①患者は背臥位で肘関節軽度屈曲位,前腕中間位とする.
②セラピストは患者の橈骨頭を把持し,前後方向にエンドフィールを感じるまでのモビライゼーション(背側滑り)を実施する.
③橈骨頭の可動性が改善した時点で治療を終了し,再度疼痛評価を行う.
- 治療肢位(図5B)
①セラピストは安静肢位で橈骨頭の十分な可動性が獲得されていることを確認する.
②疼痛が残存している運動(肘関節屈曲・伸展または前腕回内・回外)を,セラピストが橈骨頭を後方誘導(背側滑り)しつつ行い,徐々に無痛可動域を拡大する.
③この治療手技で疼痛が改善する場合,患者自身で行う方法を指導する.
関節モビライゼーション(頸椎椎間関節)
- 疼痛誘発検査(抵抗下手関節背屈・中指伸展や橈骨神経伸張テスト,PFG)にて肘外側痛が誘発され,かつ以下のような場合に適応となる.
①頸椎自動伸展時に患側と同側の頸部に疼痛や可動域制限があるか,患側への頸椎自動側屈・回旋時に同側の頸部に疼痛や可動域制限がある.
②頸椎他動運動検査にて同側の下位頸椎に椎間関節可動性低下を認める.
- 治療手順は以下の通りである.
・安静肢位(第4章-2図10B参照)
①患者は腹臥位で頸椎中間位,上肢下垂位とする.
②セラピストは患者の頸椎椎間関節に両母指を当て,背側から腹側に力を加える.
③頸椎椎間関節の可動性が改善した時点で治療を終了し,再度疼痛評価を行う.
・治療肢位(第4章-2図10C参照)
①事前に安静肢位で頸椎椎間関節の十分な可動性が獲得されていることが望ましい.
②疼痛が残存している運動(頸椎自動屈曲・伸展,回旋)を,セラピストが下位頸椎運動を固定または誘導しつつ行い,徐々に無痛可動域を拡大する.
- この治療手技を行った後に肘外側痛やPFGが改善する場合,頸椎・胸椎に対する運動療法(図12参照)を追加するとよい.
神経モビライゼーション
- 主に橈骨神経伸張テストで症状が誘発され,頸椎側屈による症状緩和(脱感作)が認められる場合に適応となる(第4章-2図6参照).
- セラピストが行う方法と患者自身で行う方法がある(図2参照).
- セラピストが行う場合,以下の手順で実施する(図6).
①患者を背臥位とし,橈骨神経伸張テストと同様の手順で近位から順に遠位まで操作を加える.
②症状が誘発された肢位で止め,患者は頸部を同側に側屈する(図6A).
③セラピストは患者の手関節を背屈させ,患者は頸椎を反対側に側屈する.手関節背屈の代わりに,肩関節内転や肘関節屈曲による方法(図6B)もある.
④患者は頸椎を同側に側屈し,セラピストは患者の手関節を掌屈させる.③で肩関節や肘関節に操作を加えた場合,④で橈骨神経伸張肢位に戻す(図6A).
⑤手順③④を繰り返す(スライダーテクニック).
⑥最後に神経伸張肢位で症状が緩和されていることを確認し,この肢位を保ちつつ痛みが増悪しない範囲で患者は頸椎を反対側に側屈する(テンショナーテクニック,図6C).
- セラピストによる神経モビライゼーションで治療効果が認められる場合,ホームエクササイズとして患者自身で行う方法(図2参照)を指導する.
- 頸椎椎間関節に対するモビライゼーションの併用(第4章-2図10B,C参照)も効果的である.
日常生活や仕事,スポーツ活動復帰のためにはどのような運動療法を選択したらよいか?
- 手関節の安定性向上に加え,肩や肩甲骨を含む上肢帯の安定性を向上するプログラムを選択する.
- 手関節背屈筋群には段階的に負荷が加わるようにして,外側上顆症で障害されやすい背屈位保持とグリップ機能の獲得を目指す.
- 上肢帯の安定性向上に加え,脊椎の可動性改善を図ることが再発予防の観点からも重要である.
- 手関節の安定性向上に加え,肩や肩甲骨を含む上肢帯の安定性を向上するプログラムを選択する.
- 手関節背屈筋群には段階的に負荷が加わるようにして,外側上顆症で障害されやすい背屈位保持とグリップ機能の獲得を目指す.
- 上肢帯の安定性向上に加え,脊椎の可動性改善を図ることが再発予防の観点からも重要である.
運動療法の目的と進め方
【上肢帯安定性獲得の手順】
- 外側上顆症患者の治療初期では,把持動作を始めとする手関節・手指運動,特に手関節背屈運動や手指伸展運動で肘外側痛を生じやすい.
- 手関節や手指の安定性向上には,前腕・手関節の掌尺側筋群も重要であり,これらの筋群を対象とした運動で肘外側痛が誘発されることはほとんどない.
- まずは小指外転筋,浅指屈筋尺側,尺側手根屈筋の強化を進めておくことが推奨される(手関節・前腕掌尺側安定性向上プログラム).
- 先述した疼痛緩和のための物理療法・徒手療法を進め,可能になった段階から手関節背屈筋群強化エクササイズを進める(手関節・前腕橈背側安定性向上プログラム).この段階では,少なくとも手関節掌屈・背屈運動を主体とした単一平面での負荷に対して,耐えられる安定性を目指す.
- 手関節掌屈・背屈運動や手指伸展運動を抵抗下で痛みなく行えるようになったら,前腕回内・回外と手関節・手指運動を組み合わせたエクササイズに進む(手関節・前腕複合的安定性向上プログラム).この段階では,前腕に回旋が加わる,複数の面での負荷に対しても耐えられる安定性を目指す.
- 外側上顆症では,肘関節より近位の筋群が弱化することもある(第4章-1,p87を参照).手や前腕が効果的に機能するためには,上腕骨や肩甲骨,体幹を安定させる必要があり,特に上腕三頭筋,回旋筋腱板,僧帽筋中部・下部,前鋸筋,腹筋群の活性化が重要となる.
引用文献
- Luo D, et al:The effect of ultrasound therapy on lateral epicondylitis:A meta-analysis. Medicine(Baltimore), 101:e28822, 2022
- Yoon SY, et al:Does the Type of Extracorporeal Shock Therapy Influence Treatment Effectiveness in Lateral Epicondylitis? A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Orthop Relat Res, 478:2324-2339, 2020
- Shirato R, et al:Effect of simultaneous stretching of the wrist and finger extensors for lateral epicondylitis:a gross anatomical study of the tendinous origins of the extensor carpi radialis brevis and extensor digitorum communis. J Orthop Sci, 20:1005-1011, 2015
- Loew LM, et al:Deep transverse friction massage for treating lateral elbow or lateral knee tendinitis. Cochrane Database Syst Rev:CD003528, 2014
- Herd CR & Meserve BB:A systematic review of the effectiveness of manipulative therapy in treating lateral epicondylalgia. J Man Manip Ther, 16:225-237, 2008
- Drechsler W, et al:A comparison of two treatment regimens for lateral epicondylitis:a randomized trial of clinical interventions. J Sport Rehabil,6:226-234, 1997
- Dabholkar AS, et al:Neural tissue mobilisation using ULTT2b and radial head mobilisation v/s exercise programme in lateral epicondylitis. Indian J Occup Ther, 7:247-252, 2013