研修チェックノートシリーズ:麻酔科研修チェックノート 改訂第7版〜書き込み式で研修到達目標が確実に身につく!
研修チェックノートシリーズ

麻酔科研修チェックノート 改訂第7版

書き込み式で研修到達目標が確実に身につく!

  • 讃岐美智義/著
  • 2022年03月01日発行
  • B6変型判
  • 477ページ
  • ISBN 978-4-7581-0576-7
  • 3,960(本体3,600円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 術前管理

5.術前麻酔科指示(輸液・前投薬)

主治医,病棟への連絡事項をチェックして,絶飲食,内服薬,輸液,前投薬,入室時刻を確実に伝達するようにしましょう

主治医への連絡事項図2-5-1

追加検査,他科紹介,手術室への持参薬などがあります.

病棟への連絡事項図2-5-1

1)絶飲食時間

①成人
午前0時よりNPO(nothing per os:絶飲食)
(服薬を除く)
1.固形物:術前8時間前
2.透明水:2時間前(便宜上,8時間前とする場合もある)

施設により絶飲食時間のとり決めがあるので,指導医に確認すること.

②小児の絶飲食時間(筆者の場合)
絶飲食時間のめやす46〜48)

8時間を経過してもフルストマックと考えて対処すべき患者として以下のものがある.

  • 緊急患者(特に外傷患者)
  • 意識障害があり病歴,食事などの状況がわからない場合
  • 腸閉塞,胃切除後,食道裂孔ヘルニアなど,消化管に異常がある患者
  • 腹腔内巨大腫瘍(卵巣腫瘍など)
  • 大量の腹水
  • 妊婦
  • 重症糖尿病
  • 透析患者

2)術前内服薬の指示

「チェックシート:中止薬と継続薬」(p.64参照)によります.

3)術前輸液の指示

午前中の手術では基本的に必要ありませんが,午後からの手術では術前輸液をしておいた方がよいでしょう.手術科側で指示が出ている場合もあり,確認が必要です.

成人では,多くの場合,午後からの手術では500〜1,000 mLの輸液を行います.

4)前投薬の指示

最近では前投薬を行わない場合がほとんどです.

 入室90分前(具体的に時刻を明記)
  1. 鎮静薬:リスミー 2 mg内服など
    (手術術式,年齢,体重,全身状態により調整)
  2. H2ブロッカー:ガスター 20 mg内服

アトロピンの投与を行わない場合が増えています
(入室後必要時に静注投与).

  • 原則として前投薬を行わない患者
    • 意識レベル低下,帝王切開術などの妊娠患者,緊急手術患者.
  • 前投薬量を減らす患者
    • 65歳以上の高齢者,気道に問題のある患者,心不全患者.

5)手術室入室時間の指示

・執刀時刻と手術室入室時刻

手術執刀時刻と手術室入室時刻をとり違えると大変なことになります.一般的に,麻酔申し込み,手術申し込みに書かれている時刻は手術執刀時刻であり,手術室入室時刻ではありません.手術室入室時刻は,通常,執刀時刻の15分〜60分前ですが,施設や症例により異なりますので,麻酔科指導医に確認するようにします.

6)入室方法の指示

麻酔科診察の結果,全身状態,精神状態,手術の種類,前投薬などを総合的に判断して歩行,車いす,ストレッチャーなどの入室方法を指示することがあります.

中止薬と継続薬

手術前に中止する薬剤と手術当日まで継続する薬があります.中止や継続理由と薬剤名を覚えておきましょう.専門医とも十分に中止や継続について相談する必要があります.

Ⅰ 中止薬
A)抗血栓薬(p.422:表7-1参照)

抗血栓薬の中止が難しい場合は,半減期の短いヘパリンに変更し継続する.ヘパリン療法は手術4〜6時間前に中止し,ACT測定を行いながら手術に臨む.

1)抗血小板薬
  • プラビックス(クロピドグレル),エフィエント(プラスグレル),コンプラビン(クロピドグレル・アスピリン)
     抗血小板作用(不可逆的).手術14日前に中止.
  • パナルジン
     抗血小板作用(不可逆的).手術7〜10日前に中止.
  • バファリン81 mg,バイアスピリン,タケルダ
     抗血小板作用(不可逆的).手術7〜10日前に中止.
  • エパデール
     抗血小板作用.手術7日前に中止.
  • プレタール
     抗血小板作用(可逆的).手術2日前に中止.
  • ペルサンチン
     抗血小板作用(可逆的).手術前日に中止(24時間前).
  • プロサイリン,ドルナー,オパルモン,プロレナール,カタクロット,キサンボン,アンプラーグ,コメリアン,ロコルナール
     手術前日に中止(24時間前).
2)抗凝固薬
  • ワーファリン
     抗凝固作用.手術4日前に中止.
  • NOAC/DOAC※1
     イグザレルト,エリキュース,リクシアナ,アリクストラ,プラザキサ,手術1〜2日前に中止.
※1)
NOAC:new/novel oral anticoagulants,
DOAC:direct oral anticoagulant.
B)経口避妊薬(ピル)(エストロゲン,エストラジオール)
DVTリスクを高める(大手術で長期臥床は特に注意).
  • ヤーズ,プラノバール,オーソ,シンフェーズ,アンジュ,トリキュラー,ラベルフィーユ,ファボワール,マーベロン
     手術28日前に中止,術後14日間,産後28日間は中止.
C)経口糖尿病薬
  • 手術当日は中止
     食事をしない場合には必要ない.投与すれば低血糖になる.
  • 半減期の長いクロルプロパミドは手術前日に中止
D)向精神薬
  • 三環系抗うつ薬
     麻酔薬の作用増強.可能ならば2週間前に中止(アミトリプチリン,イミプラミンなど).
  • MAO阻害薬(セレギリン
     交感神経刺激薬投与で高血圧,高体温,痙攣の可能性.2週間前に中止.
  • 炭酸リチウム(リーマス
     心筋抑制作用,筋弛緩増強.2週間前に中止.
  • フェノチアジン誘導体(クロルプロマジン,ヒベルナ
     突然死の報告がある.QT延長(心電図異常),電解質異常,肝機能障害に注意.
E)ジギタリス製剤
  • 心臓手術
     48時間前に中止,必要なら他の薬剤に変更.
  • 非心臓手術
     できれば24時間前に中止,上室性頻拍の抑制に用いられている場合には手術当日まで継続.
F)サプリメント※2
  • 麻酔作用を増強するものがある
     種類によっては2週間前に中止(セント・ジョーンズワート,甘草,麻黄,イチョウ葉エキス,朝鮮人参など).
※2)
サプリメントについては巻末の文献6を参照.
Ⅱ 継続薬
A)降圧薬
  • β遮断薬
     急に中止するとリバウンドを起こすため継続(逆に麻酔時の低血圧,徐脈に注意).
  • 利尿薬
     低カリウム血症に注意.
  • ACE阻害薬ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
     手術前日まで,当日は中止(麻酔導入時の低血圧に注意).
B)抗コレステロール薬
C)抗不整脈薬
  • 基本的には継続
    ジギタリス製剤は,不整脈抑制に用いられている場合には継続だが,ジギタリス血中濃度の測定を行っておく.
D)冠血管拡張薬
  • 経口薬を貼付剤に変更することもある
E)気管支拡張薬
  • 状況によりテオフィリン濃度を測定しつつ継続,経口薬をホクナリンテープに変更することもあり
F)抗てんかん薬
  • 必要なら薬剤血中濃度の測定,非脱分極性筋弛緩薬の作用時間短縮
G)抗パーキンソン薬
  • 中止によりパーキンソン症状,嚥下障害,唾液分泌亢進のため,術後も早期に再開する必要がある
H)抗甲状腺薬
  • 術前の甲状腺機能をチェック
I)補充療法
  • インスリン
     周術期は扱いやすい短時間作用性のインスリンに変更.
  • チラーヂン
     継続(術前の甲状腺機能をチェック).
  • ステロイド(「Memo:ステロイドカバー」,次ページ参照)
     手術当日まで継続,術中,術後はステロイドカバーと言い,静注ステロイドを増量.
アスピリンと薬剤溶出性ステント

アスピリンは心筋虚血や脳虚血をもつ患者には予防的投与として用いられる.最近,よく使用されるようになった薬剤溶出性ステントを留置されている冠動脈疾患患者ではアスピリンを中止すると血栓を形成して突然死することが知られている.最近は,手術前でもアスピリンを継続したまま手術に臨む症例がある.クロピドグレルやチクロピジンは中止にするがアスピリンは中止にしないことが多い.抗血小板作用が不可逆性であるため術中に万が一止血困難になれば,血小板輸血を考慮する必要もある(正常な血小板ができるには7日以上かかるとされている).アスピリンを中止する場合はヘパリンの持続静注に変更するが,ヘパリンは抗血小板作用ではなく抗凝固作用なので,同じ効果を果たすとは限らない(苦渋の選択であるが,しかたない).

ステロイドカバー

ステロイド薬内服中の患者は手術ストレスが加わっても自前の副腎皮質ホルモンを放出することができない(外因性ステロイド投与で脳下垂体と副腎皮質系の反応が抑制される)ために,周術期にステロイドを補充する必要がある.最近6カ月以内に1カ月以上ステロイド薬を投与していた場合や最近1週間以上投与している場合にはステロイドカバーを考慮する.

  • 大侵襲手術
    手術当日:300 mgを術前,術中,術後に分けて静注.
    術後4〜5日で漸減して元の量に戻す.
  • 小手術は適宜減量(上記より少なくてもよい).
ジェネリック(通称ゾロ品)

新薬の特許出願日から25年が経過すると,別の会社が同仕様の製品を発売できる.その際に発売される後発品はジェネリック(通称ゾロ品)と呼ばれる.薬価が先発品に比べて低く設定されるので,採用する病院が増えている.

文献

  • 6)広田弘毅,山崎光章,横山浩一:質疑応答「全身麻酔前にハーブ療法を中止するかどうか」.臨床麻酔,25:674-675,2001
  • 46)「公益社団法人日本麻酔科学会 術前絶食ガイドライン」(2012年7月12日)
  • 47)Smith, I., et al.:European Society of Anaesthesiology:Perioperative fasting in adults and children:guidelines from the European Society of Anaesthesiology. Eur J Anaesth, 28(8):556-569, 2011
  • 48)American Society of Anesthesiologists Committee:Practice guidelines for preoperative fasting and the use of pharmacologic agents to reduce the risk of pulmonary aspiration:application to healthy patients undergoing elective procedures:an updated report by the American Society of Anesthesiologists Committee on Standards and Practice Parameters. Anesthesiology, 114(3):495-511, 2011
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