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知っておきたい外科手術の基本知識
代表的な手術
腹腔鏡下虫垂切除術
- 急性虫垂炎
- 非穿孔性虫垂炎
- 穿孔性虫垂炎
- 汎発性腹膜炎
小澤尚弥
(東京ベイ・浦安市川医療センター 外科)
基礎知識
1病態像
- 虫垂根部が糞石やリンパ節腫脹などにより閉塞することで虫垂内圧が上昇し,静脈還流が阻害されて虫垂の腫脹,炎症が起きる.病状が進行すれば,虫垂は最終的に虚血壊死する
- 炎症が虫垂に留まれば限局性腹膜炎となるが,虫垂が穿孔すると汎発性腹膜炎をきたす
2病期
- 虫垂炎は病期によって特徴が異なる.病期と特徴,治療方針を表1にまとめた
手術前に考えるべきこと
1術式
- 現在は開腹よりも腹腔鏡下手術が一般的
- 虫垂を根部で切除する
- 腹腔鏡ポートは3カ所が一般的だが,単孔式で行う施設もある
2術後の入院病棟
- 腹腔鏡下虫垂切除術の術後は,一般病棟への入院でよい
手術時の流れ
1麻酔方法
- 腹腔鏡下手術の場合,全身麻酔を用いる
2手術の流れ
① 臍を切開して最初のポートを挿入
② 左下腹部・正中下腹部に2番目・3番目のポートを挿入
③ 虫垂を同定し,視野展開(図)
④ 虫垂間膜を切開
⑤ 虫垂根部を結紮・切離またはステープラーで切離
⑥ ポート抜去
⑦ 閉創
3手術時間
- 麻酔導入・覚醒を除く所要時間は,炎症や癒着の程度に応じて30分~1時間30分程度
4合併症
- 手術中:出血,周囲臓器損傷など
- 急性期:腹腔内膿瘍 断端瘻(虫垂断端からの漏れ)
術後の注意点
1非穿孔性虫垂炎
- 手術後,嘔気がなく覚醒が良好であれば,飲水してよい
- 患者さんの食欲があって,午前の手術であれば当日夕食,午後の手術であれば翌日朝食から常食で開始してよい(食事量や食形態の制限は不要)(腹腔鏡下虫垂切除術を参照)
- 術後2日程度で退院をめざす
2穿孔性虫垂炎(汎発性腹膜炎)
- 術後,汎発性腹膜炎によるイレウスが数日間持続することがある
- 腹部膨満や嘔気,排ガスの有無などを考慮して飲水・食事を許可する.調子がよさそうだからと早期に食事開始したがための嘔吐をよく経験する.食事開始は3日後くらいが目安
- 術後発熱が遷延する場合は,術後腹腔内膿瘍を疑う
- 術後1週間程度で退院をめざす
- 退院しても術後2週間目くらいまでは,術後腹腔内膿瘍の危惧があることを患者さんに伝えておくとよい