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第4章 ロジックで理解する! 冠動脈疾患の心電図
0 冠動脈疾患とは?
心臓は1日に約10万回も拍動し全身に血液を送っています.心臓自身にも血液が十分に送られる必要があり,この役目を担うのが冠動脈です.心臓の表面を冠状に取り巻いて走行するので,冠動脈という名がつけられました.冠動脈疾患は冠動脈の内壁にコレステロールなどが蓄積し(粥腫あるいはプラークとよばれます),動脈硬化が進行して血液の流れ(血流)が悪くなり,心筋に十分な血液が送られず心筋虚血を生じる病態です.
冠動脈の解剖
- 冠動脈には右冠動脈と左冠動脈があります(図1).左冠動脈ははじめは左主幹部という1本の冠動脈ですが,すぐに左前下行枝と左回旋枝の2本に枝分かれします.
- 右冠動脈は左室下壁,左前下行枝は左室前壁,左回旋枝は左室後壁に,それぞれ血液を供給しています.
冠動脈疾患の分類
- 冠動脈疾患は,経過が安定している慢性冠動脈疾患と病状が不安定な急性冠症候群(ACS)に分かれます.
- また心筋虚血が一過性で心筋は壊死しない“狭心症”と冠動脈が閉塞した状態が続いて心筋が壊死する“心筋梗塞”に分かれ,さらに心筋虚血の原因や病態によって表1のように分類されます.
慢性冠動脈疾患
- 慢性冠動脈疾患には,一過性の心筋虚血が冠攣縮(冠動脈のけいれん)によって主に安静時に起こる冠攣縮性狭心症と,動脈硬化による器質的狭窄によって労作時に起こる労作性狭心症があります.
急性冠症候群(ACS)
- 急性冠症候群は,冠動脈プラークの破綻とそれに伴う血栓形成により急激に心筋虚血を生じた病態です.循環救急疾患のなかでは比較的頻度が高く,迅速かつ的確な診断・治療が必要です.
- 急性冠症候群を疑ったら直ちに(来院後10分以内に)心電図を記録します.なぜそこまで急ぐかというと,心電図でST上昇がみられたら冠動脈が急性完全閉塞をきたしていることを意味するので,一刻も早く再灌流療法を行う必要があるからです.心電図でまず注目するのは“ST上昇”の有無です.
- ST上昇の有無で次のように分類します.
ST上昇あり ➡ ST上昇型心筋梗塞(STEMI)
ST上昇なし ➡ 非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)
- 非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)はさらに心筋壊死を反映する心筋バイオマーカー(心筋トロポニン)の上昇の有無で次のように分類します.
心筋トロポニン上昇なし ➡ 不安定狭心症
心筋トロポニン上昇あり ➡ 非ST上昇型心筋梗塞
- 心筋トロポニンの上昇の有無は初診時だけでなく,その後(入院後)の採血結果も含めて判断します.初診の時点では不安定狭心症か非ST上昇型心筋梗塞かは必ずしも診断できません.このため初期診断は“非ST上昇型急性冠症候群”として同一に扱い,最終的に不安定狭心症か非ST上昇型心筋梗塞かを診断します.