エキスパートが教える輸液・栄養剤選択の考え方〜メディカルスタッフが知りたかった『なぜ?』

エキスパートが教える輸液・栄養剤選択の考え方

メディカルスタッフが知りたかった『なぜ?』

  • 佐々木雅也/監
  • 2020年02月28日発行
  • B6変型判
  • 256ページ
  • ISBN 978-4-7581-0909-3
  • 3,080(本体2,800円+税)
  • 在庫:あり
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第2部 病態別での選び方と使い方

2.肝疾患

馬場重樹
(滋賀医科大学医学部附属病院栄養治療部)

病態と栄養管理のポイント

1)急性肝炎

急性肝炎はウイルスやアルコール,薬剤,自己免疫機序により急激に肝障害が進む病態である.一部は劇症化するが,通常は安静により,保存的に軽快する.

食思不振がなければ原則,経口摂取を行う.また,黄疸をきたしている場合は胆汁酸の分泌が低下し,消化吸収能が低下することから脂肪は控え,糖質を中心とする.脂肪肝を防ぐ目的で過剰な栄養補給は控えることが重要である

2)劇症肝炎

劇症肝炎では安静時エネルギー量は健常者と比較し20〜30%亢進しているが,肝細胞障害のためエネルギー利用効率は著しく低下する.劇症肝炎では肝不全用アミノ酸製剤を含めたアミノ酸製剤や脂肪乳剤の使用は禁忌であり,必要に応じてインスリンコントロール下でのブドウ糖による栄養補給を行う.

3)NASH・NAFLD

非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)と非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)は肝細胞に脂肪滴が沈着することにより発症する肝障害であり,インスリン抵抗性や内臓脂肪と強く関連している.減量を目的として摂取エネルギー量を標準体重あたり25〜30 kcal/kg/日とし,脂肪量は全エネルギーの20%以下とする.たんぱく質は1.0〜1.5 kcal/kg/日とし,糖質はエネルギー制限に従って減量する.禁酒,鉄制限を推奨する.

4)慢性肝炎

慢性肝炎はB型,C型肝炎ウイルスやアルコールによるものがある.鉄過剰となると肝障害が進行するため,血液データにて鉄過剰の有無を確認し,鉄過剰の状態であれば瀉血などが選択される場合がある.また,鉄過剰とならないように1日6〜8 mg程度の鉄制限食を指導する.

5)肝硬変

肝硬変でのエネルギー必要量は栄養所要量(生活活動強度別)を目安にし,耐糖能異常がある場合は25〜30 kcal/kg(標準体重)/日とする.低アルブミン血症(血清アルブミン値3.5 g/dL以下)である場合,分岐鎖アミノ酸製剤(BCAA)を併用する.肝硬変患者においてBCAAは肝機能改善効果,合併症抑止,発がん防止などが期待される.特に呼吸商の低下,上腕周囲長の低下,血清遊離脂肪酸の低下を認める症例では脂肪の燃焼が想定されるため,就寝前補食(late evening snack:LES)や分岐鎖アミノ酸製剤にてカロリーを補給する.

栄養切替・経路切替のポイント

  • 肝硬変などの慢性肝疾患で食思不振をきたす場合には,分岐鎖アミノ酸製剤などの経腸栄養剤を考慮する
  • 肝性脳症や食道静脈瘤などで経口摂取ができない場合は,静脈栄養を考慮する

静脈栄養の実際

  • アミノレバン®点滴静注は「慢性肝障害時における脳症の改善」に対して使用可能な薬剤である
  • TPN用キット製剤やPPN用キット製剤に加えてアミノレバン®点滴静注を用いる場合は,たんぱく投与量が過剰となる場合があるため注意する.必要に応じて,ハイカリック®RFや50%ブドウ糖液をベースに輸液を組み立てる
  • アミノレバン®点滴静注を単体で投与すると低血糖をきたすこと(添付文書参照)があるため,50%ブドウ糖液 20mLを混入して投与する.また,投与後は血糖のモニタリングを行う

1)TPNを行う場合

2)PPNを行う場合

ある程度の経口摂取が可能である症例で,外来患者であれば2〜3時間程度で点滴を行う.入院患者に投与する際にはアミノレバン®点滴静注を末梢輸液と混ぜて投与する.ビーフリード®などのPPN用キット製剤との併用はたんぱく投与量が多くなりすぎる場合があり,控える方がよい.

経腸栄養の実際

  • 分岐鎖アミノ酸製剤には肝不全用経腸栄養剤と分岐鎖アミノ酸顆粒がある
  • 血清アルブミンが3.5 g/dL以下でエネルギー低栄養状態にある場合は,肝不全用経腸栄養剤を選択する.また,血清アルブミンが3.5 g/dLのみで,エネルギー低栄養状態にない場合には分岐鎖アミノ酸顆粒を用いる 1,2)

文献

  • 「肝硬変診断ガイドライン2015(改訂第2版)」(日本消化器学会/編),南江堂,2015
  • 「一般社団法人日本静脈経腸栄養学会 静脈経腸栄養テキストブック」(一般社団法人日本静脈経腸栄養学会/編),南江堂,2017
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