感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学

感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学

  • 増澤俊幸/著
  • 2020年10月02日発行
  • B5判
  • 254ページ
  • ISBN 978-4-7581-0975-8
  • 3,080(本体2,800円+税)
  • 在庫:あり
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病原体の各論編

第7章 細菌学各論

  • 代表的病原細菌の感染経路,引き起こす感染症の病態などについて説明できる.

1 グラム陽性球菌グラム陽性球菌表1図1

細菌は原核生物であり,DNAが核膜に覆われていない核様体として細胞質に存在する.また,ミトコンドリアやゴルジ体などの細胞小器官をもたないという特徴がある.細菌は,細胞壁構造の特徴からグラム陽性菌グラム陰性菌に分けられる.さらに,その形態で球菌桿菌らせん菌に分けられる.本章では,その分類に対応して,各細菌の特徴を説明する.

表1

1黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus図1①

  • 大きさ0.8×1.0 μmで,ブドウの房の様な配置をしている.
  • 手指の常在菌で,接触感染する.医療者から患者への病院内感染に注意する必要がある.
図1
関連疾患
黄色ブドウ球菌食中毒

調理者の手指から,弁当やおにぎりなど,すぐに食べない食品に混入する.保存中に食品中で増殖し,耐熱性腸管毒素(エンテロトキシン)を産生する(図2).産生された毒素は100℃,30分間の加熱に耐えるため,すでに菌が増殖し,毒素が蓄積した食物を加熱しても中毒を防ぐことができない図3).食後,1~6時間(平均潜伏期間3時間)で激しい嘔吐,下痢などの症状が現れる.感染症ではないので,発熱はない.

図2 図3
皮膚・軟部組織感染症

伝染性 膿痂疹 のうかしん ,中耳炎,副鼻腔炎, 蜂窩織炎 ほうかしきえん などの原因となる.

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)

Staphylococcal scalded skin syndrome(SSSS).表皮剥奪毒素を産生する黄色ブドウ球菌感染により皮膚の発赤や剥奪が起こり,火傷様の症状を呈する(図4).新生児ではリッター病とよばれる.

毒素性ショック症候群

発熱,皮膚の発疹,血圧低下などをきたす.生理用のタンポンを交換せずに長期使用することで発病することがある.手指の黄色ブドウ球菌がタンポンに付着し増殖するためと考えられる.

薬剤耐性菌
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症重要!

メチシリンなどのβ-ラクタム薬に耐性を獲得した黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)に起因する感染症である.なお,MRSAはメチシリンだけでなく多くの抗菌薬耐性を獲得しており,院内感染症,日和見感染症の起因菌として重要である.MRSA感染症の治療には,バンコマイシン,テイコプラニン,アルベカシン,リネゾリド,ダプトマイシンなど限られた抗菌薬しかない.MRSAに対して,抗菌薬に感受性の黄色ブドウ球菌をメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)という.

2化膿レンサ球菌(A群溶血性レンサ球菌) Streptococcus pyogenes図1②

  • 大きさ1.0 μmで,鎖の様につながっている(連鎖).
  • 皮膚,咽頭などの常在菌で,接触感染,飛沫感染する.血液寒天培地で培養すると,赤血球を溶解(図5)してコロニーの周囲に溶血環をつくる.
  • 臨床医学ではA群溶血性レンサ球菌の名称が用いられることも多い.
  • 咽頭炎,扁桃炎の原因となる.皮膚の真皮の化膿性炎症は,丹毒とよぶ.全身に及ぶと猩紅熱となる.
  • 主に幼児,小児に感染し,高熱,咽頭炎,扁桃炎,全身の発赤を呈する.舌にイチゴのような発疹があらわれるイチゴ舌が特徴である.
図5
関連疾患
劇症型溶血性レンサ球菌感染症

化膿レンサ球菌はありふれた病原菌であり,通常は,感染しても前述の咽頭炎のような症状にとどまることが多い.しかし,稀にこの菌が血液や筋,肺に侵入すると,数十時間の短時間のうちに組織の壊死,多臓器不全を起こす.このような性質から,化膿レンサ球菌は俗に「人食いバクテリア」ともよばれる.近年,患者の急増(1,000人/年)が報告されており,致死率は30%と高い.

急性糸球体腎炎

Ⅲ型アレルギーの一種である.糸球体に化膿レンサ球菌の免疫複合体が沈着し,そこにマクロファージなどの炎症細胞が集合して組織の破壊が起こる(図6①).

図6
リウマチ熱

主に4~17歳に発症する.化膿レンサ球菌に対する抗体が,類似抗原性のある心筋,関節などの組織にも免疫反応をおよぼす.Ⅱ型アレルギーの一種である(図6②).

3ストレプトコッカス・アガラクチエ(アガラクチア菌) Streptococcus agalactiae

  • ヒトの腟の常在菌で,出産時に新生児に感染し,肺炎,敗血症,髄膜炎などを起こす.本菌を妊婦が保有する場合は,母子感染を防ぐため,妊娠35~37週にペニシリンによる除菌を行う.

4肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae図1③

  • 大きさ1.0 μmの球菌で,周囲に莢膜がある.
  • 鼻腔などの常在菌である(健常者の25~50%が保有).本菌の保菌者から咳,くしゃみなどを介して飛沫感染する.
  • 莢膜をもっているため,マクロファージや好中球による食菌に抵抗する.
関連疾患
市中肺炎

小児や高齢者の肺炎の代表的起因菌である.次に多いのは,インフルエンザ菌である.

髄膜炎

小児髄膜炎の原因の20%を占める.肺炎球菌に対する予防接種を受けていない2歳以下の小児は本菌に対する免疫がないため,肺炎が進展して髄膜炎を起こしやすい.最も多いのは,インフルエンザb型菌で60%を占める.

予防

小児肺炎球菌ワクチンが定期接種A類に,成人(65歳)肺炎球菌ワクチンが定期接種B類に指定されている.

薬剤耐性菌
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)重要!

本来有効であったペニシリン系薬に耐性を獲得した.感染防御能力の低い乳幼児や60歳以上の高齢者では,肺炎からさらに重症な髄膜炎や敗血症を起こすことがある.治療には本来効果的であったペニシリン系薬が無効であるため,カルバペネム系薬などのより抗菌力の強い薬剤が必要である.臨床上問題となっている.

5腸球菌 Enterococcus faecalis, E. faecium重要!

  • ヒトや動物の腸内常在菌である.
  • 病原性は弱いが,抗MRSA薬の1つであるバンコマイシンに耐性を獲得したバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin resistant enterococci:VRE)が出現した.バンコマイシンの使用量が多い欧米では,院内感染の起因菌として問題となっている.
  • 健常者では感染しても無症状であるが,手術後の患者や感染防御機能の低下した患者では腹膜炎,術創感染症,肺炎,敗血症などの重篤な感染症を起こす.
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感染制御の基本がわかる微生物学・免疫学

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