Part 3 呼吸
1 見逃し厳禁!血液ガス2パターン
- 血液ガス検査でわかること,まずはココをみていきましょう
- 見逃し厳禁!pHと危険な血液ガスの2パターンをおさえよう
- アシドーシスが起きやすい病態を整理しよう
気道(airway)管理について一通り学んだ後は,いよいよ呼吸管理(breathing)についてです.ここでは血液ガスやSpO2,人工呼吸器,さらには体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)の話が出てきます.ICUでどんなことについて学びたい?って質問をすると,真っ先に出てくるのが「血液ガス」や「人工呼吸管理」でしょう.確かに酸素や人工呼吸器は最も多くの患者さんを救ってきましたし,これらがないと手術もできません.しかし,この何やらすごそうにみえる人工呼吸器も,誤解を恐れずにいえば,単なる患者さんサポートツールの1つにすぎません.大事なのは,ICUで治療を受けて,回復をしていく主役は患者さんであるということです.これだけは忘れないでください.
血液ガスはややこしい…
血液ガスってICUでは何回も検査をしますけど,結果の読み方とかがいまいちわかりません.アシドーシスとか.
そうね.苦手意識を持っているナースも多いから,たくさん解説本や雑誌の特集が組まれていますよね.
最初から教科書を通読するのも大変だよね.今日は効率的に勉強していくためにも,「絶対見逃してはいけない血液ガス所見」を教えるから,まずはこれをしっかり覚えよう.
藍 N s :こんな「血液ガスの結果をみたら,フラグを立てる」みたいな感じで,先生ぜひお願いします!
血液ガスは何の検査?
そもそも「血液ガス検査」は何がわかる検査でしょうか?酸素や二酸化炭素,pH(ペーハー)などがわかりますね.つまり,大きく分類すると,①呼吸に関すること,②酸塩基平衡に関すること,③その他もろもろ(電解質,血糖値,乳酸値など)の3つになります.
血液ガスは,酸素化だけでなく,いろいろな数値が1つの検査でわかる非常に便利なものです.何も考えずにルーチンで検査をせずに,どの項目が知りたいのか,目的を考えることが大事です.例えば,朝6時の血液ガスや,抜管30分後の血液ガスってよく採血されますよね.これらは何がみたくて検査をしているのかを考えましょう.
項目のうち呼吸にかかわるのは,PaO2(動脈血酸素分圧,すなわち酸素化)やPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧,すなわち換気)であることはわかると思います.重炭酸イオン濃度(HCO3-)はあまり見慣れないものですが,これは酸塩基平衡(pH)にかかわるものです.動脈血のpHは正常値7.40ですが,これはHCO3-とPaCO2によって絶妙にバランスをとっています.そのため,PaCO2は呼吸(換気)だけでなく,酸塩基平衡にもかかわっています.それぞれがオーバーラップしているからわかりづらいですが,ちょっとずつ勉強していきましょう(図1).
血液ガスで一番最初にみるのは?
藍 N s :血液ガスの結果って,まずは何からみていけばいいんですか?いつもあれこれ考えてしまって…
天 使 :それはなんのために血液ガス検査をしたかによると思うんだけど,まあ大雑把にいうと,酸塩基平衡と呼吸状態のどちらを知りたいのか?ってことよね?
早川Dr :呼吸状態ってSpO2とか他の数値でも結構わかるから,やっぱり酸塩基平衡からかな.だから一番最初にみるのはズバリ,「pH」だね!一番上に書いてあるから,やっぱり一番大事なんだと思う.
藍 N s :確かに,一番上に書いてありますね.
志宇Ns :pHって酸性とかアルカリ性とかそういうものですよね.
早川Dr :うん,そうだよ.そのpH,正常値って覚えている?
志宇Ns :それは覚えています.pHの正常値は7.40です.
「 pH 」ってすごいんですよ
人間の血液ってすごくて,そのpHは普段はず~っとほぼ7.40に維持されています.コロナ禍で毎日体温を測定するようになりましたが,筆者は平熱が36.3℃ぐらいなんです.でもその数値,ほぼ毎日同じ.変わってもせいぜい0.1℃とか0.2℃の範囲内に収まっています.気温が30℃を超える暑~い日でも,雪の降る寒~い日でも,体温って0.1℃単位でほぼ毎日同じ値.すごい仕組みだと思いませんか?これはいわゆる恒常性といいます.血液のpHも同じで,まわりの影響でいろいろ変化するはずなのに,いつも7.40に維持されています.これがずれちゃっていたら大変!なことです.
皆さんは,体温がどれぐらいずれていると異常事態ととらえるでしょうか?発熱で考えるとまあ,38℃を超えていたら何か起こってるかも?39℃を超えていたら結構やばそうって思いますよね.pHに関しては,低い方がやばくて(酸血症:アシデミア),通常pHが7.35を下回ったら,何か異常があるかも?7.30を切ったら命にかかわることもあるから赤信号と捉えた方がいいです.
血液ガスの結果が出たら…
- まずはpHをみる
- アルカレミアよりアシデミアに注意
- pHが7.35以下は何かあるかも(黄色信号)? pH7.30以下は危険かも(赤信号)!