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第1章 脳疾患
1B.脳卒中(回復期)
佐藤房郎
(東北保健医療専門学校)
1脳卒中は血管病変が主体であるため,リスクの把握と全身的な管理が不可欠である
2リハビリテーション評価では,脳の損傷領域と麻痺の重症度を判定し,機能回復や社会復帰に影響する情報を収集する
3画像所見より大まかな機能障害が予測できるが,詳細な予後予測は難しい
4画像所見と神経症候学的な徴候に矛盾がないか確認する
1脳損傷患者の障害構造のとらえ方と治療の概念
- 脳損傷による機能障害を,入力系,出力系,情報処理系の問題としてとらえる.
- 個人が示す姿勢や動作パターンは,与えられた環境と運動課題に残存する機能で適応しようとした結果ととらえる(ダイナミックシステム理論1)).
- リハビリテーションでは,環境の変化に柔軟に適応できるようにシステムの再構築を促す.
- 運動療法では,行為を保証する姿勢制御の改善が鍵を握る.運動連鎖を促して支持基底面内の重心移動範囲を拡大する.
- 歩行やバランスの改善には,正中軸の獲得とコアスタビリティーが重要である.
- 移動能力を実用化するためには,耐久性向上を促すトレーニングが必須である.
- 機能障害に対応した動作パターンの指導と能力障害に対応した環境整備を進める.
2リハビリテーション評価
- 表1に評価の目的と対応する各種検査・情報をまとめた.
1)基本情報の収集
- カルテより以下のような情報を収集し,発症に至った経緯を理解するとともに,運動療法を展開するうえで注意しなければならないリスク管理情報を確認する.転院してきたケースについては,前施設の介入内容と経過をふまえ,方針を決定する.
- ❶現病歴と既往歴:脳卒中は血管病変が主体であるため,再発や他臓器への影響を考慮する.また,内部障害・骨関節疾患・精神疾患などの併存症がある場合は,リハビリテーションの進行に影響する.併存症の治療歴や管理状態について把握する.
- ❷家族歴や家族構成:再発予防,生活指導,介護力の判断などに重要な情報になる.
- ❸前施設からの申し送り:麻痺の回復状況や動作指導がどこまで行われているか確認する.予後予測に利用する.
- ❹病棟での安静度:離床を促す際に不可欠な情報である.運動中のバイタルサインが安定していれば,病室からリハビリテーションユニットに移動してトレーニングできる.タイムリーな情報を主治医に伝え,安静度拡大へ導く.
- ❺運動に影響するような投薬情報:鎮静を目的に処方されている薬剤はパフォーマンスに影響するため,注意が必要である.
2)画像所見(図1)
- 画像所見より大まかな機能障害が予測できるが,詳細な予後予測は現段階では難しい2).
- 神経症候学的な徴候や検査結果と矛盾していないかを確認する.
3)意識レベルの評価
- 代表的なものとして,Japan Coma Scale(JCS)やGlasgow Coma Scale(GCS)が用いられる(総論2参照).
- 意識レベルは脳の活動状態を意味する.覚醒が安定しない段階では,麻痺の重症度や高次脳機能障害を正確に把握できない.
4)問診
- 適切なリハビリテーションゴールを設定するため,主訴や要望を把握する.
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〈文献〉
- 高橋 明:運動制御:論点と理論.「モーターコントロール 原著第3 版」(Cook AS/ 編,田中 繁,高橋 明/ 監訳,中谷敬明,他/ 訳),医歯薬出版.pp2-19,2009
- 「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕」(日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会/ 編),協和企画,2023