本書を一部お読みいただけます
第2章 呼吸器疾患のリハビリテーション
3.外科手術後の急性呼吸不全
間瀬教史
(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科)
1手術侵襲,内部環境を把握する
2リスクを把握し積極的,かつ段階的に早期離床を進める
3PICSの予防に努める
4肺胞換気を悪化させている病態を把握する
5体位変換を積極的に用い,肺胞換気を改善する
1呼吸練習に固執しない
2リスクを考慮しない早期離床は行わない
1リハビリテ−ション評価
1)情報収集①:手術前
- 主治医,看護師からの情報やカルテから,個々の患者のもつ内部環境(年齢,性,肺機能・心機能・腎機能の状態,疾患名,合併症)について把握する.その他,喫煙歴,肥満度などの情報を集める.
- 喫煙者は,末梢気道の狭窄や気腫変化を起こしている可能性が高いだけでなく,線毛運動が低下していたり,気道内分泌物が多くなっていたりするため注意が必要である.
- 肥満は,手術後に腹部脂肪の重みが腹圧を上げるため,横隔膜の下降運動を抑制し,術後の拘束性換気障害の原因となる.
- 高齢者,認知症合併,精神疾患の既往がある例では,手術後にせん妄,不穏・興奮が生じやすい.
2)情報収集②:手術後
A.全身状態と手術侵襲の把握
- まず,①医師,看護師からの情報,②看護記録からのバイタルサインの経過・投薬内容,③心電図・SpO2・血圧などのモニター,から全身状態を把握する.
- 手術部位・手術時の体位・時間・出血量などの手術侵襲について把握する.
- 心不全,腎不全,肝不全など肺以外の臓器障害,せん妄,不穏・興奮などの精神・心理状態を把握する.
B.画像(胸部X線・CT),手術部位などから換気不全部位とその病態を把握・予測する
- 胸部X線・CTから換気不全部位とその病態について多くの情報を得ることができる.特に胸部X線は急性期では毎日撮影されることも多いため,その経過についても把握しておく.
- 手術部位により換気不全が生じやすい部位がある.上腹部手術の場合,両側の下葉に換気不全が生じやすい.開胸を伴う場合,開胸側の肺野に換気不全が生じやすい.
C.手術中・後の体液の水分出納と,それによる肺水腫や胸水などのリスクを把握する
- 手術中および術後は,経時的に体液の水分出納を把握し,血管内の血漿量(循環血漿量),組織間液の推移を把握する.基本的には,水分が体内に過剰(INバランス)となっているのか,過小(OUTバランス)となっているのかを把握する.
- 手術中・後の体液の水分出納を把握するために必要な項目を,①体に入る水分,②体から排出される水分,に分けて表2に示した.
- 例えば,体重60 kgの患者に手術後1日で輸液を2,000 mL行えば,代謝水300 mL(60 kg×5 mL)を合わせ体に入る水分量は合計2,300 mLとなる.排出される水分が出血300 mL,尿量800 mL,不感蒸泄量900 mL(60 kg×15 mL)で合計2,000 mLあったとすると,体の水分出納は300 mLのINバランスとなる.
- 水分出納が把握できれば,体液が過剰な場合に生じやすい肺水腫,胸水など肺胞換気を低下させる要因の経過を予測しやすくなる.例えば,INバランスの場合,肺水腫や胸水は今後悪化し,肺胞換気も悪化することが予測される.逆に,OUTバランスであれば,それらの病態は改善の方向に向かうことが予測される(図7).
続きは書籍にてご覧ください