第1章 脳の構造と働き
3 大脳新皮質
佐々木信幸
(聖マリアンナ医科大学リハビリテーション医学講座)
(中略)
運動前野と補足運動野(高次運動野)(図13)
随意運動の基本は一次運動野からの錐体路(第5章)ですが,適切な動作には適切な準備・企画が必要です.例えばリンゴの皮をナイフで剥く際には,手とリンゴの位置関係や手順,力の加減等さまざまな情報を参照し実際の行動に移します.
運動前野(premotor cortex:PM)は一次運動野前方の外側にあり,これから行おうとする動作の準備や企画にかかわります.視床を経由して小脳と強い連携を有しており(本稿),前述の頭頂葉で作成したプレゼン資料を手がかりに動作軌道の準備や誤差修正の企画を行います.PMはさらに上頭頂小葉(BA5, 7,特にBA7)と連絡する背側運動前野(dorsal premotor cortex:PMd)と下頭頂小葉(BA39, 40)と連絡する腹側運動前野(ventral premotor cortex:PMv)に分かれ,PMdは「身体がどうなっているか」という自身の空間情報(身体図式)をもとに特に上肢のリーチ動作にかかわるのに対し,PMvは「動作を行う対象物(道具など)がどうなっているか」という非自身の空間情報(身体イメージ)をもとに手指の細かな動作や道具の使い方を準備します.
補足運動野(supplementary motor area:SMA)は一次運動野前方の内側にありPMと同様に動作の準備・企画にかかわりますが,PMが参照する情報は外的手がかりなのに対し,SMAは内的手がかり,つまり情動や記憶を参照します.SMA前方部(前補足運動野:pre SMA)がより上位の中枢であり,前頭葉底部から上行してくる行動開始の意志を受け取ります.後方部(caudal SMA,狭義の補足運動野)は目的行動に必要な複数の動作手順を設定します.この部分は大脳基底核と強い連携を有し,後述する大脳皮質-大脳基底核ループにおける時空間的促通・抑制(本稿)も動作手順に重要な働きを担うと考えられます.
なおSMAは大脳縦裂を境に左右で隣り合っています.つまり両足での歩行や両手で料理を載せたお盆を運ぶなど,左右身体動作の協調や相互抑制にも強くかかわっています(図14).