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第5章 膝
1. 前十字靱帯損傷,再建術
相澤純也
(順天堂大学大学院保健医療学研究科理学療法学専攻)
1患部の筋萎縮,柔軟性低下,可動域制限を最小限に留める
2再受傷につながる機能不全やアライメント不良を修正する
3参加スポーツの特徴を考慮して段階的な動作練習を計画・実施する
1再建靱帯(グラフト)の靱帯化・成熟過程を阻害しない
2術側膝以外の機能不全やアライメント不良を見逃さない
1情報収集
- ACLを含めた膝関節損傷の有無や程度について画像所見を確認する.
- 受傷の状況や受傷後の経過を整理する.
- スポーツの種類,ポジション,レベル,復帰希望時期などについて情報を整理する.
- ACL再建術の日時,術式(使用グラフト,ルート,創部),禁忌・留意点を手術記録で確認したうえで,患者や術式の個別性に関する詳細を執刀医師に直接確認する.
2患者を前にまず行うこと
- リハビリテーション室に入室する際の歩容・歩行補助具,表情を確認し,症状や心理状態を推察する.
- 自己紹介と氏名・年齢確認の後に症状を含めて主訴を確認する.
- 膝伸展制限,大腿四頭筋活動低下,創部痛など,再建術後早期に一般的に問題になりやすい症状や機能不全を説明し,現時点でどの程度注意する必要があるのか共有しておく.
- 歩行補助具や装具を使用している場合はそれらの目的や注意点を改めて確認する.
- 歩行(歩行補助具なし),ジョギング,スポーツ復帰を判断する時期を含めておおまかなスケジュールを共有しておく.
3リハビリテーション評価
- 再建術後は手術侵襲による痛み,腫脹,可動域制限が生じ,一定期間は膝周囲筋活動や全荷重は困難となる.
- 痛みや防御性筋収縮により膝伸展制限が生じやすい.
- 痛み,恐怖心,関節腫脹,伸展制限,廃用などにより,特に大腿四頭筋に活動低下や萎縮が生じやすい.
- 基本動作やエクササイズにおいて不安・恐怖,痛み,機能不全を回避,代償するために運動・動作不良が生じやすい.
- 過度な膝外反などのアライメント不良が受傷前から習慣化している場合も多く,再建術後,数カ月経過しても習慣性・代償性のアライメント不良が残存しやすい.
- 走行やジャンプ着地,アジリティが可能になりスポーツ動作練習を開始しても膝筋力や片脚ホップ能力の非対称性は残存しやすい.
1)関節腫脹
- 膝関節の腫脹の程度や軽減・増悪傾向を膝蓋跳動テスト(図6)や周径で確認する.
- 周径は膝蓋骨の直上や5cm近位で計測し,その左右差を確認する.
2)痛み
- 損傷や炎症による痛みの程度,軽減・増悪傾向を11段階のnumerical rating scale(NRS)や100 mmの線を用いたvisual analogue scale(VAS)で数値化する.
- 安静時,立位・歩行時,特定の日常生活活動時などに分けて確認する.
3)関節可動域
- 膝の伸展,屈曲角度をゴニオメーターで計測し,過少・過大や左右差を確認する.
- 自動運動での可動角度も確認する.
- 非受傷側も膝の過伸展の有無や角度を確認する.
- 再建術後では膝の完全伸展や深屈曲が一定期間禁忌とされる場合もあるため,あらかじめ主治医に確認しておく.
4)筋機能
- 下肢の筋萎縮の程度や左右差を視診・触診と周径で確認する.
- 大腿四頭筋活動の不全や改善の程度は等尺性収縮中の筋のボリュームや硬さから推察する(図7).
- 術後2〜3カ月が経過し膝の最大筋力測定が可能な場合は等尺性や等運動性の最大トルクを測定する.
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