第6章 ESD
1 ESDの基本戦略
鴫田賢次郎, 永田信二
(広島市立安佐市民病院内視鏡内科, 広島市立安佐市民病院消化器内科)
1ESDの基本手技の流れ
1)自分に完遂できる病変かどうか判断する
大腸ESDは病変の局在やスコープの操作性などで治療難易度が大きく変動するため,術前精査時に自分の技量で治療可能かどうか,どのような工夫が必要かを予測しておくことが必要である.具体的には,ヒダにまたがる病変,屈曲部に存在する病変,正面視となり筋層と対峙する病変,スコープ操作性不良,病変近傍に憩室の存在,虫垂開口部,痔核上,治療後再発などの高度線維化,cT1b癌などの治療困難因子があれば,穿孔率や不完全切除割合が増加する1)ため,ハイボリュームセンターでの治療を考慮する.
2)スコープの選択,先端フードの選択
スコープ反転操作でESDを行う場合は,反転のしやすい細型の処置用スコープを選択するのがよい.ただし,細径のスコープでは深部大腸への挿入が難しく操作性不良となる場合があるため,実際の視野や操作性に合わせてスコープを適宜選択することが必要である.操作性不良がわかっている場合は,あらかじめシングルバルーンスライディングチューブ2)を準備しておく.
先端フードは,視野の広い平行フード,潜り込みに優れたSTフード,その中間のSTショートフードがあり,病変の特徴に合わせてフードの選択を行う.
スコープ反転可能な場合と不能な場合での戦略の違いを教えてください
A1反転可能な場合は基本的に反転で治療を開始し,反転不能の場合はスコープが不安定であればpocket-creation methodなどの工夫を用いる
反転操作で治療を行うと腸管が適度に伸展されスコープが固定されるため安定した操作性が得られる場合が多く,基本的には反転可能な場合は反転で治療を開始する.ただし,反転した場合に病変がスコープとヒダで押さえつけられる位置にくる場合は,スコープ操作が難しくなることがある(図1).
反転不能であってもスコープの操作性が安定していれば基本戦略は同じであるが,反転できずに呼吸性変動や操作性不良などの影響を強く受ける場合には,pocket-creation method3)を使用するとよい.
3)体位変換
重力と粘膜の張力をうまく利用することが効率的なESDのコツであり,重力を利用するためのよい体位を常に意識する.
基本的には病変を水のたまる位置の対側に持ってくることにより,重力による張力が病変にかかり,切開剥離時の展開がしやすくなる.ただし,体位変換で病変が正面視になったり,操作性が悪くなったりするようなら,切開しやすい体位を優先することもある.また治療の途中においても,切開や剥離に最適な張力を維持するように適宜体位を変更する.
4)切開(動画1)
フラップを作成しやすいように弧状の切開を行う.反転でアプローチする場合は口側から,順方向からアプローチする場合は肛門側から切開を開始する.全周切開をすると局注が抜けやすくなり粘膜下層の膨隆が保てなくなるため,全周切開は行わない.切開に続いてトリミングを行い粘膜フラップを作成をするが,緩やかな角度で粘膜下層に潜り込めるように病変から少し距離をとって切開するのがよい(図2).
病変の遠位側のトリミング時に,それまでの切開方向と逆方向からのアプローチが不可能な場合は,切開ラインの病変側ではなく,病変と対側の正常粘膜の下をトリミングするようにすることで安全に施行できる(図3).トリミングが不十分だと,最終ラインに気づかずに正常粘膜の下に潜ってしまうことがある(図4).
先端系デバイスを安定して動かすスコープの振り方を教えてください
A2基本的にはスコープの捻りによる回転を利用する
デバイスを動かすには,①スコープの出し入れによる前後の動き,②スコープの捻りによる回転,③上下アングル,④左右アングルを組み合わせるが,病変が6時方向にある場合は,基本的にはスコープの捻りを使用する.右に振るときは反時計回りに,左に振るときは時計回りにスコープを捻ること,アングルは位置調整程度に使用することで,安定したスコープ操作が得られる(図5).
また,病変が3時方向,9時方向の場合はアップアングルを使って縦方向に動かすと安定して切開することができる(図6).
うまく粘膜下層に潜るコツを教えてください
A3いきなり筋層直上を剥離するのではなく,徐々に深い層へ入っていく
トリミング時に,①切開ライン病変側の下面をなぞる(粘膜下層の上1/3)→②粘膜下層の青色の濃い部位をなぞる(粘膜下層の中央)→③筋層を確認しながら筋層の上をなぞる(粘膜下層の下1/3〜筋層直上)の順に,徐々に深い層に入っていくようにすることで,穿孔を避け安全に粘膜下層に潜ることができる(図7,8).また,切開ラインの粘膜下層で線維がつっぱっている部位があれば,その線維を切ることで粘膜の張力により切開ラインが大きく開き,効率的なトリミングとなる(図9).
5)剥離(動画2)
適切なフラップができれば,フードを使用して粘膜下層を展開し,粘膜下層に適度なテンションがかかった視野をつくる→視野を動かさずにナイフを出す→剥離する→潜り直しフードでテンションをかけよい視野を出す→ナイフを出す→剥離する,をくり返す.
適度なテンションがかかったよい視野をつくるためには,フードで潜り込みすぎず,適切な距離を保つことが重要である.潜り込みすぎると筋層方向にナイフが向いて危険になるだけでなく,フラップの中でスコープの動きが制限されナイフを自由に振ることができなくなる.
6)基本的な切除手順
病変手前の切開剥離→病変の左右の切開剥離(重力のかかる側から)→病変中央の剥離→病変の奥側の切開→病変の奥側の剥離,の順に切除を進めていく(図10).病変手前の切開剥離後,すぐに病変中央の剥離と手順を進めてしまうと,病変の左右の端が三角形に残ってしまい,粘膜下層が膨隆せずテンションもかけにくく剥離が困難になることがある(図11).
2hybrid ESDの手技の流れ
基本的な切開と剥離はESDと同様であるが,hybrid ESDでは最後はスネアにて切除するため,フラップを作って粘膜下層にしっかり潜り込むというよりは,トリミングをしっかり行いスネアが十分に粘膜下層に食い込む程度まで剥離を行えばよいため,途中で全周切開を行ってもよい.
辺縁の剥離不足があればスネアがすべってしまい分割切除になってしまうこと,病変の挙上が不十分であれば病変切除時に中央が取り残されることがあること,筋層までスネアがかかれば穿孔してしまうことなどには注意が必要である.スネアリング時に粘膜下層に潜ってスネアの両端が見えるようにコントロールすることができれば安全に切除が可能である(図12).
文献
- Hayashi N, et al:Predictors of incomplete resection and perforation associated with endoscopic submucosal dissection for colorectal tumors. Gastrointest Endosc, 79:427-435, 2014
- Asayama N, et al:Clinical usefulness of a single-use splinting tube for poor endoscope operability in deep colonic endoscopic submucosal dissection. Endosc Int Open, 4:E614-E617, 2016
- Hayashi Y, et al:Pocket-creation method of endoscopic submucosal dissection to achieve en bloc resection of giant colorectal subpedunculated neoplastic lesions. Endoscopy, 46 Suppl 1 UCTN:E421-E422, 2014