Ⅱ消化器内視鏡検査をはじめよう!
下部消化管内視鏡検査
検査前にやるべきこと
備えあれば憂いなし.検査前に勝負は決まっている?
村元 喬
(NTT東日本関東病院 消化管内科)
「備えあれば憂いなし」ということわざがあるように,物事を行う際には準備こそが大切です.患者側の準備(前処置・前投薬)だけではなく,症例に合わせた術者側の準備(スコープ・物品など)もより質の高い大腸内視鏡検査を提供するうえで,非常に重要になります.
1準備物
必要になってから物品を準備するのではなく,検査前にあらかじめルーチン検査に必要な物品は準備しておきます.当院では,下部消化管内視鏡検査にあたり下記の物品をルーチンで準備しています(図1).
- ガスコン®水(図1🅓):腸管や病変の洗浄に使用します.50 mLのシリンジに入れて鉗子口から直接使用します(上部消化管の際も同様)
- インジゴカルミン撒布液(0.2%)(図1🅑🅒):病変の観察の際に使用します.インジゴカルミンは病変の境界や凹凸の様子など,全体像を把握するために有用です.20 mLのシリンジに空気とともに入れ,鉗子口より直接撒布します
- ガーゼ
- ゼリー(キシロカイン®は使用していません)
- フード(内視鏡の先端に装着します)
- CO2送気:ガスの貯留による苦痛を抑えます(図1🅔🅕)
また,拡大内視鏡で早期大腸がんや大腸腺腫の精密検査を行う際には,上記に加えて追加の準備が必要となります(図2).
- non-traumatic tube(染色チューブ)(図2🅐):病変の観察,洗浄,クリスタルバイオレット染色の際に使用する.大きさの目安(先端3 mm)ともなります
- クリスタルバイオレット染色液(0.05%)(図2🅑):拡大内視鏡によるpit pattern診断の際に使用します.クリスタルバイオレット(0.2%)を4倍に薄め,non-traumatic tubeを用いて病変部に滴下し,20~30秒程度染色します
治療内視鏡の際には,処置具として局注針・スネア・クリップなどが必要となりますが,これらに関しては内視鏡治療の項(Ⅲ-A-2参照)に委ねます.
2前処置・前投薬
1)前処置
十分に腸管内洗浄を行うことは,良好な視野の確保のみならず,治療時に穿孔や遅発性穿孔を生じた際の便汁による汎発性腹膜炎の重篤化を防ぐためにも非常に重要です.しかしながら,消化管狭窄が疑われる場合には禁忌であり,腸の炎症が強い場合にも慎重に投与する必要があります1).
■当院における前処置
- 外来検査:前日は可能な限り検査食(クリアスルー:キユーピー)を摂取,眠前にピコスルファートナトリウム内容液0.75%を内服し,治療当日は経口腸管洗浄液としてPEG+アスコルビン酸(モビプレップ®)1.5 LもしくはPEG(ニフレック®)2 Lを服用します.消泡剤としてジメチコン錠を腸管洗浄液内服の際に併用しています.
- 入院治療:治療前日に入院し,夕食までは大腸検査食の摂取としています.夕食後にクエン酸マグネシウム(マグコロール®),眠前にピコスルファートナトリウム内容液を内服し,治療当日は経口腸管洗浄液としてPEG+アスコルビン酸(モビプレップ®)1.0~1.5 LもしくはPEG(ニフレック®)2 Lを服用します.消泡剤としてジメチコン(バロス消泡内用液)を腸管洗浄液に混ぜて内服しています.
内服開始時間は検査,治療開始の時間に応じて適宜調節しており,前処置が不良の場合には腸管洗浄液を追加しています.
2)前投薬
■鎮痙薬
腸管蠕動が激しい状況では,挿入が難しくなるだけではなく詳細な観察や確実な治療が困難となるため,可能な限り鎮痙薬を使用して検査を行う必要があります.心疾患,緑内障や前立腺肥大症など禁忌となるような疾患がないようであれば,基本的にはブチルスコポラミン臭化物を使用し,使用できなければグルカゴン(グルカゴンGノボ)の使用を考慮します.いずれの場合も,検査開始時に半量投与し,検査中に蠕動が起こるようであれば残りの半量を投与します.
■鎮静薬
内視鏡診療は極力患者の不安や疼痛を取り除くことが大切です.それはすなわち安定した条件・術野を確保して処置を行うことを可能とし,良好な治療成績につながると考えています.当院では,年齢問わず可能な限りフルニトラゼパム(サイレース®)の静注による鎮静を行っており,ESDのような治療内視鏡の際には,鎮痛薬のブプレノルフィン塩酸塩(レペタン®)も併用しています.
鎮静薬使用の際には,脈拍と経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)のモニタリングを常時行う必要があり,5分間隔で血圧の測定を行っています2).また,最近では長時間となるような治療の際には,麻酔科同席によるプロポフォールによる鎮静も導入しています.
■当院における鎮痙薬・鎮静薬の基本使用例
- ブチルスコポラミン臭化物0.5 A
- フルニトラゼパム(サイレース®)0.3~0.5 mg
3患者の体位
1)挿入時
挿入時は左側臥位とし,RsからS状結腸に挿入できたところで仰臥位に体位変換を行います.仰臥位でスムーズに挿入できる際には,仰臥位のままで盲腸まで挿入します.挿入困難な際には,S状結腸で右側臥位,肝彎局部で左側臥位にすることで,挿入がスムーズになることがあります.
2)観察時
盲腸からS状結腸までは仰臥位,S状結腸遠位から直腸は左側臥位で観察します.脾彎曲部から下行結腸で腸管の伸展が不良の際には,左腰を少し上げることで腸管の伸展が良好となり観察しやすくなります.
4術者の姿勢
検査台は,検査医が疲れずに操作しやすい高さとしましょう.高すぎると力が入り操作しづらく,むしろ低い方が力が抜け,処置内視鏡の際にも操作しやすいです(図3).右手はスコープを肛門から約30 cm離し,握りしめないようにソフトにもちます.体全体も力を入れ過ぎずにリラックスするように心がけましょう(図4).また,スコープの先端から右手までが常に直線化しているように意識してもつことが大切です.
5スコープの選択
安全かつ苦痛なく大腸内視鏡を挿入するためには,スコープの特性を知り患者の状態に合わせたスコープの選択が必要となります.一般的には,スコープの外径が細ければ軟らかく,太ければ硬くなります3)(図5).
1)太いスコープ
腸管のたわみによる影響を受けにくいため,スコープの直線化を保持しやすいです.適応としては,太った患者や極端に腸が長い患者,軸保持短縮による挿入のトレーニング目的の使用などがあげられます.細いスコープよりは挿入性に劣り,小柄な女性,多発憩室や手術後の癒着症例などでは疼痛が生じやすく,無理な挿入は穿孔のリスクを伴うために注意が必要です.
2)細いスコープ
軟らかく,先端硬性部が短いために小回りが利きます.適応としては,高齢者や小柄な女性,多発憩室や腹部手術後の癒着症例,苦痛を与えないようにする健診目的の使用などがあげられます.
3)細径スコープ
多発憩室や腹部手術後の癒着症例で,細いスコープを使用しても抵抗感が強く疼痛が強く出てしまう場合に細径スコープ(PCF-PQ260L:オリンパス)を使用することで,疼痛を最小限にすることができます.
4)送水機能付きスコープ
粘膜下層剥離術(ESD)のような内視鏡治療や出血による緊急内視鏡の際には,送水機能(water jet)付きスコープが適宜洗浄できるため有用です.
挿入の際に赤玉になります.次の管腔がどこになるのかわかりません.
フードを使用することで赤玉にならず,至適距離が容易に保てるようになるため,挿入がしやすくなります.われわれは先端フード(通称:黒フード)をルーチンで使用しています.黒フードはレンズに被らないように装着することが可能であり,視野の妨げになることもありません(図6,7).また,フードを使用することでひだ裏の観察が容易となったり,全体の送気量が減ることで患者の苦痛を軽減するなど挿入以外のメリットもあります.
検査時のスコープ選択がわかりません.
前に記載したように,性別や体型で大まかに使い分けることはできます.しかしながら当院では,所見用紙に必ず「使用スコープ」「盲腸到達時間」「挿入法」「苦痛度」を記載することで,次回検査時に苦痛の少ない検査ができるように有用な情報として残しています.
6検査中の心構え
初学者は大腸内視鏡検査といえば挿入法に興味が捉われがちですが,大腸内視鏡検査の目的は,あくまで「病気を発見し的確に診断・治療する」ことです.
胃カメラ同様に上手な先生ほど力が抜けています.準備物やスコープ,薬剤,患者さんの体位など場を整えることはとても大切です.技術は一朝一夕に身につきませんが,準備は今日からできることです.上手な先生ほど整然とした環境でリラックスして検査をしているものです.
〈大圃 研〉
文献
- 「消化器内視鏡ガイドライン(第3版)」(日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会/編),pp94-104,医学書院,2006
- 小越和栄,他:消化器内視鏡リスクマネージメント.日本消化器内視鏡学会雑誌,46:2600-2609,2004
- 「消化器内視鏡ハンドブック」(日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会/編),pp319-320,日本メディカルセンター,2012