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第3章 トラブルシューティングの実際【治療編】
🅐 ERCP
11 内視鏡的乳頭切除術(EP)後のトラブルシューティング
山本健治郎
(東京医科大学臨床医学系消化器内科学分野)
- 出血はクリップやAPCによる止血処置を行う.困難例にはHSEの局注を併用する
- 穿孔は術中の穿孔部位の同定や透視画面での異常ガス像(free air)を見逃さない
- 胆管・膵管口狭窄は内視鏡的狭窄部拡張術で対処可能である
- 遺残再発病変はスネアや生検鉗子を用いた追加切除やAPC焼灼術で対処可能である
はじめに
十二指腸乳頭部腫瘍に対する内視鏡的乳頭切除術(endoscopic papillectomy:EP)は,腺腫や腺腫内癌に対する根治的治療としてhigh volume centerを中心に現在多くの施設で施行されるようになった1~3).EPは,外科的手術に比べれば低侵襲であり,かつ遺残再発病変に対して追加治療が可能な利点を有するものの,ERCP関連手技においては難易度が高く,かつ侵襲性の高い手技であり,その偶発症や遺残再発病変への対策は臨床上きわめて重要である.
1出血
EP後出血には,処置時に発生する “術中出血” と,処置数日後に発生する “遅発性出血” がある.
A)術中出血
軽度であればエピネフリン溶解液や凝固止血液の散布で対処可能であるものの,後述する遅発性出血は胆汁や膵液に曝露されやすい切除面肛門側からのものが多いため,予防もかねて術中出血はクリップによる縫縮止血にて対処する(図1).
B)遅発性出血
- 通電切除時の焼灼作用により潰瘍形成された切除面の露出血管からの出血が多い.
- 出血部位を生理食塩水でよく洗浄し,出血点を同定し,露出血管が同定されたら,クリップ(図2)やアルゴンプラズマ凝固(argon plasma coagulation:APC)(図3)による止血処置を行う.
- 露出血管が太い場合や噴出性の出血の場合,クリップやAPC単独では止血困難なことも多く,高張Naエピネフリン(hypertonic sodium epinephrine:HSE)の局注を併用して止血を行うとよい(図4).
- 近年発売されたマイクロテック社製のSureClip(図5ⓐ)は,つかみ直しが可能であり(図5ⓑ),かつ滑らかな回転機能を有する(図5ⓒ)装填準備が不要な一体型クリップである.
モノポーラー止血鉗子を用いた止血処置は,過度の焼灼により再出血や膵炎,遅発性穿孔のリスクとなる可能性があるため,その使用は控えるべきである.
2穿孔
穿孔は,術中の内視鏡画面での穿孔部位の同定の他,X線透視画面での肝腎周囲の異常ガス像(free air),造影剤の漏出や処置具の位置異常などを契機に診断される.術中に穿孔を診断した際は穿孔部位をクリップで縫縮することや胆汁や膵液の腹腔内への漏出を防ぐために経鼻ドレナージチューブを留置することで対応可能である(図6).
側方進展を伴う大きな病変に対しては,切除前に側方進展部へ局注することで穿孔予防効果があると考えられている.
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文献
- Yamamoto K, et al:Expanding the indication of endoscopic papillectomy for T1a ampullary carcinoma. Dig Endosc, 31:188-196, 2019
- Yamamoto K, et al:Clinical Impact of Piecemeal Resection Concerning the Lateral Spread of Ampullary Adenomas. Intern Med, 58:901-906, 2019
- Yamamoto K, et al:Insights and updates on endoscopic papillectomy. Expert Rev Gastroenterol Hepatol, 14:435-444, 2020