書 評
内藤裕二
(京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学 教授)
札幌医科大学の仲瀬裕志教授が執筆された「すべての臨床医が知っておきたいIBDの診かた」と題する本の書評を依頼された.仲瀬先生は京都大学大学院のご出身で,若い頃からIBD領域の臨床,研究で活躍されていて京都・滋賀地域のIBD診療に大きな貢献をされ,平成28年に札幌医科大学の教授に就任された.京都消化器医会の先生と送別会をしたことを鮮明に記憶している.
さて,本書を読むにあたりいくつかの重要なポイントがある.IBDはわが国では20万人を超える患者さんが罹患し,専門医だけでは十分な診療が不可能になってきている.さらに,ここ数年の多くの分子標的治療薬の登場により,IBD診療も大きく変化しつつある.新規治療薬が続々と登場してきているが,その寛解導入効果,維持効果は90%にははるかに及ばない.IBDの病態の理解,治療法の選択のためには免疫学的な理解が必須になってきている.本書の最大の特徴は,基礎免疫学ではなく,IBDを診る医師としての臨床免疫学のエッセンスが含まれていることである.私は,仲瀬先生のこれまでのお仕事の内容に精通しているために,本書はすべて彼自身によって書かれたものであることが理解できる.行間に彼がこれまでの講演で述べてきたIBD診療に対する情熱が読みとれ,大変興味深い.IBDの専門医だけでなく,消化器内科医,消化器外科医,メディカルスタッフ,多くの開業あるいは勤務医の皆さんにも役立つ書であることは間違いなく,診療の場においての辞書となると思える.
ところで,本書は「すべての臨床医が知っておきたい」シリーズの1冊であるが,本シリーズは医学書としてはよく売れているようだ.不思議なことに,購読者層は意外にも医師だけでなく,一般の人,企業の方にも広がっているようである.理由は,一般国民は医師がどのようなことを考えているのかを知りたい欲求があるようである.逆に,患者さんが本書を熟読して主治医に問いかける場も予想される.私も早々に本書を手に,IBD患者さんの診かたを再勉強しているところである.IBD診療では治療目標が達成されていないにもかかわらず,治療が適切に強化されていないクリニカルイナーシャといった問題が存在している.その問題を知り,解決するためには,彼のような情熱が必要であろう.