胆膵内視鏡 診断・治療の基本手技 第4版

胆膵内視鏡 診断・治療の基本手技 第4版

  • 糸井隆夫/編
  • 2023年10月30日発行
  • B5判
  • 352ページ
  • ISBN 978-4-7581-1081-5
  • 10,450(本体9,500円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 EUS関連手技

8)EUS-PD(EUS 下膵管ドレナージ)

向井俊太郎
(東京医科大学臨床医学系消化器内科学分野)

  1. EUS-PDはERCPによる膵管ドレナージ困難例のサルベージ法として行う
  2. 穿刺部位はその後の処置に大きく影響するため慎重に選択する
  3. 症例に応じて適切な瘻孔拡張デバイスを選択する
  4. 引き戻し可能な一体型シングルピッグテールプラスチックステントが有用である
  • 適応疾患
    • 膵管狭窄(膵石による膵管閉塞を含む)や膵消化管吻合部狭窄による再発性膵炎の症例
    • 術後膵液瘻,外傷性膵管断裂の症例
    • 通常のERCPによるアプローチが困難な症例
  • 術前に行うこと
    • 画像検査で膵管走行の確認
    • 人手の確保とデバイスやスコープの準備

はじめに

膵管狭窄や膵消化管吻合部狭窄による再発性膵炎は患者のQOLの低下を招くため膵管ドレナージの治療を要する.ERCP関連処置による経乳頭的あるいは経吻合部的な膵管へのアプローチが有用だが,困難な症例もしばしば経験する.その場合に,EUS下膵管ドレナージ(EUS-guided pancreatic duct drainage:EUS-PD)が有用な代替法として報告されている1〜5).しかし,EUS下治療のなかでも難易度の高い手技である.

1適応

慢性膵炎による膵管狭窄や膵石による膵管閉塞に起因する再発性膵炎において,正常解剖例で経乳頭的アプローチ困難例ではEUS-PDの適応となる.術後症例においては,今永法など比較的吻合部に到達しやすい再建法以外,バルーン内視鏡を用いても吻合部へのアプローチは煩雑であり,ステント交換も容易ではないなどの理由から,最初からEUS-PDを行うことも考慮される.また,2 mm以下の膵管穿刺は難易度が高いため,ある程度の膵管拡張も適応の必要条件となる.術後膵液瘻や外傷性膵管断裂症例でERCP不成功例も適応となるが,手技難易度は高い.

全身状態不良や凝固能異常などによる内視鏡治療禁忌例は,適応から除外される.難易度の高い手技のため処置不成功に終わる可能性も十分にあること,さらに偶発症リスクも高いため十分なインフォームドコンセントを行ったうえで実施することも重要である.

2手技に必要な使用機器の概要

  • 穿刺針:19G FNA針
  • スコープ:コンベックス式EUS
  • ガイドワイヤー:0.025 or 0.018 inchガイドワイヤー(先端アングル型)
  • ブジー:通電ダイレーター(ガイドワイヤー誘導式)
    拡張バルーン(径3~6 mm,長さ4 cm)
    機械式拡張ダイレーター
  • カテーテル:造影カテーテル(0.025 inch対応)
  • ステント:7 Frシングルピッグテール型プラスチックステント

3EUS-PDの実際

EUS下膵管アプローチには,大きく分けて2つの方法がある.1つはEUS下に膵管を穿刺して瘻孔拡張後に,ステントを経消化管的に順行性に留置するEUS-PDである.もう1つは,EUS下に膵管を穿刺し,ガイドワイヤーを(副)乳頭もしくは膵管空腸吻合部から腸管内に出してスコープを入れ替えた後に,逆行性にステント留置を行う方法であるEUS下ランデブー法(EUS-RV:第2章-9参照)である.本項では順行性ステント留置を行うEUS-PDの方法を中心に解説する.

1準備

術前に造影CTやMRCPを撮影し,消化管と膵臓の解剖学的関係や膵管走行を把握することは穿刺ルートを決定や穿刺後のガイドワイヤー操作を行ううえで重要である.鎮痛鎮静はしっかり行い,激しい体動が懸念される場合は体位固定具を使用して安全に手技が行えるように準備を整える.ほかのEUS下治療よりも手技難易度が高いため,人手の確保とさまざまな困難やトラブルを想定した処置具の準備はきわめて重要である.

2穿刺

  1. ① 穿刺部位を決めるため,コンベックス式EUSを用いて胃から膵臓をスキャンし,膵管を描出する.

    穿刺後の手技の安定性を考えると,十分にガイドワイヤーを膵管内に留置することが重要であり,なるべく膵尾側を狙うのがよい.特に,膵頭十二指腸切除後症例では膵頭部膵管がないため,ガイドワイヤーが膵管空腸吻合部を越えない場合には穿刺部位から吻合部までのガイドワイヤーの留置距離が短くなってしまうことと,その際に膵管内に留置するステント長が短くなってしまい手技不成功の原因となりうることから,可能な限り尾側からの穿刺が望ましい.

    ただし,尾側を狙いすぎると穿刺角度が膵管方向と垂直になり,ガイドワイヤー操作やその後のデバイス挿入が難しくなるので,穿刺角度はなるべく緩やかな角度のほうが望ましく,バランスを考えながら適切な穿刺部位を慎重に選択することが重要である(図1).

    再発性膵炎や慢性膵炎により実質および膵管周囲が線維化により硬くなっているので,穿刺部位として膵管がなるべくプローブに近く穿刺経路が短くなる位置がよい.
  2. ② 安定して膵管を描出するために助手にスコープを把持してもらいつつ穿刺を行うのが望ましい.19Gもしくは膵管が細い場合には22GのFNA穿刺針で膵管を穿刺する(図2a).

    膵実質や膵管が硬いことが多いので,穿刺スピードを上げて勢いよく穿刺し,膵管を完全に貫いてから少しずつ引いてきて膵管内に針の先端が入ったところで造影を行うセルジンガー法が有用である.

  3. ③ 穿刺後に膵管造影を行い,膵管の走行を確認する(図2b).0.025 inchのガイドワイヤー(22G針での穿刺では0.018 inch)を膵管内に挿入し,可能であれば狭窄部もしくは吻合部を越えて腸管内に誘導する(図2c).穿刺針の先端でガイドワイヤーを損傷しないようにできるだけ引きの操作を少なくし,回転操作を中心に探る.

    狭窄が強く穿刺針のまま狭窄部を越えてガイドワイヤーを留置することが難しい場合は,無理をせずにガイドワイヤーを反転させて膵管内に十分留置した後に,穿刺針を抜いて瘻孔拡張に移る.

    穿刺針内に親水性ガイドワイヤーを入れて探るとスタックや断裂を起こしやすいため避けるべきである.
続きは書籍にてご覧ください

文献

  • François E, et al:EUS-guided pancreaticogastrostomy. Gastrointest Endosc, 56:128-133, 2002
  • Matsunami Y, et al:Evaluation of a new stent for EUS-guided pancreatic duct drainage: long-term follow-up outcome. Endosc Int Open, 6:E505-E512, 2018
  • Nakai Y, et al:Endoscopic ultrasound-guided pancreatic duct drainage. Saudi J Gastroenterol, 25:210-217, 2019
  • Tyberg A, et al:EUS-guided pancreatic drainage for pancreatic strictures after failed ERCP: a multicenter international collaborative study. Gastrointest Endosc, 85:164-169, 2017
  • Itoi T, et al:Initial evaluation of a new plastic pancreatic duct stent for endoscopic ultrasonography-guided placement. Endoscopy, 47:462-465, 2015
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