「なぜ」がわかる!胃炎・胃癌の内視鏡診断

「なぜ」がわかる!胃炎・胃癌の内視鏡診断

  • 八木一芳/著,味岡洋一/他
  • 2024年10月25日発行
  • B5判
  • 177ページ
  • ISBN 978-4-7581-1083-9
  • 7,700(本体7,000円+税)
  • 在庫:あり
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第3章 慢性胃炎の内視鏡像と組織像

2 通常内視鏡における活動性炎症と萎縮の診断

 はじめに

慢性胃炎はまず乳児期にピロリ菌が幽門腺粘膜に感染することから始まります(図1🅐).そして感染は持続します.体部小彎は体部大彎に比して胃底腺が薄く酸分泌もやや弱いため,幽門部に感染したピロリ菌は体部小彎に遊走し,体部小彎の粘膜に全層性の活動性炎症が生じます(図1🅑).間もなく体部小彎の胃底腺は幽門性化生に変化します.すなわち萎縮粘膜です(図1🅒).同時にピロリ菌は大彎に進展し慢性活動性炎症は胃全体に広がります(図1🅒).幽門腺粘膜および幽門腺化生粘膜には腸上皮化生も発生し,これらの変化は体部大彎にも進展していきます(図1🅓).

また,慢性胃炎は大きく活動性胃炎と非活動性胃炎に分類できます.

活動性胃炎

ピロリ菌が胃に存在し,現在も炎症が続いている状態を活動性胃炎と言います(現感染という表現も使われます).組織学的には好中球が存在するのが特徴です.

①幽門腺粘膜の炎症

最初に炎症が発生する幽門腺粘膜の内視鏡像を見てみましょう(図2).正常に比して凹凸が出現し,色調も白色と赤色が混じり合ったような感じです.図2の発赤は高分化管状腺癌で胃炎ではありませんが,その周囲は活動性炎症を有する胃炎粘膜です.体部ほど特徴的な所見はありませんが,未感染胃の幽門腺粘膜を完全に理解して正常と炎症のある粘膜を区別する必要があります.これはA型胃炎を診断する際にも重要となります.

②胃底腺粘膜の炎症

次は胃底腺粘膜です.組織学的には腺頸部に炎症細胞浸潤が生じます.特に好中球浸潤が特徴的です(図3🅐:好中球).炎症細胞浸潤はさらに表層の腺窩上皮の部分にも広がります(図3🅑).そのため胃底腺領域では炎症が集合細静脈の視認に影響を与えます.図3🅑のように炎症細胞浸潤が軽微だと集合細静脈は不規則になりますが,一応視認されます(図3🅒).

1RACの消失とびまん性発赤

炎症細胞浸潤が強くなり,好中球浸潤が目立つようになると集合細静脈は視認できなくなり,びまん性発赤が胃底腺粘膜に出現します(図4🅐).集合細静脈が視認できなくなるというのはRACが認められない,と同じ意味です.すなわちRACの消失とびまん性発赤の2つが活動性胃炎の所見です.

2萎縮粘膜の出現

もう1つ重要なのは萎縮粘膜の出現です.図4🅐の右上には白っぽい粘膜で血管が透見される像が観察されます.胃底腺が幽門腺化生に変化し,粘膜が薄くなり,粘膜筋板付近の横走する血管が透見できるようになり観察される像です.図4🅐は腺境界と呼ばれ,胃底腺粘膜と萎縮粘膜(幽門腺化生または腸上皮化生+幽門腺化生)をおおよそ分ける境界線です.あくまでおおよそです.

図4🅐のようなびまん性発赤を示す粘膜は炎症が強いです.そのときの組織像を見ると,腺窩上皮細胞の粘液は減少し,核の極性も乱れています.好中球により腺窩上皮の変性傾向が現れます(図4🅑).図4🅒図4🅑のギムザ染色です.粘液のなかに桿状物が観察されますが,これらがピロリ菌の菌体です.

通常内視鏡所見から萎縮の状態はおおよそ推定できます.

内視鏡像(図5🅐)と組織像(図5🅑)を対比しながら所見を見ていきましょう.ただし萎縮の進展の説明になります.図5🅐の内視鏡像は活動性で図5🅑の組織像は除菌後症例なので炎症の有無は異なりますので無視してください.萎縮のみに注目してください.図5🅐①は萎縮なしの胃底腺粘膜の内視鏡像で,図5🅑①は萎縮なしの胃底腺粘膜の組織像です.図5🅐②は胃底腺粘膜から幽門腺化生への移行の内視鏡像で,図5🅑②はその組織像.図5🅐③④は完全な萎縮の内視鏡像で,図5🅑③のように幽門腺化生または図5🅑④のように腸上皮化生になっています.

活動性胃炎の診断ポイント
びまん性発赤が重要です.

非活動性胃炎

ピロリ菌が以前は存在し,感染していたものの,現在は消失した状態を非活動性胃炎と言います.既感染という表現も使われます.組織学的には好中球の消失が特徴です.除菌後胃はこの非活動性胃炎に分類されますが,除菌されなくとも自然にピロリ菌が消失することもあり,これも非活動性胃炎です.

内視鏡的な特徴として萎縮変化は残りますが,活動性炎症が消失しています.早速,内視鏡像を見ていきましょう.

①非活動性胃炎の内視鏡像

図6🅐の内視鏡像を見てください.RACは観察されず,慢性胃炎があることはわかりますね.じつはこの胃は除菌後胃です.慢性胃炎であることがわかったら萎縮の程度を見る習慣が大切です.図6🅐の左は表層が滑らかですが,右は凹凸があります.胃底腺粘膜除菌前も除菌後も表層が滑らかのことがほとんどです.すなわち図6🅐の左は胃底腺粘膜,右が萎縮粘膜で,が腺境界です.ここで腺境界を挟んで胃底腺粘膜と萎縮粘膜の色調を比較してください.胃底腺粘膜が白っぽく萎縮粘膜が赤っぽいことに気づきますね.さて活動性胃炎はどうでしょう.「びまん性発赤」が胃底腺粘膜に観察されるというのが特徴だったはずです.

図6🅐は非活動性胃炎,図6🅑は活動性胃炎です.両者ともが腺境界で,下が胃底腺粘膜,上が萎縮粘膜です.活動性胃炎の胃底腺粘膜は萎縮粘膜に比較すると発赤が強く,萎縮領域は白っぽいですね(図6🅑).非活動性胃炎の胃底腺粘膜と萎縮粘膜の赤白の関係と逆です(図6🅐).筆者はピロリ菌が消失すると胃底腺粘膜と萎縮粘膜と赤白の関係が逆転することから,「色調逆転現象1)」と名づけました.図6🅐図6🅑の違いをしっかり理解してください.

活動性胃炎と非活動性胃炎では,胃底腺粘膜と萎縮粘膜の色の関係が逆になる!(色調逆転現象)

②萎縮粘膜の凹凸

さて非活動性胃炎では萎縮粘膜に凹凸がみられることがしばしばあります.凹凸部分(白枠)をNBI拡大観察してみます(図7🅑).管状模様のなかに図7🅑黄色点線内のように円形開口部を伴った領域が散在しています.この拡大像は胃底腺粘膜を表しています.その周りの管状模様は腸上皮化生を含んだ萎縮粘膜を表しています(図7🅑黄色点線枠の外).では生検でそれを確認してみましょう.図7🅒図7🅑の生検組織です.図7🅒は腸上皮化生です.図7🅒枠を拡大して観察すると図7🅓の像が観察されました.壁細胞,主細胞,頸部粘液細胞と胃底腺の構成細胞が観察されますので,これは胃底腺です.図7🅐枠で示した凹凸のある領域は,「中間帯」と呼ばれる領域だったのです.

③中間帯とは

中間帯について説明しましょう.慢性胃炎の腺の分布は図8のようになっています.

黄色は胃底腺粘膜が連続的に存在する領域,紫色は幽門腺・幽門腺化生・腸上皮化生といった粘膜が存在する領域です.この2つの領域の間には腸上皮化生などの萎縮粘膜と胃底腺粘膜が混ざった領域が存在しますが,それが「中間帯」です.なお,胃底腺粘膜と中間帯の境界をF-line(F線),萎縮粘膜と中間帯の境界をf-line(f線)と呼びます.中間帯は内視鏡像や切除標本では観察されず,顕微鏡で組織像を観察しないと認識できないとされてきました.しかし非活動性胃炎では赤白の色のまだらを伴った凹凸で視認されるのです(図6).

④活動性胃炎の中間帯

では活動性胃炎では本当に中間帯が観察されないのか調べてみましょう.図9🅐は活動性胃炎です.中間帯が存在するとすれば腺境界近傍の萎縮粘膜に存在するはずです.しかしやはり凹凸は観察されません(図9🅐:腺境界).しかしここでNBI拡大内視鏡を用いると,図9🅐枠部分が中間帯だと診断できます.

図9🅐枠部分をNBI拡大観察すると,不整な円形開口部が観察されますが(図9🅑),これは炎症細胞を伴った胃底腺粘膜を表しています.この部位(図9🅐)の生検組織を図9🅒に示します.腸上皮化生とともに強い炎症細胞のなかに壁細胞,主細胞,頸部粘液細胞と胃底腺の構成細胞が観察されます(図9🅒🅓).つまりここが中間帯なんです.おそらく図9🅐の腺境界から萎縮領域に向かって中間帯が存在していると推測されます.しかし内視鏡的にはそれは視認できません.

⑤非活動性胃炎で中間帯が視認できる理由

非活動性胃炎で中間帯が赤白のまだらと凹凸で視認できる理由を説明します.

除菌前は中間帯の胃底腺周囲の炎症細胞浸潤が図9🅓のように著明ですが,除菌後は除菌前は中間帯の胃底腺周囲の炎症細胞浸潤が図7🅓のように炎症細胞浸潤は消褪し,胃底腺とそれに連続する腺窩上皮は炎症のない状態に復します.特に表層上皮は炎症の消失で過形成傾向を伴います.これらの炎症の消失で胃底腺粘膜はうっ血などによる発赤は消え,一方,除菌前後で変化のない腸上皮化生は相対的に発赤調を呈するようになります.結果として発赤調の腸上皮化生のなかに白色調の胃底腺粘膜が散在するという除菌前は中間帯の胃底腺周囲の炎症細胞浸潤が図7🅐のような内視鏡像が出現します.

既感染胃で出現する胃型粘膜に囲まれた腸上皮化生による発赤は「胃炎の京都分類」では地図状発赤2~4)と命名されていますが,筆者が色調逆転としている発赤の部分は,この地図状発赤に一致するものと考えています.色調逆転は木村・竹本分類を意識した観察から生まれた所見であり,中間帯などを含めた胃の腺の分布の全体像を捉えるには有用です.ぜひ両者を使用してください.

活動性胃炎と非活動性胃炎の診断のポイント

・活動性胃炎:①胃底腺のびまん性発赤,②萎縮領域より胃底腺が発赤強い

・非活動性胃炎:①胃底腺領域のびまん性発赤の消失,②萎縮領域が胃底腺より発赤強いことがしばしば(色調逆転),③萎縮領域に発赤出現(地図状発赤:腸上皮化生を意味する),④中間帯が観察できる

文献

  • Nawata Y, et al:Reversal phenomenon on the mucosal borderline relates to development of gastric cancer after successful eradication of H. pylori. J Gastroenterol Hepatol Res, 6:1-6, 2017
  • Nagata N, et al:Predictability of Gastric Intestinal Metaplasia by Mottled Patchy Erythema Seen on Endoscopy. Gastroenterology Res, 4:203-209, 2011(PMID:27957016)
  • Watanabe K, et al:Predictive findings for Helicobacter pylori-uninfected, -infected and-eradicated gastric mucosa:validation study. World J Gastroenterol, 19:4374-4379, 2013(PMID:23885149)
  • 安田 貢:地図状発赤.「胃炎の京都分類 改訂第3版」(春間 賢/監,加藤元嗣,他/編),日本メディカルセンター,pp35-36,2014
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  • 八木一芳/著,味岡洋一/他
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