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第2章悪性腫瘍(小腸)
1腺癌
1腺癌
疾患の概要
- 小腸に発生する腺癌の頻度は低く,十二指腸を除く空腸・回腸に発生する原発性小腸癌の頻度は全消化管癌の0.1~0.3%と稀である1).
- 原発性小腸癌は男性に多く,好発年齢は50~60歳代であり,好発部位はTreitz靭帯から50 cm以内の近位空腸,回盲部より50 cm以内の遠位回腸とされている2).
- 原発性小腸癌のリスク因子として,家族性大腸腺腫症,Lynch症候群,Peutz-Jeghers症候群,Crohn病やセリアック病,肥満が知られている3).
特徴的な所見と診断
- 原発性小腸癌は腫瘍が増大して腸管腔が狭小化することにより,腹痛,嘔気・嘔吐などの腸閉塞症状や,貧血,黒色便などの出血症状によって気づかれることが多い2).
- 内視鏡所見として,易出血性の不整な腫瘤や潰瘍および内腔狭小化および狭窄を呈し,いわゆる2型進行癌(潰瘍限局型)の形状を呈することが多い(図1).
- 癌腫が腸管の短軸方向に進展する傾向があるため “napkin-ring sign” とよばれる短い輪状狭窄を呈しやすく,狭窄周囲の腫瘍部分に境界明瞭な結節状隆起を認める.またX線透視で “overhanging edge” とよばれる所見も典型的である2).
- 早期癌に関しては隆起型や表面隆起型,表面陥凹型(図2)を呈するものなどさまざまである.
鑑別のピットフォール
- 最も鑑別すべき疾患として悪性リンパ腫,なかでもびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)があげられる.
- 悪性リンパ腫では送気による管腔の伸展性が保たれ,潰瘍辺縁の不整所見が目立たず,耳介様周堤を呈することから鑑別が可能である.
- 進行癌では,周堤の部分が粘膜下腫瘍様に観察されることもある.特に送気伸展が行えないカプセル内視鏡では粘膜下腫瘍と誤認することもある.
文献
- Chen CC, et al:Risk factors for adenocarcinomas and malignant carcinoids of the small intestine:preliminary findings. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev, 3:205-207, 1994
- 壷井章克,他:原発性小腸癌の臨床病理学的特徴―内視鏡診断を中心に.胃と腸,57:783-792,2022
- Raghav K & Overman MJ:Small bowel adenocarcinomas--existing evidence and evolving paradigms. Nat Rev Clin Oncol, 10:534-544, 2013
- 多田修治,上原正義:小腸癌.「小腸疾患の臨床」(八尾恒良,飯田三雄/編),医学書院,2004