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第6章 各種神経モニタリングの施行法
5. 運動誘発電位(皮質下刺激-筋記録)
藤井正美
(山口県立総合医療センター 脳神経外科)
- 単極プローブによる陰極刺激を用いるとよい.また皮質刺激MEPと組み合わせることで確実な運動機能の評価ができる
- 刺激強度を20~30 mAから徐々に下げ,MEP波形が出現する強度より錐体路までの距離を推定する
1目的
- 錐体路近傍の大脳白質(皮質下)を直接電気刺激し,運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)を四肢の筋から記録することにより,運動機能障害の発生を未然に防ぐとともに,腫瘍などの摘出率を向上させることを目的とする
2適応
- 天幕上の錐体路近傍の脳実質内病変.腫瘍性病変(グリオーマ,転移性脳腫瘍),海綿状血管腫,脳動静脈奇形など
3施行法
1)刺激法
- 単極刺激電極(図1A)を用いることが多い.陽極(+)より陰極(-)刺激を用いる方がMEPの反応を得やすい1).陽極はFpz (Fz)に設置するとよい
- 刺激条件は,刺激強度5~30 mA,持続時間0.5 msec,刺激間隔2 msec (500 Hz)の5連トレイン刺激とする
- 双極刺激電極を用いる場合(図1B),単極刺激と比べ電流の到達深度は浅く,より表層の白質が刺激される.刺激条件は単極刺激と同様である
2)筋電図記録法
- ディスポ貼付電極または針電極を用いるのがよい
- 上肢では母指球筋,腕頭骨筋や上腕二頭筋から,下肢では足底筋,前脛骨筋や腓腹筋から記録を行う
- 四肢末梢側においてMEPの反応が得られやすい傾向にある
- 電極の装着はbelly-tendon法に従い筋腹(belly)に陰極,腱(tendon)に陽極を装着する.前脛骨筋など長い筋の場合は,必ずしもbelly-tendon法でなくとも5 cm程度間隔をあければ十分に記録は可能である
3)設定
- 帯域フィルタは20 Hz-1.5~3.0 kHzとし,分析時間は上肢では70~100 msec,下肢では100 msecに設定する
4術中波形記録の実際
5MEP波形記録
- 刺激を行う運動野および錐体路の標的とする部位の筋肉内,または表面に電極を設置する
- 記録方法および判定は硬膜下電極刺激による方法に準ずる
- 皮質刺激MEP(cortical stimulation-MEP:C-MEP)を経時的に記録し,錐体路近傍の白質に近づいたときに皮質下刺激MEP(subcortical stimulation-MEP:Sc-MEP)を記録する
- 刺激強度を状況に応じて30 mAから徐々に25 mA,20 mA,15 mA,10 mA,5 mAに下げ,MEP波形が出る刺激の強度から錐体路までの距離を推定する(図3)
- まず 20 mA程度の刺激でMEPの出現部位を同定した後,同部の切除を進め,さらに弱い刺激強度でMEP波形が出るか確認していく
- Sc-MEPが記録されていても,C-MEPの波形が消失すれば,錐体路の損傷の可能性を考える
- 滑走電流を防ぐため,刺激部位が血液や液体で覆われないように配慮する必要がある
6モニター波形変化の評価法
- 単極皮質下刺激において,パルス幅5 msecで5 mAおよび10 mAの刺激強度でMEPが記録された場合,錐体路までの距離はそれぞれ5 mm,10 mmとする報告がある2)
- 皮質刺激でMEPが記録できる刺激強度で皮質下刺激を行い,MEPが記録される場合,刺激部位と錐体路の距離は7 mmであり,閾値強度の50%で反応が得られた場合,錐体路まで約3 mmとする報告がある3)
- 腫瘍から錐体路までの距離が8 mm以上離れていると手術で麻痺が回避できるとする報告がある4)
- 目安として5 mAでMEPが記録される場合,摘出の限界とする考えがあるが,状況に応じて刺激強度から刺激部位と錐体路までの距離を推測し,麻痺が出る可能性があれば,術者にアラームを与える
文献
- Shiban E, et al:J Neurosurg, 123:711-720, 2015
- Kamada K, et al:J Neurosurg, 102:664-672, 2005
- Maesawa S, et al:World Neurosurg, 74:153-161, 2010
- Rosenstock T, et al:J Neurosurg, 126:1227-1237, 2017