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第1章 §4 Single shot spinal(SSS)による帝王切開
3.穿刺手技(坐位)
- ❶ わが国では脊髄くも膜下麻酔も硬膜外麻酔も側臥位で行うことが多いが,米国では坐位が選択されることも多い
- ❷ 肥満患者などでは坐位を選択する
- ❸ 普段から坐位での穿刺に慣れておく
1体位の作成および消毒
- わが国では脊髄幹麻酔は側臥位で行うことが多いが,海外では坐位で行うことが多い
- 肥満患者では坐位での穿刺が有効なので普段から慣れておくとよい
- ❶ ベッドの端から足を垂らして座るか,ベッドの上であぐらをかく
通常の手術台であれば,ベッドから足を降ろしてベッドの縁に平行に深く座ってもらう.幅の広いベッドの場合は,足を下ろさずにベッドの上であぐらをかいてもらう.
穿刺時には患者に肩の力を抜いてだらんと足元を見るようにしてもらうと自然と脊椎が大きなCの字を描いて腰椎の後弯が完成する(図1).消毒の前に練習してもらっておくとよい.
- ❷ 背中を広く消毒する
- ❸ 透明の滅菌ドレープをかける
- ❹ 患者の背部が傾いたりねじれたりしないことを確認する
- ❺ 腰椎の前弯を解消し,後弯させる(図1)
側臥位の場合と同様に,理想的な体位をとるためには介助する看護師の協力が不可欠である.
多くの場合,患者は前に立った看護師に体重を預けて前のめりの姿勢になっていることが多い.理想的な体位がとれていれば看護師は体重を支える必要はなく,肩に手を添えて置くだけでよい.また,背中を突き出してという指示も脱力姿勢をとることの障害になる.
- ❻ 患者の全身を見渡して,よい体位がとれていることを最終確認する
2穿刺部位の同定〜局所浸潤麻酔
- ❶ 穿刺する椎間を決定する
この時,ベッドが低いと左右の腸骨稜を結んだ線(ICL)を見下ろす形になるので,ICLが頭側にあるように錯覚して穿刺する椎間が頭側にずれてしまう.腰椎の後弯が達成されているとさらに穿刺する椎間が頭側にずれてしまうので注意する. - ❷ L3/4で穿刺する場合は,左手の人差し指でL4の棘突起を触れる
この時,側臥位の場合のように棘突起を2本の指で挟み込もうとすると窮屈なので,人差し指でL4の棘突起の頂点を確認しながら背中全体を見渡して穿刺方向をイメージするとよい.坐位では側臥位よりも脊柱のねじれや傾きが少ないので,指からの情報よりも目からの情報のほうが役立つ. - ❸ L4の棘突起を確認したらその1 cm頭側から穿刺して浸潤麻酔を開始する
棘突起を回避するために針先は頭側に向けるが,よい姿勢がとれているとL4の棘突起の上縁に当たることが多い.浅いところで針先が当たるのは針が患者の背の正中にあることの証拠であるため,針を皮下まで抜いてから頭側に針の方向を変えるとよい.腰椎の後弯が達成されていると針先はかなり上向きになる. - ❹ 局所浸潤麻酔をしながら棘間靱帯の位置を確認する
左手の指先からの情報を頼りに穿刺方向を定めて針を進める.ある程度進めても靱帯に嵌まらない場合は,針を皮下まで抜いて左右どちらかに方向を変えて針を進め,穿刺方向を扇型に変えながら靱帯の位置を確認する.
3脊髄くも膜下穿刺
- ❶ 局所浸潤麻酔により靱帯の位置が確認できたら,その位置にガイド針を進めて左手に持ち替える.このとき針先の位置がずれないように注意する
- ❷ 右手で脊髄くも膜下針を持ってガイド針の中を進める
- ❸ くも膜を穿刺する感覚(ポップ感)を感じたら脳脊髄液(CFS)の逆流の有無を確認する.坐位では重力の影響で速やかにCSFの逆流が確認できる
- ❹ 透明のCSFの逆流を確認できたら準備しておいた薬剤を投与する
- ❺ 薬剤を投与したら速やかに背中を拭いて刺入点を被覆して仰臥位に戻す.この時,患者の力だけでは足を上げられないことがあるので介助する
坐位で穿刺する際に高比重の局所麻酔薬を使用すると麻酔域の頭側への広がりが遅れることがある.時間が経てば麻酔域は頭側まで広がるが,時間を短縮するためには薬剤投与後は速やかに仰臥位に戻す.また,坐位で穿刺する場合は等比重,あるいは低比重の局所麻酔薬を使用すると頭側への広がりがよくなる.