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第2章 肩
2 肩腱板断裂(滑液包炎)
岩本 航
(江戸川病院 スポーツ医学科)
1疾患の概要1)
2典型的な症例
症例 1全層断裂の症例
- 72歳,女性
- 主訴は右肩の動作時痛である.特に挙上や結帯動作で痛みが生じる
この方は肩関節痛を主訴に来院されました.上方の腱板(棘上筋)を長軸像で確認すると,腱板の表層に陥凹が認められ(図1🅑)上腕骨表面にも不整像が認められています(図1🅑).腱板の変性断裂に伴う変化です.断裂部に水腫がある症例では診断が容易です.
腱板の正常像にバリエーションはありますか? 症例によって陥凹なのか,もともとの形状なのかわからないときがあります.
正常像にはそれほどバリエーションはないとは思います.ですので,迷った際は左右差を必ず見ましょう.また,上腕骨頭の大結節のところは,多少高い人と平坦な人がいるなどバリエーションがあります.
外傷性の断裂では変性の断裂と所見が違いますか?
外傷性の断裂では,腱板の断端を残して切れている所見が見えます.骨不整像は少ない印象です(図2).また,水腫に関しては,変性疾患でも滑液包炎により腫脹している場合があるので,外傷との鑑別にはなりません.
不全断裂の判断のしかたを教えてください.
滑液包面での断裂では水腫がないと判断が難しいです.断裂が全層性に連続していれば全層断裂と判断します.図3のように,棘上筋の下の部分がつながって見えるような場合は全層断裂ではありません.
迷ったら肩峰下に滑液包注射をしてから(図5),もう一度エコー検査で確認するのがよいと思います(図6).
ですが,関節包面側の不全断裂は臨床的にも少ないです.
ですが,関節包面側の不全断裂は臨床的にも少ないです.
注射の適応と方法,薬液を教えてください.
治療目的の注射に関しては,安静時痛と夜間痛を訴える患者など,炎症所見がうかがわれるような場合にステロイド注射を行っています.薬液は,デカドロン® 3.3 mgと1%のキシロカイン® 4 mLを打っています.腱板の病変,石灰沈着性腱炎,滑液包炎が疑われた場合には肩峰下滑液包(SAB)に,それ以外は肩甲上腕関節(GH)に打っています.
動作時痛を訴える患者に対して注射は行わないようにしていて,リハビリテーションで対応しています.そうでないと,ずっと注射を打つ必要が出てきてしまいます.
動作時痛を訴える患者に対して注射は行わないようにしていて,リハビリテーションで対応しています.そうでないと,ずっと注射を打つ必要が出てきてしまいます.
文献
- 井樋栄二:腱板断裂の治療とリハビリテーション.Jpn J Rehabil Med,56:650-655,2019