エキスパートが教える運動器エコーの見かた 下肢〜診療の鍵となる着眼点と所見の解釈

エキスパートが教える運動器エコーの見かた 下肢

診療の鍵となる着眼点と所見の解釈

  • 中瀬順介,中島祐子/編
  • 2022年07月20日発行
  • B5判
  • 184ページ
  • ISBN 978-4-7581-1193-5
  • 定価:7,700円(本体7,000円+税)
  • 在庫:あり
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第3章 膝関節

1 変形性膝関節症

中瀬順介
(金沢大学大学院医学系研究科 整形外科)

疾患の概要

典型的な症例

症例 1
  • 71歳,女性.
  • 左変形性膝関節症である.
  • 数年前から左膝関節痛が出現し,徐々に増悪し受診した.
  • エコー像は図1,単純X線像は図2,CT像は図3,術中所見は図4である.

人工関節置換術を施行した症例です.エコー検査での膝関節前方(長軸像)では,膝蓋骨の骨棘と関節水腫を観察できます.また,膝関節内側(長軸像)では,内側側副靭帯浅層の直下に骨棘と内側半月板を観察できます.骨棘は大腿骨と脛骨から大きく張り出しています(図1🅑*).

変形性膝関節症において,単純X線検査と比べてエコー検査にメリットはありますか?
身体所見だけではわかりにくい膝関節水腫の確認や膝関節内外の注射のときに利用価値があります.

●検査ツールの使い分け

アライメントを見るには「下肢全長の観察には単純X線検査」「正確な骨棘の把握にはCT検査」と画像ツールを使い分けることが必要です.

●エコー検査での観察の仕方(図5

症例 2
  • 42歳,男性.
  • 左変形性膝関節症(膝蓋大腿関節)である.
  • 数年前からスクワット動作時に左膝前方部痛が出現し,受診した.
  • 受診時のエコー像は図6,単純X線像は図7である.

膝蓋大腿関節変形症の症例です.大腿骨滑車部は,エコー検査を用いて膝関節屈曲位(短軸像)で観察することができ,軟骨の菲薄化や軟骨下骨の不整像を認めます(図6).

一方で,単純X線像(図7)の正面像やスカイライン像のように膝蓋骨との位置関係を確認することはできません.

鑑別疾患

症例 3膝関節血腫
  • 66歳,女性.
  • 転倒後の左脛骨高原骨折による血腫(図8)である.膝蓋上嚢に変形性膝関節症による水腫よりも高エコー像を認め,新鮮血腫が貯留していることがわかる.
症例 4関節リウマチ
  • 42歳,女性.
  • 関節リウマチによる水腫の貯留(図9)である.膝蓋上嚢に変形性膝関節症による水腫よりもやや高エコー像である.

●膝関節の腫脹および膝蓋跳動が陽性のとき

膝蓋上嚢をエコー検査で観察すると,貯留液の性状を鑑別でき,ある程度の疾患予想が可能になる.

症例 5ベーカー嚢腫(変形性膝関節症に随伴する膝関節周囲滑液包炎)
  • 65歳,女性.
  • 腓腹筋内側頭と半膜様筋腱間に存在する滑液包が腫大している.
  • エコー像は図10,MRIは図11である.

●ベーカー嚢腫とは

ベーカー嚢腫は変形性膝関節症に合併する膝窩部嚢腫性病変である.
症例5のように腓腹筋内側頭と半膜様筋間に存在する滑液包が腫大することが多いが,変形性膝関節症では,半膜様筋腱脛骨付着部周囲にも嚢腫性病変が発生することがある(図12).また,図1314のように半膜様筋腱付着部周囲にも滑液包が存在し,腫大する.

症例 6大腿骨内顆骨壊死(脆弱性骨折)
  • 72歳,男性.
  • 左大腿骨内顆骨壊死の症例である.
  • エコー検査で膝関節内側(長軸像)では膝関節伸展位で内側半月板の逸脱を認めるが,骨棘形成は認めない(図15🅐).一方,膝関節前方(長軸像)で屈曲位とし,大腿骨内顆を観察したところ,軟骨と軟骨下骨が途絶していた(図15🅑).
  • 図16は単純X線像,図17はMRIである.
大腿骨内顆骨壊死例における内側半月板の逸脱は何を示していますか?
内側半月板フープ機能の破綻を示します.内側半月板後根断裂などが合併していることが多いです.MRI検査で精査してみましょう.
症例 7大腿骨内顆軟骨損傷
  • 48歳,女性.
  • 右大腿骨内顆軟骨損傷である.
  • 軽微な外傷を契機とした右膝内側部痛で,エコー検査(図18)と単純X線検査(図19)では原因が同定できなかった.
  • 疼痛と腫脹が持続するためMRI検査(図20)を行ったところ右大腿骨内顆軟骨損傷を認めた.
  • 後方視的にエコー検査を行い病変部を観察したところ,周辺部位と比べて,軟骨が高信号になっている領域(計測では2.3 mm)があった.

前述のように変形性膝関節症においてエコー検査の診断価値は低い.また,私自身も図18のエコー像で初診時に指摘できる自信はない.しかし,エコー検査を用いることで,注射をさまざまなポイントにエコーガイド下に安全かつ正確に打つことができる.そのため,私にとって形性膝関節症の診療におけるエコー検査は変必要不可欠なツールとなっている3)
特に,Wadaらが提唱している膝関節内注射の方法は確実に関節腔内に薬液を投与することができる方法である4)

文献

  • Yoshimura N, et al:Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab, 27:620-628, 2009
  • Yoshimura N, et al:Prevalence of knee pain, lumbar pain and its coexistence in Japanese men and women: The Longitudinal Cohorts of Motor System Organ(LOCOMO)study. J Bone Miner Metab, 32:524-532, 2014
  • エコーガイド下インターベンション.「膝エコーのすべて」(中瀬順介/著),pp148-163,日本医事新報社,2020
  • Wada M, et al:The Isometric Quadriceps Contraction Method for Intra-Articular Knee Injection. JBJS Essent Surg Tech, 9:e16, 2019
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