第1章 下肢動脈 C複雑病変
1.腸骨動脈
1)高度石灰化を伴う大動脈分岐部
宮本 明
(総合高津中央病院心臓血管センター)
(中略)
症例提示
【症例1】高度石灰化を伴う大動脈分岐部病変
症例は,50歳代,女性の維持透析例である.両足趾の難治性潰瘍のため,EVT目的に当院を紹介された.術前画像診断にて高度石灰化を伴う大動脈分岐部病変を認め(図1A),左上肢アプローチからのコントロールDSA造影では,右総腸骨動脈90%,左総腸骨動脈亜完全閉塞していた(図1B).
両側大腿動脈より逆行性に7Fr 23 cmロングシースを挿入した.右総腸骨動脈は容易にシースワイヤーが通過したが,左総腸骨動脈は高度石灰化のためワイヤーおよびバルーン通過に難渋した.ASAHI Corsair ArmetサポートでTreasure XS,ASAHI Halberdでは通過せず,最終的にJupiterTM DP60で貫通させた.しかし,Corsair Armetも1.5×20 mm JADE®も通過しなかった.そこで,再度JupiterTM DP60で別ルートを通過させ,1.5×20 mm JADE®が通過(図1C),順次バルーンサイズを上げ,左右総腸骨動脈を6×40 mm JADE®で20気圧まで拡張するも,疼痛は軽度であった.
バルーン拡張後の造影では,大動脈遠位から腸骨動脈分岐部のリコイルが強く(図1D),大動脈遠位より内腸骨動脈分岐直前まで覆うようにVBX 7×59 mmをキッシングステントした(図1E).ステント拡張は,交互にバルーン拡張したが,右は10気圧で疼痛,左は7気圧で疼痛を訴え,それ以上加圧できなかった.最後に同時にバルーン拡張を行うも,疼痛のため5気圧までしか加圧できなかった.IVUSにてステント両端の圧着を認め,8×20 mm SterlingTMでステント内をキッシングバルーンで拡張したが(図1F),腸骨動脈起始部では疼痛のため,4気圧までしか加圧できなかった.IVUSではステントの圧着は良好となったが,腸骨動脈分岐部のステント拡張はやや不十分であった(図1G).グラフトのため血管破裂のリスクは少ないが,大動脈径と総腸骨動脈グラフト径の差によりグラフト近位部が大動脈壁に密着していないので,大動脈まで血管亀裂が生じた際には止血に難渋することが予想され,これ以上の拡張はしなかった.
VBXは,拡張に伴い短縮することを念頭に置き,ステント長を選択する.通常の拡張圧(10〜14気圧)で1〜2 mm短縮する.さらに大きなサイズのバルーンで後拡張すると,ステントの拡張に伴い,さらに短縮する.ステントエッジの解離が再狭窄・再閉塞の原因となるため,病変をフルカバーし,かつ,エッジが石灰化や蛇行部位に掛かる場合は,特に位置決めに注意が必要である.
VBXを導入する際には,シースを病変通過させてから導入すると,病変通過が容易でかつ石灰化によるグラフトの損傷も防げる.そのため,使用するシースはロングシースが望ましい.ステントの拡張は,ePTFEの拡張に時間を要するため,ゆっくりと加圧し,10〜14気圧では少なくとも15秒以上,5〜7気圧では1分以上拡張する.拡張時に強く痛みを訴えた場合は,ステントが拡張するまでさらにゆっくりと時間をかけ低圧より加圧する.ステントの拡張には少なくとも5気圧が必要である.そのため,前拡張時にVBXと同径ないし1 mm小さい径のバルーンで十分拡張する必要がある.大動脈分岐部のキッシングステントを実施する場合は,両方のステント先端の位置を揃えて,疼痛が自制内の同圧で拡張,その後,それぞれを十分な圧で拡張した後,再度,同圧でキッシングバルーンを実施する.そうすることで,ステントの先端の位置がずれずに,対側のステントの変形も防止できる.
CERAB technique 2)とは大動脈から両側腸骨動脈に及ぶ病変を3本のカバードステントで覆う方法である.まず,大動脈遠位に至適径のカバードステントを留置,次に大動脈に留置したカバードステント内に掛かるように両側総腸骨動脈より至適径のカバードステントをキッシングステントで留置する.本法は,通常のキッシングステントで生じる大動脈径とステント径のミスマッチが減少し,開存率が向上するという.最近,曽我らは,通常のキッシングステントに加えて“Double-D” molding technique 3)を行うことで大動脈遠位でのミスマッチを減少できると報告している.
文献
- 2)Grimme FA, et al:Editor’s Choice--First Results of the Covered Endovascular Reconstruction of the Aortic Bifurcation (CERAB) Technique for Aortoiliac Occlusive Disease. Eur J Vasc Endovasc Surg, 50:638-647, 2015
- 3)Soga Y, et al:Treatment for aortoiliac bifurcation disease by balloon-expandable covered stent; “Double-D” molding technique. J Cardiol Cases, 22:143-146, 2020