栄養科学イラストレイテッド:食品機能学
栄養科学イラストレイテッド

食品機能学

  • 深津(佐々木)佳世子/編
  • 2024年12月20日発行
  • B5判
  • 200ページ
  • ISBN 978-4-7581-1374-8
  • 3,300(本体3,000円+税)
  • 在庫:予約受付中
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第1章 食品機能学とは

深津(佐々木)佳世子
(共立女子大学家政学部食物栄養学科栄養学研究室 教授)

食品とは

本書を手にとる読者には,食物・食品・栄養について専門的に学んでいる人も多いだろう.では,「食品とは何ですか?」と質問されたら,どのように答えるだろうか.

A.日本における食品の定義

じつは「食品」の定義は,国によって異なっている.

わが国では,食品衛生法において「食品とは,全ての飲食物をいう.ただし,医薬品,医薬部外品及び再生医療等製品は,これを含まない」と規定されている 1).つまり,日本において食品とは,医薬品・医薬部外品・再生医療等製品以外の飲んだり食べたりできるものすべてを意味するのである(図1).

ちなみにアメリカでは,食品とは「1.人間や他の動物の飲食に使用される物品,2.チューインガム,3.前述のような品を構成する物品」として定義されている 2).また中国では,「食品:人の食用または飲用に提供される完成品または原料及び伝統的に食品であり薬品でもある漢方薬を指す.ただし,治療を目的とする物品は含まない」と定義 3)されている.

B.食品の条件・特性

食品の条件には,世界共通なものとして,

  • 1種類以上の栄養素を含んでいる(栄養特性
  • 有害物を含まない(安全性
  • 食べるのに好ましいおいしさをもっている(嗜好しこう特性
  • 多くの人が手に入れやすい(経済性

という,主に4つの性質が存在するとされている.

これらの4つの性質のなかでも,古くから食品には栄養特性嗜好特性の2つの特性があるとされてきた.

  • 栄養特性とは:栄養素の補給源としての性質
食品に含まれる炭水化物(糖質),脂質,たんぱく質,ミネラル,ビタミンで分類される栄養素は,エネルギーや身体の構成成分となってヒトに利用される
  • 嗜好特性とは:「おいしさ」としての性質
食品に含まれる色素成分,香り成分,味成分などの非栄養素は,視覚,嗅覚,味覚,食感(触覚,聴覚)などヒトが楽しむ感覚に作用する

一方,中国の食品の中に漢方薬が存在することからも示される通り,どの国においても「医食同源」「体によい食べ物」の考え方は存在し,健康維持にかかわる特性が食品に備わっていることは,世界中で古くから伝承されてきた.それをここでは保健特性とよぼう.

  • 保健特性とは:健康維持にかかわる性質
食品に含まれる保健機能成分は,体調調節機能を発揮することで,疾病しっぺい予防,健康維持のために働く

つまり,私たちは古来より食品の特性として,「栄養特性」「嗜好特性」「保健特性」の3つの特性について認識してきたのである.

食品の機能

私たちが古くから認識してきた食品の特性を,「食品の機能性」として追究していく学問が,「食品機能学」である.

食品機能学では,食品における3つの特性のうち栄養特性一次機能嗜好特性二次機能保健特性三次機能として,取り扱っていく.それら3つの機能は,互いに重なり合っている(図2).

A.一次機能とは

食品の一次機能とは,古くから考えられてきた食品の特性のうちの「栄養特性」つまり『栄養』機能のことである.

私たちヒトも含めた生物は,ATP(アデノシン三リン酸)という電池で動く精巧なロボットのようなものである.しかし,ATPは電池と違って,貯めておくことができない.常につくり続けて使い続けるしかないのである.驚くべきことに,ヒトは一日に自分の体重と同等にあたる大量のATPを産生して,生命を維持している.このATPは主に『栄養』と『酸素』を材料として,『代謝(細胞内の化学反応)』を通してつくられている.つまり,『栄養』は生きるために不可欠なのである(図3).

このような生命活動の維持のために必要不可欠な『栄養』としての機能を,一次機能という.具体的には,一次機能とはエネルギーを生み出し体成分をつくる栄養素本来の機能であり,五大栄養素の働きのことである(図4).

B.二次機能とは

食品の二次機能とは,古くから考えられてきた食品の特性のうちの「嗜好特性」つまり『おいしさ』の機能のことである.

『栄養』を摂取することに,『おいしさ』という要素は大切である.『おいしさ』は,①食欲増進,②安全な摂食,に密接に関連している.二次機能は,食品の色,味,香り,テクスチャー(舌触り),音など,感覚に対する機能である.「変な見た目」「変な匂い」など,食品の腐敗や異物の混入を見分けるうえでも重要な,安全性にも関連する機能である.二次機能には,色素成分,呈味ていみ成分,香気成分などの化学的な因子と,テクスチャー,音などの物理的な因子が関与している.これらの因子が五感(味覚,視覚,嗅覚,触覚,聴覚)に作用して,「おいしい」「まずい」などを感じさせる(図5).

C.三次機能とは

食品の三次機能とは,古くから考えられてきた食品の特性のうちの「保健特性」つまり『生体調節機能』のことである.生体調節機能は,基本的に恒常性(ホメオスタシス)とよばれるしくみと密接にかかわっており,神経系・免疫系・内分泌系の調節により健康に寄与する働きを指すことが多い.食品による生体調節機能を担う成分は,栄養機能を担う成分と異なり,食物繊維,フラボノイド類,ポリフェノール類などの非栄養素も含まれる.

食品中には,生活習慣病の予防・回復,老化の抑制,生体防御など,健康の維持・増進に役立つ成分が多数見出されている.それらの成分を,機能性成分という.食品の三次機能とは,それら機能性成分を摂取することで身体の調子を整え,健康状態をよくするという保健効果を指している(図6).

超高齢化社会を迎え,食の欧米化とともに増え続けてきた生活習慣病の予防対策として,食品の三次機能への期待が高まっている.

1991年,日本は世界に先駆けて三次機能を対象とした食品の法的な位置づけを行い(特定保健用食品制度),世界の注目を集めた.現在では,健康維持への利用をめざした三次機能の研究が,世界中で活発に行われている.

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文献

  • 食品衛生法,第一章総則,第四条第一項
  • Federal Food, Drug,and Cosmetic Act, 21 U.S.C. §321. Definitions;generally(f)
  • 中華人民共和国食品安全法改正,第十章附則,第百五十条
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