第1章 栄養の概念
田地陽一
(新渡戸文化短期大学栄養学研究室 教授)
- 栄養の定義を理解し,「栄養」と「栄養素」の違いを明確にする.
- 三大栄養素と五大栄養素がどのようにはたらくのか理解する.
- 三大栄養素の大部分は,生体内のどこにたどり着くのか理解する.
- 栄養学の歴史を知り,必要なことを覚える.
- 遺伝子多型とはどのようなものか知り,栄養素に対する応答の個人差を理解する.
- 遺伝子多型と,生活習慣病発症との関連を理解する.
栄養の定義
A.栄養とは
栄養学における「栄養」の定義は,一般的に使われている「栄養」という言葉と多少意味が異なるかもしれない.これについてきちんと説明しよう.
われわれヒトは,物質を外界から摂取し,消化・吸収する.その後,体内でエネルギー源として使用したり,体の材料として用いたりした後,不要な物質を老廃物として排泄している.こうした生命活動の営みすべてを「栄養」という.この際,摂取される物質を「栄養素」という.つまり「栄養」とは,食物として「栄養素」を摂取して,その成分をエネルギー源や体成分(体の構成成分)に利用することである.したがって,栄養学とは,「栄養素」のみについて学ぶ学問ではない.栄養素の分類やはたらき,おのおのの栄養素の消化・吸収,体内での代謝,老廃物の排泄に至るまでのすべてを学ぶものである.ヒトにおける栄養の概念を概略図に示した.ここで用いられている「代謝」とは,生体内における物質の化学反応である.栄養素が,エネルギーに変化することや,体の構成成分に変化することをいう.
B.栄養素の種類とはたらき
ヒトが代謝を営むために外界から体内へ摂取する物質を栄養素という.栄養素は食物に含まれており,ヒトは食物を摂取することで栄養素を得ている.栄養素は,次の5つに大別される.①糖質,②脂質,③たんぱく質,④ビタミン,⑤ミネラル(無機質)である.これらを五大栄養素という.さらに,①糖質,②脂質,③たんぱく質は体内で燃焼して,エネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)をつくり出すことができるため熱量素,または三大栄養素(エネルギー産生栄養素)といわれる.おのおのの栄養素がどのようにはたらくのかを図1に示した.このうち,エネルギー源として重要なのは,糖質と脂質である.たんぱく質は主に,体成分となる.ビタミンとミネラル(無機質)は,体内の代謝を円滑に進めるための調節因子としてはたらくが,三大栄養素に比べてケタ違いに微量で効果を有している.
C.三大栄養素はどこにたどり着くのか
食事で摂取する栄養素の大半は三大栄養素である糖質,脂質,たんぱく質である.これらの栄養素は,消化・吸収を経て体内のどこにたどり着くのであろうか.これは重要なことであるが,一般にはあまり知られていない.消化・吸収後,各栄養素は,血流にのって全身の細胞にたどり着く.その後,糖質,脂質の大部分はATP合成の材料となるためミトコンドリアにたどり着く.また,たんぱく質は,アミノ酸となり,体たんぱく質合成の場であるリボソーム(リボゾーム)へ大部分がたどり着き,体たんぱく質に再合成されるのである.図2にそのイメージを示した.三大栄養素のたどり着く場所として,しっかりと覚えておいてほしい.
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