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第Ⅰ章 義肢・装具学
5 上肢切断の作業療法
妹尾勝利
(川崎医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科)
- 多職種連携とオリエンテーションの重要性を理解する
- 上肢切断の作業療法評価を理解する
- 義手装着前練習と義手装着練習を理解する
- 上肢切断者の生活機能の促進に義手が及ぼす影響を理解する
- リハビリテーションチームにかかわる他職種の役割を理解し,作業療法士が上肢切断者のリハビリテーションチームの一員として機能するうえで必要な知識と技術を学習する
- オリエンテーションでは,上肢切断者の精神心理面に寄り添いながら,今後のリハビリテーション過程や実際の義手について,時間をかけて丁寧な説明が重要であることを学習する
- 義手が上肢切断者の生活機能促進因子として適切に機能するためには,作業療法士が義手の機能と役割,切断者の可能性を理解したうえでかかわることが大切であることを学習する
- 第Ⅰ章2の義手の部品を復習しておきましょう
- 第Ⅰ章3の能動義手と筋電義手の操作・制御を復習しておきましょう
- 上肢切断者に対する理解を深めるために,第Ⅱ章1~6を事前に読んでおきましょう
1リハビリテーションチームの関連職種と役割
- 切断に対するリハビリテーションは,医学的・練習的・義肢学的アプローチが相互に関与して実施される.
- リハビリテーションチームは,医師(MD:Medical Doctor),作業療法士(OT:Occupational Therapist),義肢装具士(PO:Prosthetics and Orthotics),エンジニア(Eng:Engineer),理学療法士(PT:Physical Therapist),看護師(Ns:Nurse),医療ソーシャルワーカー(MSW:Medical Social Worker)などの職種で構成される.
- これらの職種が連携して,上肢切断者(以下,切断者)とその家族に正確な知識や技術,正しい情報を提供し,切断者自らがその時々で最適な選択ができるように支援を実施する.
- 職種間のよりよい連携のためには,互いがそれぞれの職種の役割を理解しておくことが重要である(表1).
2上肢切断のリハビリテーション過程
- 切断者の多くは,思いがけない不慮の事故などで上肢が片側性または両側性に失われる.
- 事故後は病院に救急搬送され患肢温存が検討されるが,血管などの損傷の程度や受傷機転(汚染環境など)により再接着が難しいと判断された場合は,切断術(断端形成術)が施行される.
- 作業療法は,切断術後から比較的早い時期に処方される.
- 能動義手に対するリハビリテーションは,病院や施設によって若干異なるが,多くは早期義肢装着法*で実施される(図1).
*断端部の創閉鎖に伴ってギプスや熱可塑性素材でソケットを作製して義手装着練習を開始する.
- 筋電電動義手(以下,筋電義手)に対するリハビリテーションは,能動義手に対するリハビリテーションと並行または能動義手作製後から開始されることが多く1),練習用仮義手による義手装着練習で十分に義手の習熟度を高めたうえで試用練習,本義手作製へとつなげていく(図2).
3オリエンテーション
- 作業療法開始時の切断者は,上肢を失ったショック状態にあり,不安や混乱をきたしていることが多い.
- 切断者がイメージしている義手は,従来の手の外観や機能とそん色ないものであることが多く,実際の義手を見て触れた時とのギャップは大きい.
- オリエンテーションの目的は,今後のリハビリテーション過程や実際の義手について,切断者へ時間をかけて丁寧に説明し,作業療法の役割を理解してもらうことである.
- 義手の理解は,実際の義手を見て触れながら説明を聞くことや,義手を活用している切断者の体験談や動画などを活用して実施する.
- オリエンテーションで注意すべきことは,この時点で切断者が「義手で何がしたいか」を知ろうとすることではなく,切断者自身が自身の背景(個人因子)に照らし合わせ,「義手でできることは何か」を考えられるように導くことである.
- オリエンテーションで重要なことは,切断者が今後のリハビリテーションに希望をもって積極的に参加できるよう支援することである.
4作業療法評価
1)症例情報の収集
- 切断者または家族への面接(問診)やカルテから情報を収集し,基礎情報・一般情報・医学情報として整理する.
1基礎情報
- 氏名,年齢,性別,利き手.
2一般情報
- 受傷前の生活様式(社会の中での役割),家族構成とキーパーソン(家族の中での役割),家族の要望や考え,家屋構造や周囲の環境,職業(職務内容や職場環境など),学校(授業形態や学校環境など),公共交通機関の利用,自動車・自転車運転の必要性,趣味や余暇活動,義手の支給体系,経済状況.
3医学情報
- 診断名と障害名,主訴やニーズ・要望,切断原因と現病歴,切断術(断端形成術:皮膚・血管・神経・骨・筋の処理),服薬状況,合併症,既往歴,検査結果や画像所見,リスク,禁忌事項や注意事項.
2)第一印象
- 身体的特徴と精神的特徴から切断者の全体像を把握する.
3)身体機能面
1全身状態
- 身長,体重,健康状態,体幹・下肢の関節可動域と筋力,姿勢,側わん症の有無,バランス,視覚障害や聴覚障害の有無.
- 側わん症は,肩甲胸郭間切断や肩関節離断で生じる可能性が高い.
2残存肢(非切断肢)
- 上肢長,上腕・前腕周径,関節可動域,筋力(MMTや握力),上肢機能(簡易上肢機能検査:STEF).
- 残存肢が非利き手側の場合は,利き手交換の必要性を評価する.
3切断肢
- 断端長,断端周径,関節可動域,筋力,幻肢および幻肢痛.
- ①断端長(図3)(参照)
- 健側上肢を基準に断端長の割合(%)を算出し,AAOSの基準に沿って上肢の切断レベルを分類する(第1章1の図5参照).断端長の基準点は,肩峰,上腕骨外側上顆,橈骨茎状突起,母指である.
- 上腕切断の場合は,残存肢(非切断肢)の上腕長(肩峰~上腕骨外側上顆),上腕義手長(肩峰~母指先端)を測定する.上腕断端長は肩峰から断端末端部を測定する.
上腕切断レベル(%)=上腕断端長/非切断肢上腕長×100
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文献
- 陳 隆明:義肢装具のEBM 筋電義手処方の判断基準.日本義肢装具学会誌,21:166-170,2005