第3章 研修医が知っておきたい疾患別ステロイドの使い方【皮膚科疾患〜軟膏の使い方〜】
9.アトピー性皮膚炎
林 雄二郎
(医療法人はやし皮フ科クリニック)
Point
- ステロイド外用薬の強さ(ランク)を把握する
- 部位や症状に応じて外用薬を選択する
- ステロイド外用薬の副作用を説明できるようにする
はじめに
皮膚科疾患の罹患率は非常に高く,皮膚科を専門にせずとも医師は日常的に診療する場面がある.1年目研修医でも入院患者から痒み止めを出してほしいと言われた経験はあるのではないだろうか.ステロイド外用薬は種類も多く,軟膏,クリーム,ローション,スプレー,貼付剤と剤形もさまざまである.どの部位に,どの強さを,どんな頻度で,どのくらい塗るのが適切なのか知識を得ておく必要があるため,ステロイド以外の薬剤も含め本稿で簡潔に解説する.
本稿はガイドラインに基づき,ステロイド外用法について簡潔にまとめたものである.なお,本稿で記載した内容にはアトピー性皮膚炎に特化した内容はほとんどなく,ステロイド外用薬の選択,使用方法は湿疹全般に共通している.ただし,タクロリムス軟膏およびデルゴシチニブ軟膏はアトピー性皮膚炎にのみ保険適用があるため,注意が必要である.
1. ステロイド外用薬の分類
ステロイド外用薬は強さ(ランク)と剤形で分類することができる.
1ランク
日本におけるステロイド外用薬の分類と対応する薬品名を表に示す.
米国のガイドラインではステロイドを7つのランク2),ヨーロッパでは4つのランクに分けているが3),日本ではストロンゲスト(Ⅰ群),ベリーストロング(Ⅱ群),ストロング(Ⅲ群),ミディアム(Ⅳ群),ウィーク(Ⅴ群)の5段階に分類される.海外の臨床試験データを参考にする場合には,日本とはステロイド外用薬のランクの分類が違うことに注意する必要がある.
2剤形
ステロイド外用薬の剤形には,軟膏,クリーム,ローション,スプレー,貼付剤がある.それぞれの特徴を理解し使い分ける必要がある.
1)軟膏
べたつき,てかりはあるが,刺激が少なく皮膚保護作用が強いため最も多く利用されている剤形である.
2)クリーム
軟膏に比べ伸びがよく,べたつき,てかりが少ないため使用感はよい.しかし掻破痕や乾燥の強い部位には刺激があり,塗布によって疼痛が出ることもあるので使用には注意が必要である.
3)ローション
クリームよりさらに伸びがよく塗りやすいが,クリーム以上に刺激があるため掻破痕の強い部位は避ける必要がある.頭皮には軟膏やクリームでは毛髪についてしまい塗布しにくいため,ローションが使いやすい.
4)スプレー
一部の外用薬にはスプレーもあり,頭部や手の届かない部位に使用することがある.フルオシノニド噴霧剤(トプシム®スプレー),フルオシノロンアセトニド噴霧剤(フルコート®スプレー)などがある.
5)貼布剤
貼付剤はテープ内に薬剤が含まれており,貼付するだけで非常に強い効果が期待できる.多用すると後述する副作用を起こすこともあるため注意が必要である.難治部位,痒疹,苔癬化病変などに使用する.フルドロキシコルチド貼布剤〔ドレニゾン®テープ:ストロングクラス(Ⅲ群)〕やデプロドンプロピオン酸エステル貼布剤(エクラー®プラスター)などがある.
2. ステロイド外用薬の選択
内科で入院中の50歳代男性.アトピー性皮膚炎歴あり.皮膚科にコンサルトしにくい日曜日に,全身が痒いため外用薬の処方を希望した.頭部,顔面,四肢躯幹に乾燥,高度の苔癬化および紅斑,掻破痕,掻痒を認める.外用歴は不明.
同じランクに数種類の外用薬があるが,まずは院内採用されているものから1つ選択し,効果が不十分の場合は他の種類に変更してみるとよい.同じランクでも効果に個人差があるため,改善することがある.
1部位
部位によるステロイド外用薬の吸収率は,前腕伸側を1とした場合に,頬は13.0,頭部は3.5,頸部は6.0,陰部は42とされる4).吸収率が高いほど弱いランクで効果がでるため,顔や陰部はミディアムクラス(Ⅳ群)が第一選択でよい.
2症状
1)重症
四肢躯幹・頭部の高度の腫脹,浮腫,浸潤,苔癬化を伴う紅斑,丘疹の多発,高度の鱗屑,痂皮の付着,小水疱,びらん,多数の掻破痕,痒疹結節などを主体とする場合は,重症と考え,ベリーストロング(Ⅱ群)あるいはストロングクラス(Ⅲ群)のステロイド外用薬を第一選択とする.
痒疹結節でベリーストロングクラス(Ⅱ群)でも十分な効果が得られない場合は,その部位に限定してストロンゲストクラス(Ⅰ群)を選択して使用することもある.さらに難治性の部位はステロイド含有貼布剤を考慮する.前述のように顔や陰部は吸収がよいので,重症であってもミディアムクラス(Ⅳ群)でも十分である.
●本症例での処方例
- 0.1% ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏(ロコイド®軟膏)顔に1日2回塗布
- 0.05% 酪酸プロピオン酸ベタメタゾンローション(アンテベート®ローション)頭に1日2回塗布
- 0.05% 酪酸プロピオン酸ベタメタゾン軟膏(アンテベート®軟膏)体に1日2回塗布
- 0.3% ヘパリン類似物質軟膏(ヒルドイド®ソフト軟膏)乾燥部位に1日2回塗布
2)中等症
四肢躯幹の中等度までの紅斑,鱗屑,少数の丘疹,掻破痕などを主体とする場合は,ストロング(Ⅲ群)ないしミディアムクラス(Ⅳ群)のステロイド外用薬を第一選択とする.
3)軽症
乾燥および軽度の紅斑,鱗屑などを主体とする場合は,ミディアムクラス(Ⅳ群)以下のステロイド外用薬を第一選択とする.
4)軽微
乾燥のみで炎症がなければ保湿剤(ヘパリン類似物質)を選択する.
3. 投与方法
ただ外用薬を患者に渡すだけでは塗り方に個人差があるため,効果が十分に出ないことや過剰に塗布して副作用が出ることもある.塗布方法の指導も重要である.
1外用量
皮膚がしっとりする程度の外用が必要であり,1つの目安として,第2指の先端から第1関節(DIP関節)部まで口径5 mmのチューブから押し出された量(約0.5 g)が成人の手掌で2枚分,すなわち成人の体表面積のおよそ2%に対する適量であることが示されている(FTU:finger tip unit).
1FTU分を手にとり,両手掌の範囲に均等に乗せた後,こすらずに薄くのばすように指導するとよい.チューブではなく容器に入った外用薬の場合は,ティッシュ1枚が皮膚につく程度に伸ばすようにと説明すると患者がイメージしやすい.
2外用回数
急性増悪の場合には1日2回(朝,夕:入浴後)を原則とする.炎症が落ち着いてきたら1日1回(夕:入浴後)に外用回数を減らし,寛解を維持しながら漸減あるいは間欠投与を行っていく.可能な患者については外用を終了していくが,再燃をくり返す患者については後述のプロアクティブ(proactive)療法を考慮する.
3プロアクティブ療法
プロアクティブ療法は,再燃をよくくり返す皮疹に対して,寛解導入した後に保湿外用薬によるスキンケアに加え,ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏,デルゴシチニブ軟膏を定期的に(週2~3回など)塗布し,寛解状態を維持する治療法である.
4. 副作用
ステロイド外用薬には副作用もあり,十分理解したうえで使用する.不安感をいだく患者や誤解をしている患者も少なくないため,丁寧な説明が必要である.
1全身性副作用
強いステロイド外用薬の外用で一部の症例で副腎機能抑制が生じたとする報告があるが5),弱いステロイド外用薬の使用例では副腎機能抑制,成長障害などは認められていない.適切に使用すれば,全身的な副作用は少なく,安全性は高い.
2局所的副作用
1)皮膚症状
皮膚萎縮,毛細血管拡張,ステロイドざ瘡,ステロイド潮紅,多毛,細菌・真菌・ウイルス性皮膚感染症の悪化などが時に生じうるが,中止あるいは適切な処置により軽快する.
ベリーストロングクラス(Ⅱ群)のステロイド外用薬の長期使用により皮膚萎縮が生じたとの報告6),健常人を対象とした基剤との比較で皮膚萎縮が生じたとの報告6)はある.しかし,長期の使用による重篤な副作用はなく,皮膚の萎縮線条を除いて多くの場合一時的であり,外用頻度を減らすことなどにより軽減することが可能と考えられる.
2)眼症状
眼周囲の病変に対するステロイド外用薬の副作用として問題となるのは,白内障と緑内障である.ただし,ステロイド外用薬の眼周囲への使用が,アトピー性皮膚炎患者における白内障のリスクを高めるとはいえるわけではなくアトピー性皮膚炎患者にみられる白内障は,ステロイド忌避による顔面皮疹の悪化や叩打癖,原病による顔の皮疹の炎症などが誘因と考えられる.
ステロイド外用治療後の緑内障の症例は多数報告されており7),緑内障のリスクを高める可能性は十分にあるが,弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低いと考えられる.
5. 代替薬
1タクロリムス(プロトピック®軟膏0.1%,0.03%小児用)
タクロリムスは細胞内のカルシニューリンを阻害する薬剤であり,副腎皮質ステロイドとは全く異なった作用機序で炎症を抑制する.ステロイド外用薬の長期使用でみられる皮膚萎縮は確認されていないため,ステロイド外用薬の長期使用例にはタクロリムス軟膏への変更あるいは併用を考慮する.
本剤の薬効は薬剤の吸収度に依存しており,塗布部位およびそのバリアの状態に大きく影響をうける.特に顔面・頸部の皮疹に対して高い適応のある薬剤として位置づけられている.一方で,びらん,潰瘍面には使用できない.16歳以上に使用可能な0.1%軟膏と2~15歳の小児用の0.03%軟膏があり,2歳未満の小児には安全性が確立していないため使用できない.また授乳中の婦人にも使用しない.
2デルゴシチニブ(コレクチム®軟膏0.5%)
ヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)阻害薬であるデルゴシチニブの軟膏がアトピー性皮膚炎の治療薬として2020年1月に世界に先駆けて本邦で承認され,6月から臨床で利用されている.デルゴシチニブはJAKファミリーのキナーゼ(JAK1,JAK2,JAK3,TYK2)のすべてを阻害し,免疫細胞の活性化を抑制する8).タクロリムス軟膏にみられるような刺激症状はみられず,ステロイド外用薬から変更しやすく,アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用薬長期連用例からの切り替えにはよい適応である.
おわりに
ステロイド外用薬は内服薬に比べると副作用が少なく,使いやすい.適切な選択,使用方法を理解したうえで臆さず処方してもらいたい.また,「この薬は効かない」と患者から言われることがあるが,よくよく話を聞くと“外用によりいったん症状は改善するが,塗布をやめると症状が再燃する”の意であることが多い.ステロイド外用薬は決して特効薬ではないため,すぐに完治はしないこと,保湿でスキンケアをしながら徐々に外用回数を減らすことを目標に治療することを説明すると納得していただけることが多い.患者がステロイド外用薬をどう捉えているか,誤解はしていないか,不安はないかしっかり話を聞き,個々の理解に応じた説明ができるようにしていくことが大事である.
文献・参考文献
- 加藤則人,他:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018,日皮会誌,128:2431-2502, 2018
- Eichenfield LF, et al:Guidelines of care for the management of atopic dermatitis:section 2. Management and treatment of atopic dermatitis with topical therapies. J Am Acad Dermatol, 71:116-132, 2014(PMID:24813302)
- National institute for Health and Care Excellence:Frequency of application of topical corticosteroids for atopic eczema,2004
- Feldmann RJ & Maibach HI:Regional variation in percutaneous penetration of 14C cortisol in man. J Invest Dermatol, 48:181-183, 1967(PMID:6020682)
- Ellison JA, et al:Hypothalamic-pituitary-adrenal function and glucocorticoid sensitivity in atopic dermatitis. Pediatrics, 105:794-799, 2000(PMID:10742322)
- Hajar T, et al:A systematic review of topical corticosteroid withdrawal(“steroid addiction”)in patients with atopic dermatitis and other dermatoses. J Am Acad Dermatol, 72:541-549.e2, 2015(PMID:25592622)
- 有川順子,他:アトピー性皮膚炎患者の眼圧と顔面へのステロイド外用療法との関連性についての検討,日皮会誌,112:1107-1110,2002
- 中村晃一郎,他:日本皮膚科学会ガイドライン デルゴシチニブ軟膏(コレクチム®軟膏0.5%)安全使用マニュアル,日皮会誌,130:1581-1588,2020
著者プロフィール
林 雄二郎(Yujiro Hayashi)
医療法人はやし皮フ科クリニック
京都大学医学部卒業,市立堺病院研修,京都大学病院,長浜日赤病院,京都医療センター,枚方公済病院を経て平成26年に開業.
新型コロナウイルス流行に伴い,手湿疹罹患者が増えています.手が荒れやすい人は手洗い・消毒後にはその都度保湿をして予防しましょう.痒みがある人はステロイド外用薬を使ってみてはどうでしょうか.