レジデントノート増刊:厳選!日常治療薬の正しい使い方〜作用機序から納得!外来・病棟の処方に自信がもてる30テーマ
レジデントノート増刊 Vol.24 No.2

厳選!日常治療薬の正しい使い方

作用機序から納得!外来・病棟の処方に自信がもてる30テーマ

  • 一瀬直日/編
  • 2022年03月18日発行
  • B5判
  • 264ページ
  • ISBN 978-4-7581-1678-7
  • 5,170(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
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第7章 感染症

2.小児のかぜに対する薬の正しい使い方

堀越裕歩
(東京都立小児総合医療センター 感染症科 医長)

薬の使い方のポイント・注意点

  • かぜに対して抗菌薬を処方することは,効果がないどころか,下痢などの副作用や耐性菌をつくってしまう観点から有害なこともある
  • 残念ながらかぜを治す薬はない.症状緩和のために解熱鎮痛薬などを使用することがある

1. 病態と合併症

1かぜとは

かぜとは,意外とあいまいな呼称で,医療者や一般の人が“かぜ”と言っても意味しているものが人によって違ったりする.小児では,お腹のかぜといって胃腸炎をさすこともあるし,かぜをきたすウイルスによっては,さまざまな症状を起こす.また,かぜをこじらせて肺炎になったりすれば,それは“かぜ”ではなく肺炎である.合併症の有無でも疾患の捉え方が変わってくる.いわゆる自然に治癒する“かぜ”と治療が必要となる疾患を見極めることが大事になる.

“かぜ”に一番近い意味の英語はcommon coldで感冒と訳されることが多いが,これには定義があり,急性の自然に治癒するウイルス性の上気道の感染症をさす.厚生労働省の抗微生物薬適正使用の手引き1)では,3カ月以上の乳幼児,学童から成人を対象に,鼻汁や鼻閉などの鼻症状,咽頭痛などの咽頭症状,咳などの気管支症状を合わせて,“かぜ”として受診される病態としている.つまり“かぜ”とは,特に治療を要さなくても自然に治癒する軽症のウイルスによる疾患で,主に気道症状をきたすものといえるだろう.ただし実際の臨床の現場では,咳こんで嘔吐を伴ったり,嘔吐や下痢などの胃腸炎症状を合併したり,ウイルス性の発疹などを伴うことがある().

2かぜで注意すべき合併症

小児のかぜに合併するもので,治療しなければいけない代表的な疾患は,A群溶血性レンサ球菌咽頭炎,中等症以上の急性化膿性中耳炎,細菌性肺炎,尿路感染症,菌血症などがあげられる.

また生後3カ月未満の発熱は,細菌感染症の可能性が生後3カ月以降に比べて高く,症状がわかりにくくて急変することもあるため,安易にかぜと診断してはいけない.実際にはかぜのことも多いが,原則,精査対象である.細菌感染の頻度順に尿路感染症,菌血症,細菌性髄膜炎が鑑別になる.

乳幼児では,かぜによる気道ウイルス感染症から,クループ症候群,急性細気管支炎を合併することがある.クループ症候群は,喉頭のむくみにより嗄声や吸気性喘鳴をきたす上気道の病気である.オットセイや犬のような甲高い咳と形容されるような特徴的な咳をする.細菌感染の急性喉頭蓋炎が鑑別になるが,Hib(インフルエンザ菌b型)や肺炎球菌ワクチンの普及でかなり稀な疾患になった.また上気道閉塞が鑑別になるので,異物の誤飲の現病歴がないかも聴取する.

急性細気管支炎は下気道狭窄により呼気性喘鳴をきたし,2歳未満でみられ,特に乳児で注意が必要である.RSウイルスやヒトメタニューモウイルスなどが原因として多い.病態の中心が気管支よりも先の狭窄で,解剖学的に平滑筋がない細気管支の病変のために気管支拡張剤が無効で,喘息と違ってステロイドも効かないとされる.いずれの病態でも,呼吸数の増加や陥没呼吸などの呼吸窮迫症状がないか,気道の異常がないかを,身体所見と診察,酸素飽和度などで確認する.

また,かぜを含むさまざまな急性疾患で小児は脱水症になることがある.水分を摂れない,嘔吐下痢で水分喪失する,発熱などで水分を消耗するためである.病歴聴取で,経口摂取の程度,具体的に何mLくらいの水分を摂れているか,1日の排尿回数,最終排尿の時間を聴取する.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)では,乳幼児は一般に無症状から軽症のことが多い.他の原因の“かぜ”と変わらず,発熱,咳,鼻汁,嘔吐,下痢などがみられる.もし呼吸器症状が強い場合,RSウイルスやパラインフルエンザウイルスなどの他の病原性の高いウイルスの共感染のことがある.

3かぜと診断したときの保護者への説明

かぜを治す薬はないが,保護者は心配で医療機関を受診する.かぜと診断して心配すべき病気がないと考えられたとき,しっかりと不安を取り除いてあげることが大事である.比較的元気で水分も摂れている場合,ほとんどのかぜによる発熱は1~5日間,長くても7日間程度で解熱し,自然に回復すると説明する.かぜそのものよりも,脱水で具合が悪くなることが多く,塩分を含む水分をしっかり与えることが重要である.また小児で多い注意すべき状態を説明し,医療機関を適切に受診するタイミングを指導する.水分を摂れずに排尿が半日以上なくてぐったりしているとき,苦しそうに呼吸をしていて横になって眠ることができない,既往のない痙攣や意識状態がおかしいときは,すぐに医療機関を受診するように伝える.

2. 薬の種類

1解熱鎮痛薬・気道症状の薬

かぜで処方される薬剤は,解熱鎮痛薬と気道などの症状緩和目的の薬剤に大きく分けられる.解熱鎮痛薬は,アセトアミノフェン(カロナール®,アンヒバ®)を成分とした錠剤,シロップ,坐薬がある.イブプロフェン(ブルフェン®)も小児で安全使用できる薬剤であるが,かぜに対しては,アセトアミノフェンで対応できることがほとんどである.それ以外の解熱鎮痛剤は,一部の病態で,ライ症候群やインフルエンザ脳症のリスクになることがあるため,小児のかぜでは使用を避ける.気道症状の緩和目的で処方される薬剤は,鼻汁などに対して抗ヒスタミン薬,咳などに対して抗アレルギー薬,気管支拡張薬,鎮咳薬,去痰薬,ステロイドがあるが,適応は限定的である.

2かぜに抗菌薬は必要か?

かぜに合併する細菌感染症に対して,抗菌薬の適応になることはあるが,かぜそのものに対して抗菌薬は適応にならない.また細菌感染症の合併を予防する目的での使用も避けるべきである.近年は,薬剤耐性が世界的な問題となり,抗菌薬は細菌感染症で治療によるメリットが明確な疾患以外には,使用すべきではないと考える時代になった.予防的な投与を行うとほとんどが抗菌薬の必要のない児に投与されること,抗菌薬によるメリットがないのに副作用をきたすことがあること,薬剤耐性菌は拡散することがあるため本人や周囲の人たち,未来の子ども達までの健康を損なうリスクになる.かぜや発熱,嘔吐や下痢に対して,ルーチンに抗菌薬を処方されることがあるが,改めるべきである.国際的にも抗菌薬の適正使用が推進され,日本政府と厚生労働省は,薬剤耐性対策で抗菌薬を適正に使用することを推奨し,抗微生物薬の適正使用手引きを公開している1,2)

3. 薬の選び方・使い方

1解熱鎮痛薬

かぜの発熱に対して,解熱鎮痛薬を使用する意義は,発熱や痛みの症状の緩和や体温を下げることで呼吸窮迫や脱水に対しての生体の代償能力に余力をもたせることにある.体温を1℃下げるだけでも体が消費する酸素や水分を抑えることができる.また,水分摂取困難になっている乳幼児が,咽頭の痛みをとったり,熱を下げたりすることで水分摂取ができることがある.経口から与薬できない小児では,坐薬が選択肢になる.

処方例

アセトアミノフェン(カロナール®,アンヒバ®):1回10 mg/kg,4~6時間あけて

2症状緩和の薬剤は使用すべきか?

小児のかぜの症状緩和に対して解熱鎮痛薬以外の薬剤を使用することは,議論がある.まず治癒する薬ではないこと,鼻汁や咳などの症状緩和の効果すら疑問であること,副作用で有害事象が起きることが指摘されている.

米国では,2歳未満では原則,市販の感冒薬を使用しないように勧告を出している.背景として感冒のシロップ剤の誤飲,誤用による救急外来受診や死亡の報告があるためである.日本では,同様の傾向を示す統計データはなく,使用を控える勧告は行われていないが,かぜの症状に対して有用というエビデンスのある薬剤はない,どのような薬でも副作用がある,そして何よりかぜは自然に治る疾患であるということを考慮すべきである.特に1歳未満の乳児への感冒薬の使用は慎重にし,3カ月未満では使用を避けるべきである.なかでも抗ヒスタミン薬の使用による分泌物の粘稠化が原因の無気肺,呼吸抑制が懸念され,呼吸不全で人工呼吸管理が必要となるきっかけになることがある.

鼻汁に対してはアレルギーが原因でない限り,かぜの鼻汁に抗ヒスタミン薬は無効である.ほとんどのかぜの咳嗽は,自然に治癒して薬物治療が必要ない.コデイン類の鎮咳薬は,呼吸抑制のリスクから12歳未満での使用を避けるよう厚生労働省から注意喚起が出ている.同様にアレルギー性の喘息以外には,抗アレルギー薬やステロイドは無効である.

肺音に呼気性喘鳴などの気管支狭窄がある場合には,気管支拡張薬が使用される.2歳未満の年少児では,急性細気管支炎で呼気性喘鳴が聴取されることがあるが,この場合,気管支拡張薬は無効である.気管支喘息の既往がある児でかぜに伴う喘息発作,または気管支炎などから一過性に気管支狭窄があるときは,気管支拡張薬(メプチン®,ホクナリン®テープ)で気道を拡げる治療が有効である.クループ症候群で喉頭の気道狭窄の程度が強く,安静時でも吸気性喘鳴がある場合,デキサメタゾン(デカドロン®)が喉頭のむくみの軽減に使用される.

処方例(呼気性喘鳴があるとき)

  • プロカテロール(メプチン®ドライシロップ):1回1.25μg/kg 1日2回
    または
  • ツロブテロール(ホクナリン®テープ):6カ月から3歳未満0.5 mg,3〜9歳未満1 mg,9歳以上2 mgを1日1回胸部,背部,上腕のいずれかに1枚貼付
COI開示:

本稿の内容に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業等はありません.

文献

プロフィール

堀越裕歩(Yuho Horikoshi)
東京都立小児総合医療センター 感染症科 医長
専門:小児感染症,国際保健,抗微生物薬の適正使用プログラム(Antimicrobial Stewardship Program,ASP)
新型コロナウイルスで大変な時代になり,改めて感染症の対応が問われるようになりました.世界的な薬剤耐性の問題も引き続き,予断を許さない状況が続いています.しっかり勉強して,かぜの適正な診療を身につけましょう.

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