第4章 ここに注意!研修医のピットフォール
1.本当に異常? 最低限知っておきたいピットフォール
西田暁史1),芦澤和人2)
(佐世保市総合医療センター放射線科1),長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床腫瘍学2))
Point
- 病変と間違えやすい正常構造や病的意義のない変化の特徴を知る
- 頻度の高い正常変異を知る
- これらの所見と重大な病変との鑑別の要点を知る
はじめに
本稿では,胸部単純X線写真や胸部CTを読影する際に,初学者が異常所見と認識してしまいがちな病的意義のない変化や正常変異について,症例を提示して解説します.
1. 胸部単純X線写真のピットフォール
1肺結節と紛らわしい陰影
1)第1肋軟骨の石灰化
第1肋軟骨の石灰化は,肋軟骨の石灰化のうち最も頻度が高く,骨棘様に下方に突出して不規則な形態を示し(図1),肺結節と紛らわしい陰影を呈します.鑑別のポイントは陰影の中心に関節裂隙があること,程度の差はあっても対側に同様の所見がみられることが多いことです.
2)乳頭陰影
乳頭陰影(nipple shadow)は下肺野に円弧状の淡い結節影としてみられ(図2),左右対称であれば認識は容易です.乳頭の描出のされ方は,撮影装置との接し方によって変化しますが,境界の一部が不明瞭(incomplete border sign:不完全辺縁徴候)に描出されることが多く,読影のポイントとなります.片側しか見えない場合も少なくなく,肺結節と紛らわしい場合があるので,部位や結節の辺縁に注目してください.なお,皮膚の疣も同様に結節影として描出され,肺結節と紛らわしい場合があります.
3)骨島
骨島(bone island)は海綿骨内に島状に形成された緻密骨で,病的意義はありません.胸部単純X線写真では限局性骨硬化像を示し,辺縁は明瞭または棘状です(図3).肺結節と紛らわしい陰影を示しますが,肋骨との位置関係に注意して読影すれば正しく診断できることが多いです.
2縦隔腫瘤と紛らわしい陰影
1)腕頭動脈の蛇行
高齢者で腕頭動脈が拡張・蛇行し,右上縦隔に腫瘤状の陰影をきたすことがあり(図4),腕頭動脈の蛇行(buckling)と呼ばれます.縦隔腫瘍との鑑別に有用なポイントは,腕頭動脈の蛇行では気管の圧排はなく,頸胸部徴候(後述参照)は陽性であることです.
2)食道裂孔ヘルニア
食道裂孔ヘルニアは成人のヘルニアのうち最も頻度が高く,高齢者でしばしば認められます.胸部単純X線写真では心陰影の後方に類円形の腫瘤影として認められます(図5A).縦隔腫瘍や大動脈瘤との鑑別が問題ですが,内部に空気を含み,時に液面を形成することがあることに注意すれば診断できることが多いです.また,左上腹部に胃泡がないことにも注意するとよいでしょう.
3その他
1)apical cap
肺尖部胸壁に沿った平滑ないし波状の辺縁を有する帯状陰影はapical capと呼ばれます(図6).高齢者によくみられ,肺尖部胸膜下の非特異的線維性瘢痕で,病的意義はありません.片側性もしくは両側性にみられ,両側性であってもしばしば非対称です.
ただし,一見apical capに見えても,肺尖部胸壁浸潤を伴う肺癌の症例があるので注意が必要です.腫瘍を疑うべき所見は,apical capの陰影が辺縁不整で下方に凸の厚い(5 mmを超える)場合や経時的に増大する場合です.
2)皮膚の皺
背臥位や座位の撮影では,背部に生じた皮膚のたるみや皺(skin fold)による直線または円弧状の線状影が生じることがあります(図7).縦走する場合は気胸と見誤る可能性がありますが,線状影の外側にも血管影がみられることが鑑別のポイントとなります.
2. 胸部CTのピットフォール
1正常変異
1)右鎖骨下動脈起始異常
右鎖骨下動脈起始異常(aberrant subclavian artery)は,右鎖骨下動脈が大動脈弓の第4分枝として大動脈弓遠位から分岐し,通常食道の後面を走行します(図8).頻度の高い大動脈弓の正常変異で,病的意義はありません.
2)左上大静脈遺残(PLSVC)
左上大静脈遺残(persistent left superior vena cava:PLSVC)は,左腕頭静脈が右腕頭静脈と合流することなく,多くは冠静脈洞から右心房に還流します(図9).頻度の高い静脈の正常変異で病的意義はありませんが,カテーテルやペースメーカーなどを留置する際,留意する必要があります.
3)気管気管支
気管気管支(tracheal bronchus)は上葉気管支(の一部)が,気管から直接分岐する正常変異です.多くは右に認められます(図10).通常病的意義はありませんが,肋骨の奇形や肺静脈還流異常などを合併することがあり,くり返す肺炎などで見つかることもあります.
2病変と紛らわしい正常構造
1)上心膜腔
心膜腔の広がりは個人差があり,上行大動脈の背側ではかなり頭側までみられることがあります(図11).上心膜腔(superior pericardial recess)に貯留した生理的な心嚢水はしばしば縦隔リンパ節腫大や縦隔腫瘍と間違えられます.特徴的な部位と,内部が水の吸収値であることに注意すれば正しく鑑別できるでしょう.
2)動脈管索の生理的石灰化
動脈管索に生理的石灰化(calcification of the ligamentum arteriosum)がみられることがあり(図12),石灰化は小児でも認められます.魚骨誤飲が疑われる小児に対して,胸部CTで咽頭や食道の魚骨異物を検索する際,魚骨と紛らわしい線状の石灰化を認めることがありますが,動脈管の解剖学的な位置から判断できます.
3)気管・気管支内の喀痰
気管や気管支内に喀痰が描出されることがあり(図13),気管・気管支内にポリープ状に突出する腫瘍との鑑別が問題になることがあります.内部に泡沫状の気泡がみられる場合は喀痰の可能性が高いですが,鑑別が難しい場合もあります.
3病変と紛らわしいすりガラス影
1)荷重部無気肺
両肺背側の胸膜下に沿ってすりガラス影が認められることがあり(図14),荷重部の無気肺(gravity-dependent atelectasis)と考えられます.高齢者や,撮像時の吸気が不充分な場合によくみられます.軽度の間質性肺炎との鑑別が問題になることがあり,間質性肺炎を否定する必要がある場合には,腹臥位のCT撮像が有用なことがあります.
2)胸椎骨棘に隣接する無気肺・線維化
高齢者の胸椎に変形性変化による骨棘が認められる場合に,両側下葉内側の骨棘の周囲にすりガラス影,網状影が認められることがあります(図15).骨棘による機械的な刺激で無気肺や線維化(pulmonary atelectasis and fibrosis adjacent to thoracic spine osteophytes)が生じると考えられ,病的意義はありません.間質性肺炎や肺腺癌との鑑別が必要になることがあります.
おわりに
異常所見と認識しがちなピットフォールや正常変異について症例を提示しました.本稿が,日常診療において読者が不要な侵襲的精密検査を避けるとともに,重大な病変を見逃さないための一助になれば幸いです.
本稿の執筆にあたり症例を提供していただいた佐世保市総合医療センター放射線科 城戸 康男 先生,有里 沙織 先生に感謝いたします.
参考文献・もっと学びたい人のために
- 「新版 胸部単純X線診断 画像の成り立ちと読影の進め方」(林 邦昭,他/編著),学研メディカル秀潤社,2000
- 「コンパクトX線シリーズBasic 胸部単純X線アトラス vol.1 肺」(芦澤和人/著),ベクトル・コア,2006
- 「画像診断 別冊KEY BOOKシリーズ 困ったときの胸部の画像診断」(芦澤和人/著),学研メディカル秀潤社,2019
プロフィール
西田暁史(Akifumi Nishida)
佐世保市総合医療センター放射線科 部長
画像診断とIVRを担当しています.初期研修医の時期は自分の情熱を傾けられる分野を探して,それを見つけられたら突き進んでください.
芦澤和人(Kazuto Ashizawa)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床腫瘍学 教授