第3章 救急診療各論② 緊急性の高い疾患を有する症候
12.発熱
岡田信長
(京都第一赤十字病院救急科)
Point
- 主訴「発熱」は感染症と敗血症の存在を常に考える
- 診断/評価と治療を同時に行っていく必要がある.その診断,治療を時間軸にどのようにセットしていくのか常に考えよう
はじめに
比較的重症な患者が多い救急現場において,治療開始までの時間は患者の予後に大きくかかわるし,そうかといって診断がままならない状態で治療を始めると治療自体が適切でない可能性がある.
発熱患者の場合,「診断の正確さ:発熱の原因が何なのか? 非感染症か? 感染症か? 感染症であれば感染臓器はどこで,病原微生物は何なのか?患者リスクは?」VS.「治療開始のスピード:輸液療法,手術や適切な抗菌薬投与開始」にどう折り合いをつけるかが重要である.本稿では発熱患者において時間軸が鍵になるであろう敗血症,重症感染症の症例を中心に述べていく(図).
1. 発熱患者,まず考えること2点
糖尿病,高血圧の既往がある69歳の男性.体重50 kg.受診の前日より発熱と倦怠感があり,意識が朦朧としているところを家人に発見され,救急車にて救急外来に搬送された.GCS:E3V4M5,血圧88/56 mmHg,脈拍110回/分,SpO2:98%(室内気),呼吸数30回/分,体温38.8℃.静脈路確保,血液検査の準備をしながら診療を開始した.
1感染症か非感染症か?
発熱患者の診療では頻度,重症度からまず感染症を念頭において鑑別診断を行うことが重要である.感染症を疑った場合,随伴症状,基礎疾患や免疫抑制状態の有無,年齢などの情報を収集し,感染臓器が何であるか,抗菌薬投与はどうするかを考えていく.もちろん,敗血症に至っているかなど重症度の評価も忘れてはならない.非感染症(表1)は感染症に比べると頻度は低いものの,鑑別が必要となる疾患が多くある.
2ABCが安定しているか否か?
1)ABCが安定している
病歴聴取,診察からしっかり鑑別を立て,検査を行い,診断に至るプロセスを踏むことが容認される状態であろう.しっかりとした鑑別・正確な診断を得たうえで診療を進めれば不必要な検査・過剰な治療,不適切な抗菌薬投与などのデメリットを回避できる可能性があるからである.
2)ABCが不安定である
この場合,確定診断よりも治療を優先する局面がある.ABCの安定化を第一目標に治療介入を行いながら,同時に診断を進めていく意識が必要である.重症感染症には今すぐできる評価のみ行い,早々と抗菌薬を投与しなければならないこともある.確定診断に至ったときには,患者が助からない状態であったなどいう本末転倒なことになってはならない.
2. 敗血症の診断
つぎに,本症例のように感染症が疑われる患者には敗血症,敗血症ショックの有無を評価する.
1臓器障害,ショックの診断
救急外来の患者や一般病棟に入院中の患者で感染症を疑えば,qSOFA(quick sequential sepsis-related organ failure assessment)1)の3項目:①意識状態の変容,②呼吸数≧22回/分,③収縮期血圧≦100 mmHgを確認し,2つ以上を満たす場合,臓器障害を伴う感染症=敗血症の可能性が高いと判断する.ただし,qSOFAスコアが陰性でも敗血症を否定することはできないため,単独でスコアをスクリーニングに用いることはせずに時間的な臨床経過も含め判断するのが重要である2).
また,敗血症のうち急性循環不全により死亡率が高い重症な状態を敗血症性ショックと区分しており,「初期輸液療法だけでは平均動脈血圧 ≧ 65 mmHgを維持できず血管作動薬の併用が必要で,さらに血中乳酸値> 2 mmol/L(18 mg/dL)の場合」に診断する.
2感染症の診断
感染症の診断では感染臓器,病原微生物,患者の状態(リスク)を評価する.
1)感染臓器の絞り込み
感染臓器を絞り込むためには一般的に既往歴,生活歴,感染歴,時間経過や症状も含めた現病歴を聴取するわけだが,ここでは特に重症感染症のリスクであるステロイドや免疫抑制薬の内服歴,HIV,糖尿病,癌の罹患,腎不全,肺疾患,肝不全,脾機能低下(脾臓摘出後含む)などの情報を早めに確認しておくとよい.
2)病原微生物の同定
病原微生物の同定にはグラム染色,培養検査,抗原抗体検査などがある.病原微生物を1時間程度で同定できる遺伝子検査(PCR法)による網羅的微生物検出法もあるが本邦の救急外来では汎用性,迅速性,コストパフォーマンスの点でグラム染色がより一般的に用いられている.COVID-19の流行からPCR法の使用に対するハードルは下がってきており,今後,遺伝子検査,グラム染色双方の特徴を活かした診断が期待できるだろう.
3)培養検体採取のタイミング
菌血症は高い死亡率と関連しているため血液培養(抗菌薬投与前に2セット採取する)は最も重要である.一方で発熱患者の血液培養陽性率は高くないため,血液培養のみで感染臓器および病原微生物の同定を行うには限界がある3).そこで尿,痰,髄液などの臨床像より感染源となっている可能性が否定できない部位からの培養検体採取を抗菌薬投与前に行うことが推奨されている.ここで議論になりやすいのは採取手技に時間を要する髄液検体である.細菌性髄膜炎は予後の観点から,なるべく早く(1時間以内に)抗菌薬投与すべきとされている.しかし,抗菌薬投与前の髄液培養陽性率は80~90%なのに対し,投与後では50%以下(投与4時間以内73%,4時間以降11%)4)といわれているため抗菌薬投与前の検体採取が望ましく,ジレンマである.
筆者は細菌性髄膜炎を疑ったがすぐに髄液検査ができない状況であれば血液培養を採取後,抗菌薬投与を開始し,並行してCT検査,髄液検査をすることもある.細菌性髄膜炎に対する抗菌薬投与直前のステロイド投与に関して詳細は成書に譲るが,先進国である本邦では投与すべきと考える.抗菌薬投与中,投与後にステロイド投与しても有効であること,黄色ブドウ球菌が病原微生物になりやすい脳外科的手術,頭部外傷を受けた患者に併発した症例には推奨する根拠がないことは知っておくと参考になる.
3. 敗血症の治療
敗血症は感染症+臓器障害であり,敗血症性ショックは循環不全であるので,治療のイメージは臓器障害・循環不全への治療と原因である感染症治療となる.
1臓器障害・循環不全へのアプローチ
1)初期輸液療法:いつ,どれくらい?
血管内容量減少のある敗血症患者において,初期輸液療法は早期に開始すべき治療である.循環血液量を適正化するために晶質液*30 mL/kg以上を3時間以内に投与するべきとの意見があり目安になるが,過剰輸液は敗血症の独立した予後不良因子であると複数の研究から報告されているため,異なる患者背景に一律には晶質液30 mL/kg以上を3時間以内に投与するべきとはいえない5, 6).相対的に減少した循環血液量を補い,できるだけ早い段階で適正化することが目標であるため,平均血圧≧65 mmHg,血中乳酸値≦2 mmol/L,毛細血管再充満時間(capillary refilling time:CRT)を組織灌流の指標として輸液量を調整する.さらに呼吸数,意識,脈拍,尿量,心エコー(心機能低下,血管内容量)などを用いて評価し,十分かつ過剰にならない輸液療法を行うことが重要である.
*晶質液
生理食塩水はクロール負荷による代謝性アシドーシス,腎障害などが問題となることもあり,balanced crystalloid(バランスのとれた晶質液)を選択するとよい.2)循環作動薬
初期輸液療法を行ってもショック状態が遷延する患者には,循環作動薬を使用する.末梢血管抵抗低下に対して使用される血管収縮薬の第一選択はノルアドレナリンであり,さらに追加するとすればバソプレシン(保険適用外使用)が第二選択として推奨されている.敗血症性ショック状態が続くと貯蔵していたバソプレシンが枯渇し,血中濃度が低下するためホルモンの補充という側面もある7).
心機能低下を呈する成人敗血症性ショック患者に対しては,強心薬(アドレナリン,ドブタミン)の投与を検討するが催不整脈性には十分留意しなければならない.
病歴聴取・身体診察と検査結果より,何らかの細菌性感染症を疑われ,qSOFA:3点のため敗血症と判断し,治療を開始した.血管内容量の低下に対し,初期輸液療法として乳酸リンゲル液投与を開始した.血液培養,痰培養,尿培養の検体採取はしたが診察上,いまだ感染臓器は不明.重症度を加味してCTRX(セフトリアキソンNa静注用)2 gを投与した.1,500 mLの輸液を投与後,平均血圧60 mmHg,血中乳酸値6 mmol/Lとショックは持続しており,ノルアドレナリン(ノルアドリナリン®)を0.05γで開始した.
●処方例
- ノルアドレナリン 1 mg/mL/A 3A+生理食塩水47 mL(3 mg/50 mL)
0.01~0.4μg/kg/分(体重50 kgの患者の場合 20 mL/時で0.4μg/kg/分) - バソプレシン(ピトレシン®)20単位/mL/A 2A+生理食塩水38 mL(40単位/40 mL)最大2 mL/時(ただし,保険適用外)
3)ステロイド
敗血症下ではコルチゾール分泌不全(相対的副腎不全),糖質コルチコイド受容体減少が起こり,ショックの遷延化に関与している可能性が示唆されている.初期輸液療法,循環作動薬に反応しない敗血症性ショック患者への低用量ステロイド〔例:ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフ®注射用,ヒドロコルチゾンリン酸エステルNa)200 mg/日持続静注〕投与は考慮される.重篤な副作用は少ないとされるが本症例のように糖尿病患者などでは高血糖が起きる可能性や他にも,高ナトリウム血症,消化管出血のリスクには留意する.
2感染症の治療
救急診療での感染症の治療は抗菌薬投与と外科的介入の適応判断である.
1)抗菌薬治療
先述の通り,グラム染色や培養検査の検体採取は抗菌薬投与の前が望ましい.その後,経験的に抗菌薬選択,投与を行うのだが「いつ抗菌薬投与すべきか?」という疑問にぶち当たる.2006年Kumarら8)の「適切な抗菌薬投与が1時間遅れると死亡率が7.6%上昇する」「低血圧の認識後1時間以内に効果的抗菌薬を投与することで敗血症性ショックの患者において生存率を上げる」との報告から「1時間以内に抗菌薬を投与せよ!」といわれることが多くなった.敗血症患者に抗菌薬投与が遅れるごとに予後が悪くなっていくことは以降の研究でも示されているが,1時間以内の投与に拘泥することは感染臓器,病原微生物の推定を不十分にし,不必要かつ過剰に広域/多剤の抗菌薬投与,効果のない不適切な抗菌薬投与に繋がるリスクがある.敗血症であるがショックを伴わない症例に関しては3時間という指標も提示されている2).つまり,1時間という区切りにあまり意味をもたせずに,適切な評価と培養検体採取後,なるべく迅速に適切な抗菌薬を投与するというのが今のコンセンサスである9).
一般的に救急外来でできるアプローチとしては初期蘇生を行いながら,培養検体の採取を行っている間に身体診察,病歴聴取,患者のリスク評価などを行う.そして,感染臓器と病原微生物を推定し,患者のリスク評価を勘案して抗菌薬を選択,投与するのが適当である.血液検査や尿検査,髄液検査,抗原検査,グラム染色の結果を見てから投与するか,超音波検査などで感染臓器を絞り込んでから投与するか,それでも感染臓器が絞れない場合は,CTなどの画像検査で検索してから抗菌薬を投与するかは,患者の重症度や施設の検査アクセスによるため,自分がその施設でどの段階まで検査,診断,標的推測をして経験的抗菌薬治療を開始するかをあらかじめ考えておくとよいだろう.
2)外科的感染巣コントロール
抗菌薬投与と並び,患者予後に関連する敗血症の根本治療である.外科的感染巣コントロールが必要な重症感染症として代表的なものは腹腔内膿瘍,壊死性軟部組織感染症(necrotizing soft tissue infection:NSTI)である.ドレナージが必要という観点でいえばカテーテル関連血流感染症,胆嚢炎,胆管炎,尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎,膿胸なども救急外来では頻度が多く処置が必要になることが多い(表2).
外科的感染巣コントロールが必要な感染症に敗血症性ショックを伴う場合や比較的進行が早いNSTIは特に期を逸してはならない.現場では「バイタルサインが不安定であるので,外科的介入はバイタルサインを落ち着けてから」と言われることもあるが疾患によってはバイタルサインを落ち着ける努力をしながら外科的介入を行うべきとされるもの12)もあるため,救急外来では外科的感染巣コントロールが必要な感染症を疑った時点で初期蘇生,抗菌薬治療を行いながらかかわる専門科医師と連携して治療に臨むことが肝要である.
輸液の投与継続とノルアドレナリン投与下ではあるが,平均血圧は70 mmHgと安定した.しかし,血中乳酸値は依然4 mmol/Lで,意識が改善してくるとともに鼠径部の痛みを訴えた.注意深く診察すると大腿内側,会陰部に軽度の発赤があり,圧痛も強くNSTI(Fournier壊疽)を疑った.すみやかに皮膚科医師に相談するとともに,抗菌薬の再考を行い,グラム染色,培養結果がわかるまでは複数菌を疑いTAZ/PIPC(ゾシン®),VCM(バンコマイシン),CLDM(ダラシン®)の3剤で治療を行う方針とし集中治療室に入室させた.
おわりに
発熱患者においては感染症でも非感染症でも,ある一定数,切迫した状況で来院する患者が存在する.焦らず急ぎ,適切な診療を行うには事前に自施設でどのような検査がどれくらいの時間で可能で,コンサルテーション可能な専門科がどのような体制なのかを確認し,知識としても事前に準備しておくことが大切である.
引用文献
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プロフィール
岡田信長(Nobunaga Okada)
京都第一赤十字病院救急科
救急診療においてタイムマネジメントはとても重要です.しかし,腰を落ち着けて考えないと頭がこんがらがってしまう私のような人間にとってはストレスです.本書が同じ気持ちの先生方の「焦らず急ぐ」診療の一助になれば嬉しいです.