第1章 基本所見の見分け方
6.鱗屑
安田正人
(群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 准教授)
Point
- 角質層は皮膚の最外層であり,表皮・真皮の変化を反映したものが鱗屑である
- 鱗屑は続発疹であり,紅斑,紫斑,丘疹などの原発疹に引き続いて生じる.そのため,鱗屑とともに併存している皮疹の観察も重要である
- 鱗屑は粃糠様,小葉状,大葉状,雲母状,襟飾り状,線状などのさまざまな性状を呈する
はじめに
皮膚は表皮と真皮からなるが,その最外層は表皮の角質層である1).つまり,私たちが見ている皮膚は角質層ということになる.角質層は保湿,バリア機能の要であり,さらに皮膚の深部で起こった病態を反映して変化する.よって,皮疹を見極めるためには臨床的に鱗屑,落屑と表現される角質層の変化を詳細に観察することが必要である.本稿ではさまざまな鱗屑を伴う皮膚疾患を供覧するとともに,その診かたのポイントを概説したい.
1. 鱗屑とは
表皮の細胞は基底層から有棘層,顆粒層を経て角質層に至る.正常皮膚では顆粒層に達するのに2~3週間,そこから角質層として脱落するまでにさらに2~3週間かかるとされる.この表皮のターンオーバーが崩れ,角質層が蓄積し,剥離した状態を鱗屑といい,その鱗屑が剥がれ落ちることを落屑と呼ぶ.
鱗屑は続発疹に分類される.続発疹とは紅斑,紫斑,丘疹などの原発疹に引き続いて生じる皮疹のことを指す.鱗屑は原発疹の状態を反映し,さらにさまざまな皮疹と混在してみられることから,皮膚病変を見極めるためには鱗屑の性状のみならず,併存する皮疹の観察も重要である.
2. 症例
34歳,男性.2週間前より躯幹,四肢に紅色皮疹が出現,ステロイド外用加療を受けるも多発してきた.既往歴,家族歴に特記事項はない.
3. 皮膚所見を言葉で説明する(図1)
背部に小指頭大までの,表面に小葉状の鱗屑を付し,軽度浸潤を触れる淡紅色から暗紅色の紅斑が散在多発している.同様の紅斑は四肢,手掌にも多発しており,一部は色素沈着を残し,消褪してきている.また,周囲にはごく淡い地図状(図1A,白)の淡紅色紅斑がみられる.
4. 診断・方針決定へのアプローチ
鱗屑に限ることではないが,皮疹を見極めるにはマクロとミクロの視点が重要となる.まずマクロな視点として,前述したように全身の皮疹の分布,発症部位を確認する.そのうえで,ミクロに目を移し,皮疹の性状を観察する.鱗屑は続発疹であるため,その元となる原発疹は紅斑なのか,丘疹なのか,結節なのか,さらに痂皮やびらんなど他の続発疹の混在はあるかをみる.そして,鱗屑の形状が粃糠様,小葉状,大葉状,雲母状,襟飾り状,線状などのどれにあたるかも大切な要素である.
1鑑別診断
本症例(図1)は比較的急性に発症し,全身に散在性に多発する紅斑であり,表面に小葉状の鱗屑を付し,暗紅色から淡紅色,淡褐色で,新旧の皮疹が混在している.また,手掌にも鱗屑を付す紅斑が多発していることも特徴的である.色調は血管拡張による紅色調だけでなく,稠密な細胞浸潤も反映して暗紅色を呈する.
鑑別としては,滴状乾癬,滴状類乾癬,急性痘瘡状苔癬状粃糠疹,ジベルばら色粃糠疹,梅毒性乾癬,乾癬型薬疹などがあげられる.ウイルス感染などに続発する滴状乾癬(図2)は,小豆大程度の比較的均一で扁平に隆起する紅斑であり,一部襟飾り状に鱗屑を付す.急性痘瘡状苔癬状粃糠疹(図3)も感冒症状を契機とすることがあるが,鱗屑を付す紅斑に加えて,表皮障害が強く,びらん,痂皮を伴う紅斑や色素沈着を呈するものなど新旧の皮疹が混在することが特徴である.
2確定診断に必要な検査など
まず皮疹出現前ならびに出現時の状況を聴取することが必要である.皮疹出現前に感冒症状などの前駆症状はなかったか,性感染症を発症する可能性の有無,内服歴として薬剤だけでなくサプリメントなどの常用の有無などを聴取する.そのうえで,皮膚生検を行うとともに,梅毒の血清反応を含めた血液検査を実施する.
提示症例(図1)は生検組織標本で過角化,表皮肥厚に加え,真皮内の稠密な形質細胞浸潤を示した.また,RPR・TP抗原ともに陽性であり,梅毒性乾癬と診断した.
5. その他の症例
6. 研修医でもできる対処・対応
鱗屑を付す皮疹が急性のものか,慢性のものかを確認することが大切である.急性の皮疹の場合,鱗屑の有無は判断材料にはなるが,湿疹性の変化か,感染症による皮疹か,薬剤性かの鑑別は難しい場合がある.湿疹としてステロイド外用を行ってしまうこともあるだろう.その治療自体は否定されるものではないし,そのまま治癒することも多いかもしれない.しかし,漫然と外用を続けることは避けるべきである.責任をもって定期的に皮疹の観察を行うことが大切である.
7. コンサルトのタイミングと伝え方
1こんな場合はコンサルト!
鱗屑に限ることではないが,急性に発症し,多発してくるような皮疹であれば早めにコンサルトする方がよいだろう.とりあえずの治療としてステロイド外用を試した場合,責任をもって経過観察を行い,皮疹が変化,もしくは拡大を示すようであれば上級医に相談し,皮膚科へのコンサルトを検討すべきである.
2専門医に伝えるべきことと伝え方
これまでの経過をできるだけ正確に伝えることが大切である.発症時期,発症からの皮疹の推移,行われた治療なども紹介状に記載する.
本稿の症例(図1)であれば,「2週間前から紅色皮疹が出現しました.ステロイド外用を行いましたが,同様の紅色皮疹が全身に拡大してきています.最近1,2カ月で開始もしくは変更された内服薬,注射薬はありません.」と簡潔に表現するとよいだろう.
Advanced Lecture
薬疹と鱗屑
皮疹に鱗屑を付しているということは表皮の変化が生じていることを意味する.急性に発症する皮疹のなかで,薬疹は基本的に真皮の炎症から生じるため,当初表皮の変化はなく,鱗屑は伴わないことが多い.しかし,近年悪性腫瘍に対して使用されるようになってきている免疫チェックポイント阻害薬では,乾癬もしくは乾癬様皮疹を生じることがあり,当初より鱗屑を伴う2).また,Stevens-Johnson症候群(SJS)などの重症薬疹では,びらんを伴う膜様鱗屑や,水疱蓋が破れた鱗状縁を呈する.鱗屑の有無のみでは判断することが難しい例と言えよう.
おわりに
鱗屑と一口に言ってもその性状はさまざまであり,形態,分布,併存する皮疹の状態により大きく変わってくる.鱗屑をみるだけでは詳細な診断はつけられない.しかし,皮膚の最外層に生じる鱗屑の変化はさまざまなことを教えてくれる.自分自身の目で常に観察を行うことで,その変化や違和感を感じられるようになってほしい.
引用文献
- 山本明美:角化症を理解するための基礎皮膚科学.日皮会誌, 124:149-157, 2014
- 結城明彦:irAEの治療 皮膚障害.「日本臨牀 増刊号 皮膚悪性腫瘍(第2版)上」, pp465-471, 日本臨牀社, 2021
参考文献・もっと学びたい人のために
- 「皮疹の因数分解・ロジック診断」(北島康雄/著),学研メディカル秀潤社, 2018
- 「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」(松田光弘/著),医学書院, 2021
著者プロフィール
安田正人(Masahito Yasuda)
群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 准教授
私が大好きなミステリ作家である綾辻行人氏の作品は,あっと驚く結末が用意されているが,後から読み返すと綿密に伏線が張られていることがわかる.鱗屑もさまざまな皮膚の変化の結末であり,そこに至る伏線をしっかりと読み解けるように精進したい.