第1章 眼科
3.眼科への上手なコンサルテーション
加藤桂子
(東邦大学医療センター大森病院眼科)
Point
- 外傷,眼痛,急激な視力低下や視野欠損では当日コンサルテーションを行う
- 外傷の場合,頭部外傷の有無を確認,精査する
- コンサルテーション前に可能な範囲で検査や処置を行う
- コンサルテーションでは要点をまとめて簡潔に伝える
はじめに
救急外来で眼科領域の疾患を診る機会は少ないかもしれない.しかし,外傷や,頭痛・嘔気を伴う急性緑内障発作など,疾患によってははじめに救急外来へ受診するケースがあり,眼科救急疾患についてもある程度理解しておく必要がある.
眼科の検査や診察は特殊であり,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査によって発見できる所見が多い(1章1参照).そのため,眼症状の訴えがある場合は眼科へコンサルテーションすることを勧める.眼科医としても,治療の遅れにより症状の悪化やそのほかの合併症を生じることは避けたいので,躊躇せずコンサルテーションしていただきたい.
コンサルテーションを行うにあたり,緊急性の有無についてある程度判断できるようにしておくとコンサルテーションをするタイミングを間違えないですむ.また,外来でできる簡易的な検査を習得しておくことでコンサルテーション時に必要な情報提示を行うことができる.
本稿では救急外来で遭遇する主な眼科疾患,コンサルテーションするタイミング,その際に必要な情報提示について述べる.また,救急外来で遭遇する頻度の高い眼窩下壁骨折と眼瞼裂傷の症例を提示し解説する.
1. 救急外来で遭遇する主な眼科疾患と症状
救急外来に受診する疾患や症状に,外傷,眼痛,充血,視力低下,視野欠損,複視などがあげられる(表).
外傷はさまざまな眼合併症を起こすためできれば当日のコンサルテーションが望しい.
充血は結膜炎のように緊急を要しないものと,急性緑内障発作のように緊急性のある疾患があるため鑑別を要する.視力低下や頭痛,散瞳,眼痛がなく,眼脂のみであれば結膜炎の可能性が高く翌日以降に眼科受診でよい(1章5参照).
視力低下,視野欠損,複視などの突然発症のものは緊急を要する可能性があり,当日コンサルテーションする.その際,必要に応じてあらかじめ頭蓋内疾患を鑑別しておく.
2. コンサルテーションに必要な情報の収集
症状,発症時期,既往歴を聴取する.既往歴は全身疾患以外に眼科の既往歴や手術歴も確認する.
外傷であれば受傷時期や部位,受傷時の状況を聴取する.転落,転倒や交通事故などの場合,頭部外傷や顔面骨折を伴っている可能性があるため,必ず画像検査を行う.化学外傷では,原因薬剤がアルカリ性の場合,酸性に比べ眼内への組織浸透性が高く,角膜や眼周囲組織の障害を起こし重症化しやすい1).そのため,原因薬剤の種類やpH の確認が必要である.また,受診前に洗眼実施の有無を確認する.
視力低下や視野欠損,複視の有無を聴取し,できる範囲の検査を行う(検査については1章1参照).
3. コンサルテーションの前に自分でできる処置を行う
外傷の場合,表皮のみの裂傷であれば縫合などで対応する.瞼板裂傷や眼瞼内側の裂傷は縫合前に眼科へコンサルテーションする.
化学外傷の初期治療は洗眼である.受傷後できるだけ早期に洗眼する必要があり,受診前に患者自身で洗眼を行っていなければ,専門医を待つことなく,コンサルテーション前に十分な量の生理食塩水で洗眼する.特にアルカリ外傷の場合は患者自身で洗眼したとしても十分に洗眼できていない可能性があるため再度洗眼を行う.まず洗眼前にpH 試験紙で眼表面のpH を測定し,点眼麻酔後に生理食塩水で20 ~ 30 分間洗眼する.洗眼後にpH 試験紙でpH 7.4 程度に改善されるまで洗眼を行う(1章6参照)1).
4. コンサルテーションのコツ
救急外来でコンサルテーションする際には,コンサルテーション先の医師が他患者対応中で多忙である可能性もあるため,要点をまとめて簡潔に伝えることが重要である.
患者の年齢,性別,主訴,疑う疾患やアセスメント,コンサルテーションの目的を提示する.主訴に関連のある既往歴や検査所見,行った初期治療があれば,それも伝える.
5. 救急外来を受診した症例その①
症例①:コンサルテーションのタイミングが適切であった眼窩下壁骨折
12 歳男児.バスケットボール練習中に左眼にボールが当たり受傷し,救急外来へ搬送された.嘔気,眼球運動痛,複視を認め頭部CT施行された.頭蓋内病変は認めず,左眼窩下壁の閉鎖型骨折を認め受診当日に緊急手術となった(図1).
1(専門医を呼べるとしても)自分でやるべきこと
まずは受傷機転の聴取と現在の症状を把握する.本症例のように嘔気や眼球運動障害を認めるときは必ず頭部CTを撮影する.その際,眼窩底骨折も疑い眼窩部の撮影も一緒に行うとよい.眼窩部CTの撮影条件は3方向(水平断,冠状断,矢状断)を1mmほどの薄いスライスで撮影する.
眼窩底骨折には開放型骨折と閉鎖型骨折がある.開放型は骨折部位が開放し眼窩内の組織が副鼻腔内へ偏位している状態で大人に多い.閉鎖型は骨折部位から眼窩内組織が副鼻腔内に偏位した後,骨がもとの位置に戻り組織が挟み込まれてしまった状態(嵌頓)で若年者に多い.
眼窩底骨折では,鼻出血,眼瞼気腫(鼻をかんだら瞼が腫れる),眼球運動障害,複視,眼球後退,眼球陥凹などを認める.眼窩下壁骨折では眼窩下神経の損傷により頬部や上口唇部知覚鈍麻を起こす2).外眼筋が絞扼された閉鎖型骨折の場合,眼球運動痛や迷走神経反射により悪心,嘔吐を伴う.
CT検査では,開放型骨折は比較的診断が容易であるが,閉鎖型骨折は見慣れていないと診断が難しい場合がある.閉鎖型骨折の特徴としては外眼筋の嵌頓,眼窩内の外眼筋の消失(missing rectus sign)がある(図1).
2専門医を呼ぶべきとき,呼ぶタイミング
眼窩底骨折の治療は眼科,耳鼻科,形成外科で行っており,施設によって担当する科が違う.筋が絞扼されている閉鎖型骨折は緊急手術が必要であり,直ちに治療にあたっている診療科にコンサルテーションを行う.
また,眼窩底骨折を起こすほどの眼球打撲では眼球自体の損傷も考えなければならないため,できるだけ早く眼科へのコンサルテーションを行う.
3専門医を呼べない状況ならどうするか
閉鎖型骨折の場合,手術可能な病院を探し早急に搬送する.
外眼筋以外の眼窩組織が絞扼された閉鎖型骨折では受傷後8日以内,また開放型骨折では1カ月以内の手術加療が眼球運動障害の予後がよいとの報告があり3),できるだけ早くコンサルテーションを行うのが望ましい.
6. 救急外来を受診した症例その②
症例②:涙小管断裂の不適切な初期治療
80歳女性.路上で転倒し,ゴミ収集のプラスチックケースに左眼をぶつけ来院.左下眼瞼鼻側から下方の皮膚にかけての裂傷と上眼瞼の腫脹を認めた.脳外科で頭部CT施行し頭蓋内病変は認めなかった.眼瞼裂傷に対応した医師が,眼球に異常がないことを確認したうえで,皮膚の縫合を行い帰宅させた.
1週間後,抜糸で来院した際に下眼瞼の外反,上眼瞼の眼瞼下垂を認めた(図2A,B)ため眼科上級医へ相談,涙小管断裂を認め緊急手術となった.手術は縫合部位を開けて涙小管の断端を捜索,涙管チューブを挿入し周囲の組織を縫合した.術後,流涙はなく外反も改善した.また,眼瞼下垂は初診時に頭蓋内病変を認めなかったため経過観察となり,受傷後約1カ月で改善を認めた(図2C).
1(専門医を呼べるとしても)自分でやるべきこと
眼外傷はさまざまな合併症を起こすため,受傷時の状況や現在の症状をしっかり把握することが必要である.本症例のような転倒や交通外傷,転落などの場合は多発骨折,頭部外傷の可能性も念頭に置いて診察,検査を行う.診察では片眼ずつ隠して視力低下や視野欠損がないか,両眼解放にして複視,眼球運動障害がないか,瞳孔不同がないか,対光反射は正常かなどを確認する.次にCT検査を行い,頭蓋内病変の有無,顔面骨折や眼窩底骨折の有無を確認し,必要があれば脳神経外科,耳鼻科,形成外科にコンサルテーションする.画像検査を行う際,眼内異物が疑われた場合は異物が金属の可能性があるためMRIは禁忌である.
次に裂傷部位をよく観察する.眼瞼裂傷は皮膚のみの裂傷であればステリーテープや縫合で対処できるが,本症例のように涙点より鼻側の裂傷の場合は涙小管断裂を起こしている可能性を考える.
路上での転倒では砂などの異物の除去のためにデブリードマンを行うが,涙小管断裂を疑ったときは,デブリードマンを行うことで涙小管の断端を損傷する可能性があるため,緊急で手術が行える状況であれば最小限にとどめておく4).また,皮膚を縫合すると涙小管が見つけにくくなるため縫合せずに眼科へコンサルテーションを行う.
2専門医を呼ぶべきとき,呼ぶタイミング
涙小管断裂は,本症例のように涙小管や周囲の組織を適切に縫合せず皮膚縫合のみで終わらせてしまうと,流涙や眼瞼内反,外反を起こすことがある.受傷から時間が経過すると癒着により涙小管の断端を見つけるのが困難になるため,可能であれば当日コンサルテーションすることが望ましい.
3専門医を呼べない状況ならどうするか
当日専門医の診察を受けられない場合は,創部をできるだけ湿潤状態に保ち,翌日には専門医へコンサルテーションする4).
おわりに
救急外来で遭遇する可能性のある外傷の2 症例を提示した.いずれもまずは頭部外傷の有無を確認し,それを否定したうえで眼外傷についての評価を行っている.
症例①では眼窩下壁の閉鎖型骨折を適切に診断でき,すみやかにコンサルテーションが行えた.
症例②の眼瞼内側の裂傷は眼科医でもない限り涙小管断裂に気づくことは難しいかもしれない.しかし,適切な処置を行わないと永続的な合併症を残しかねないため,眼周囲の解剖を理解しておくことも必要である.
引用文献
- 柿栖康二,堀 裕一:Ⅱ . 角結膜 4. 化学外傷.眼科,62:1091-1094,2020
- 古田 実:1. 眼外傷 2. 眼窩吹き抜け骨折(眼窩壁骨折を含めて).眼科,62:1037-1042,2020
- Yamanaka Y,et al:Impact of surgical timing of postoperative ocular motility in orbital blowout fractures.Br J Ophthalmol,102:398-403,2018(PMID:28743694)
- 後藤 聡:涙小管断裂と眼瞼裂傷.眼科グラフィック,11:146-148,2022
著者プロフィール
加藤桂子(Keiko Kato)
東邦大学医療センター大森病院眼科
専門:眼形成外科
眼科医としては珍しく,主に眼球の周りの組織(眼瞼や眼窩)を専門に診療,手術を行っています.眼球以外を専門とする眼科医はいまだ少なく,大変やりがいのある分野だと思っています.本稿も眼瞼と眼窩の外傷についてとりあげてみました.皆さんの診療の参考になれば幸いです.