第4章 腹部のPOCUS
1. EFAST
東 秀律
(日本赤十字社和歌山医療センター救急科集中治療部)
POCUSの評価基準・到達基準
- 心窩部像で心嚢液の存在を指摘できる
- 右側腹部像で右胸腔・Morrison窩の液体貯留を指摘できる
- 左側腹部像で左胸腔・脾周囲の液体貯留を指摘できる
- 骨盤像で膀胱直腸窩,Douglas窩の液体貯留を指摘できる
- EFASTの限界を知って正しく使える
はじめに
外傷患者の検査/治療方針決定法としてJATEC(Japan advanced trauma evaluation and care:外傷初期診療ガイドライン日本版)コースで推奨されているFAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)があるが,これに気胸の評価も加えたものがE(Extended)FASTである.気胸の評価については第3章-1で述べているため本稿では省略し,ほかの評価項目について詳述したい.
全体のポイントとして,プローブはコンベックスプローブを用い,検査時間はなるべく短くする.外傷での液体貯留の多くは血腫であるが,新鮮な血腫は等〜高エコーに見えることがあり,肝臓や脾臓などの実質臓器と見誤りやすいので注意する.
症例 高速道路での横転事故
30歳,男性.Load&Go症例(受傷機転,バイタルなどから高次医療機関への早期搬送の適応となる症例のこと),病院到着時のバイタルは血圧80/50 mmHg,心拍数110 回/ 分,呼吸数28 回/ 分,GCS=E3V4M5,体温36.8 ℃,SpO2 99 %(10 L マスク),頭部顔面に打撲痕あり,右肩から左上腹部にかけてシートベルト痕あり,胸痛と腹痛の訴えあり,骨盤の動揺あり.全脊柱固定のうえ救急外来に搬送された.
1. 心窩部像
EFASTではまず心窩部像で心嚢液貯留の有無を確認する.心嚢液貯留から心タンポナーデに至ると閉塞性ショックを呈するが,これは外傷において最も多い出血性ショックとは治療方針が大きく異なるため,その認知は重要である.なお,心嚢液貯留は心タンポナーデの必要条件であるが十分条件ではない.
1プローブの当て方(図1)
コンベックスプローブを上から掴むように持ち,心窩部,剣状突起下から心臓を描出する.
2確認するポイント
心室壁よりも外側に液体貯留があるかどうか確認する(図2,3).
3うまく描出できないときは
胃,腸管のガスなどで心窩部像の描出が難しい場合は,心尖部,傍胸骨,肋間から観察する.コンベックスプローブの代わりにセクタプローブを用いてもよい.
2. 右側腹部,側胸部像
続いてコンベックスプローブを右側腹部から当て,Morrison窩と右胸腔内の液体貯留の有無を確認する.
1プローブの当て方(図5)
プローブを水平にし,右腎臓を描出する.頭側の肝臓との境界部(Morrison窩)に液体貯留がないか確認する.右胸腔はそのまま頭側に平行移動して描出する.
2確認するポイント
肝周囲,右胸腔に液体貯留があるかどうか確認する.Morrison窩だけでなく肝辺縁までプローブを動かし確認することが重要である(図6).
3. 左側腹部,側胸部像
次に脾周囲と左胸腔の液体貯留の有無を確認する.
1プローブの当て方(図10)
左腎臓は右腎臓に比べ頭側および背側に位置しているため,脾周囲および左胸腔を観察する場合はやや背側から見上げるようにプローブを当てるのがよい.
2確認するポイント
1)脾周囲(図11,12)
脾腎境界ではなく脾周囲に腹腔内液体は貯留する.プローブを操作し脾周囲をくまなく観察する.
2)左胸腔
右胸腔と同様に,thoracic spine signを指標に胸腔内液体貯留を評価する.
3うまく描出できないときは
左右の側腹部/側胸部像において,特に左腎臓は右側に比べ頭側に位置するため,肋骨が重なり描出が難しい場合がある.その場合はプローブをrotatingさせ肋間から観察する,tiltingするなどの操作を加える,指示に従える患者さんであれば深吸気させることで肋間のスペースをずらして観察する.1画面で描出が難しい場合は,術者が頭のなかで見えない部位を補完して観察を行う.
4. 骨盤像
膀胱直腸窩とDouglas窩の液体貯留の有無を確認する.
1プローブの当て方(図13)
恥骨上部からコンベックスプローブで長軸像,短軸像を描出する.
2確認するポイント
1)膀胱直腸窩(男性)
膀胱,前立腺,直腸(通常は壁しかみえない)を同定し膀胱直腸窩に液体貯留があるかどうか確認する(図14,15).
2)Douglas窩(女性)
膀胱,子宮,直腸を同定し,直腸子宮窩に液体貯留があるかどうか確認する(図16).
症例の続き
EFASTを行ったところ,心嚢液貯留なし,両側胸腔はthoracic spine sign陰性,両側lung sliding 陽性,Morrison窩・脾周囲の液体貯留なし,膀胱直腸窩に少量の液体貯留を認めた.細胞外液の輸液負荷で血圧は安定した.確定診断のために体幹部の単純+造影CT撮影を行ったところ,不安定型骨盤骨折,腸間膜損傷を認めた.IVRによる止血後に創外固定術を行い,その後開腹手術の適応となった.
おわりに
初学者は適応の有無にかかわらず,本稿で述べたピットフォールをふまえながら積極的にエコーを当ててみよう.正常像を数多く経験することで,異常像が認識できるようになるのである.
引用文献
- Agrawal A, et al:Beyond the Beck’s Triad:The Use of Point-of-Care Ultrasound for Diagnosis and Treatment of Shock. Ann Am Thorac Soc, 15:637-640, 2018(PMID:29714102)
- Sierzenski PR, et al:The double-line sign:a false positive finding on the Focused Assessment with Sonography for Trauma(FAST)examination. J Emerg Med, 40:188-189, 2011(PMID:19800756)
- YDickman E, et al:Extension of the Thoracic Spine Sign:A New Sonographic Marker of Pleural Effusion. J Ultrasound Med, 34:1555-1561, 2015(PMID:26269297)
- American College of Emergency Physicians:Emergency ultrasound guidelines. Ann Emerg Med, 53:550-570, 2009(PMID:19303521)
著者プロフィール
東 秀律(Hidenori Higashi)
日本赤十字社和歌山医療センター救急科集中治療部
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