医師国家試験の取扱説明書

医師国家試験の取扱説明書

  • 民谷健太郎/著
  • 2018年10月19日発行
  • A5判
  • 320ページ
  • ISBN 978-4-7581-1838-5
  • 3,520(本体3,200円+税)
  • 在庫:あり
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本書の特徴・読み方がわかる「カリキュラム」もあわせてご覧ください

第1章 医師国家試験の取扱原則

1 医師国家試験の過去問を大切に取り扱う

▶︎Question

歩行時の姿位を次に示す。

この患者の左下肢に予想されるのはどれか。

〈110H2〉

正解

本問のテーマは運動神経の障害です。イラストで示された肢位は上肢屈曲位・下肢伸展位であり、“Wernicke-Mann肢位”とよばれます。また、その肢位での歩行様式を「ぶん回し歩行」や「片麻痺歩行」と表現することがあります。これは脳梗塞などの後遺症で片麻痺となってしまった方がとる歩行様式であり、片側の上下肢の痙性麻痺が特徴的です。

痙性麻痺とは、その名の示す通り、四肢が「突っ張ったような」麻痺であり、触診を行うと筋緊張が亢進していることがわかります。その対義語としては、弛緩性麻痺が該当します。こちらも文字通りの意味で「ダラっと緩んだような」麻痺を指します。

痙性麻痺の所見から上位運動ニューロン障害を考え、ⓒ足クローヌスが正解となります。クローヌスは、上位運動ニューロン障害で見られる所見の1つであり、主に下肢で認めます。被検筋を受動的に急激に伸展させた際に筋が収縮と伸展を繰り返す現象で、「間代」とも呼ばれます。一方、ⓐ筋緊張低下やⓑ腱反射減弱、ⓓ線維束性収縮は下位運動ニューロン障害でみられる所見であり、ⓔアステリキシスは肝性脳症などの代謝性脳症で認める「羽ばたき振戦」を示す用語ですので不適です。

医師国家試験の取扱原則
#1 医師国家試験の過去問を大切に取り扱う

本問を取り上げたのは「良問」だからという理由です。本書での「良問」とは、「1つの問題から得られる学習項目・エッセンス・教訓が豊富で、繰り返し演習する価値のある問題」と定義します。本問を通じて「上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害との鑑別」を復習することができるという点で「良問」だと判定しました。これは神経内科の講義で必ず触れられるテーマですし、各種試験にも頻出のテーマであり、しかも実臨床においても有用な知識となるのです。

下位運動ニューロンは直接筋を支配しているので、その障害では筋を「動かせなく」なり、弛緩性麻痺を呈します。それに対し、上位運動ニューロンは主に、下位運動ニューロンを抑制する役割があります。筋緊張が亢進し過ぎないように、また、意図しない反射が出てしまわないように運動を制御している機能があるのです。したがって、上位運動ニューロン障害では筋緊張が亢進した痙性麻痺のパターンを呈します。深部腱反射が亢進することや病的反射が出現することも同様の理由で説明できます。

表

また「線維束性攣縮」というキーワードは下位運動ニューロン障害でみられることも付記しておきます。 さらに学習が進むと、上位運動ニューロン障害・下位運動ニューロン障害に加えて筋の障害や神経筋接合部での障害についても触れることになりますが、まずは前ページの表について確実に覚えることが重要です。

なお、脳梗塞に伴う運動麻痺は、上位運動ニューロンの障害に該当するので、「痙性麻痺」「筋トーヌスの亢進」「深部腱反射の亢進」「病的反射の出現」を認めます。

このように基本的な医学知識が身に付いていると、臨床力の強化にも繋がります。

外来の診察室で患者を呼んだときのことを思い浮かべてください。診察室のドアを開けて、椅子に座るまでのわずかな数歩を観察できます。その歩行様式が本問のイラストのような片側のWernicke-Mann 肢位をしていたら、その患者の既往歴を瞬時に推論することもできるのです。

過去問の演習の過程で、その背景に潜む出題テーマや関連知識から学びを得られた場合には、実臨床における診療にも大いに役立ちます。これが〈110H2〉を良問と言い切れる理由なのです。

〈110H2〉のように、医師国家試験の問題の背景には明確な出題テーマが存在しています。一般に、一度解いてしまうと、2回目以降の演習では正解の選択肢を選ぶこと自体は容易となってしまいます。正解・不正解の結果のみに注目すると「正解できるから、この問題は卒業!」という判断で以降はskipすることも起こり得ます。しかし、過去問演習の本質は「正解を選ぶこと」ではなく「正解に至るプロセス」にあります。普段の演習では、どのような過程を経て正解に至るのかを意識化することが上達の近道になるのです。

本書では、医師国家試験の過去問をどのように取り扱っていくと学習効果が高いかを説明していきます。その第1原則として掲げたいのが「医師国家試験の過去問を大切に取り扱う」という大原則です。本書を通じて、どのように「大切に」したらよいか、また、「取り扱う」とは具体的に何をしたらよいかを順を追って説明します。

医師国家試験の過去問は

  1. ① 出題テーマは医師になるうえで必要な知識・技術・態度が厳選されている
  2. ② 正しく取り扱えば臨床力upにつながる
  3. ③ トレーニングに最適の教材である
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医師国家試験の取扱説明書

医師国家試験の取扱説明書

  • 民谷健太郎/著
  • 3,520(本体3,200円+税)
  • 在庫:あり