序章
JIAとその治療概論
1JIAの概要
若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis:JIA)は,16歳未満に発症し,少なくとも6週間以上持続する,原因不明の慢性関節炎である.小児リウマチ性疾患のなかで最も多くみられる疾患であるが,関節炎が進行すると不可逆的な関節破壊をきたすことになるため,早期の炎症鎮静化が必要となる.
JIAはILAR分類により7つの病型に分類される(表1).成人の関節リウマチ(rheu-matoid arthritis:RA)と異なる点は,成人(発症)Still病と病態が類似する全身型や,乾癬に伴う乾癬性関節炎,強直性脊椎炎とも関連する付着部炎関連関節炎などが JIAという括りに含まれることである.さらに,罹患関節数やリウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)の有無によっても病型が異なるという特徴がある.病型によりその病態や治療,合併症,予後などが異なる点に留意する必要がある.自然免疫の異常を基盤とする全身型JIAは,発熱や皮疹などの全身性炎症病態が主となり,初期治療ではグルココルチコイドが治療の中心となる.一方,関節型JIAと称される少関節炎やRF陽性/陰性多関節炎の治療標的病態はRAと同様に関節炎病態であり,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)やメトトレキサート(metho- trexate:MTX)が初期治療の中心となる.
2JIA診療のあゆみ
JIAの診断・治療・管理において,2007 年に『若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2007年)』2)が公表され,続いて『若年性特発性関節炎初期診療の手引き 2015』3)が発刊されたことにより,一般小児科医あるいは内科医,整形外科医に対してより具体的なJIAの初期診療の内容が示され,全国的に標準的な診療が施されることになった.治療薬としては,2008年にMTXが関節症状を伴うJIAに対して保険適用となり,約70%の症例は疾患活動性を抑えることが可能となった.
一方,初期治療を受けたなかでも治療反応性に乏しいもの,薬剤の副作用などにより十分な薬効が得られない例に対しては,次の段階の治療が必要となる.生物学的製剤による治療がそれに該当するが,現在までに「多関節に活動性を有するJIA」に対して,2008年にトシリズマブ(商品名:アクテムラ® 点滴静注用),2009年にエタネルセプト(商品名:エンブレル® ),2011年にアダリムマブ(商品名:ヒュミラ® ),2018年にアバタセプト(商品名:オレンシア® 点滴静注用)が承認された.また,全身型JIAに対しては,2008年にトシリズマブ(商品名:アクテムラ® 点滴静注用),2018年に カナキヌマブ(商品名:イラリス® )が承認された.これらの生物学的製剤の登場によりJIAの治療は画期的な進歩を遂げたが,その使用にあたっては十分な注意が必要とされるため,製剤ごとの使用の手引き4〜8)が公表され,適正使用の推進が図られてきた.
本邦ではじめてJIAに対して保険収載された生物学的製剤であるトシリズマブが登場してから10年が経過し,国内外からさまざまな知見が発表されてきた.今後のJIAに対する生物学的製剤の治療において,より安全に,そしてより薬剤のポテンシャルを発揮 できるような使用環境を整えるべく,今回,JIAに適応を有する生物学的製剤についての使用の手引きを必要に応じて改訂し,まとめて公表する運びとなった.
3JIAの疾患活動性評価
ここでJIAにおける疾患活動性について述べておく.全身型と関節型とではその病勢を評価する方法は若干異なるが,JIA 全体(少関節炎・多関節炎・全身型)では,いわゆる寛解を示す指標はWallace’s criteria9,10)が用いられることが多い.①活動性関節炎を認めない,②JIAに伴う発熱・発疹・漿膜炎・脾腫大・リンパ節腫脹を認めない,③ぶどう膜炎を認めない,④ESRまたはCRPが正常範囲内である,⑤医師による全般評 価が最もよい,以上をすべて満たせばinactive disease(ID)とされ,これに⑥朝のこわばりが15分以内も加わるとclinical inactive disease(CID)とされる.さらに,治療を受けながらIDが6カ月以上持続する状態をclinical remission on medication(CRM),すべての治療を受けずにIDが12カ月以上持続する状態をclinical remission off medication(CR)としている.
関節型JIAにおいてはJADAS(Juvenile Arthritis Disease Activity Score)が用いられることも多いが,詳細は第3章.関節型JIAを参照されたい.
なお,成人のRAでは,長期アウトカムの改善を目的に治療戦略の基本としてタイトコントロールを軸としたTreat to Target(T2T)が提唱・実践されており,JIAの領域においてもその方向性が打ち出されている11).具体的には,治療目標をまずはIDもしく は低疾患活動性の達成とし,到達後はその状態を維持し続けることで,生活の質をよい状態に保つことを目指している.また,このような明確な目標に向けた治療を行っていくために,患者と医師がともに治療方針を決めていくことを基本理念としている.
文献
- Petty RE, et al:International League of Associations for Rheumatology Classification of Juvenile Idiopathic Arthritis: Second Revision, Edmonton, 2001.J Rheumatol, 31:390-392, 2004
- 横田俊平,他:若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2007年).日本小児科学会雑誌,111:1103- 1112,2007
- 「若年性特発性関節炎 初期診療の手引き2015」(日本リウマチ学会小児リウマチ調査検討小委員会/編) メディカルレビュー社,2015
- 横田俊平,他:若年性特発性関節炎に対する生物学的製剤治療の手引き(2008)I.トシリズマブ.日本小児科学会雑誌,112:911-923,2008
- 横田俊平,他:若年性特発性関節炎に対する生物学的製剤治療の手引き2009 II.エタネルセプト.日本小児科学会雑誌,113:1344-1352,2009
- 横田俊平,他:若年性特発性関節炎に対する生物学的製剤治療の手引き2011 III.アダリムマブ.日本小児科学会雑誌,115:1836-1845,2011 16 若年性特発性関節炎(JIA)における生物学的製剤使用の手引き 2020 年版
- 木澤敏毅,他:若年性特発性関節炎に対するアバタセプト治療の手引き.小児リウマチ,9:81-87,2018
- 日本小児リウマチ学会ガイドライン作成委員会:市販後調査のための全身型若年性特発性関節炎に対するカナキヌマブ使用の手引き.小児リウマチ,9:88-92,2018
- Wallace CA, et al:Preliminary criteria for clinical remission for select categories of juvenile idio- pathic arthritis. The Journal of Rheumatology, 31:2290-2294, 2004
- Wallace CA, et al:American College of Rheumatology provisional criteria for defining clinical inactive disease in select categories of juvenile idiopathic arthritis. Arthritis Care & Research, 63:929-936, 2011
- Ravelli A, et al:Treating juvenile idiopathic arthritis to target:recommendations of an interna- tional task force.Ann Rheum Dis, 77:819–828, 2018