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第3章 人工呼吸器の設定
2. 基本的な人工呼吸器の設定
岩下義明
(島根大学医学部救急医学講座)
吸気時間
- 人工呼吸器の機種により,I:E比と呼吸回数を設定し,間接的に吸気時間を決めるものもある
- 急性期の人工呼吸患者の吸気時間は0.6〜1.2から開始するのがよい
- 吸気時間が長すぎると非同調をきたし肺障害の原因となる
再評価のポイント
- 特にI:E比で設定する場合,吸気時間が1.2秒以上に長くなっていないことを確認する
- 設定した吸気時間が,非同調を誘発していないか(グラフィックで圧スパイクが出ていないか)
- 呼気時間が長くなりすぎていないか(Auto PEEPが発生していないか)
酸素濃度の設定と目標
- 高度の酸素化障害がなければFIO2 0.5~0.7で開始する
- 酸素化の目標値
PaO2 55〜80 Torr (SpO2 88~95%※1)※1:近年,より低い目標設定(SpO2=90~92%)が有用な可能性を示唆する報告もある1)
- 人工呼吸療法は肺に障害を与える有害な対症療法であることを忘れてはならない.肺を保護する(=肺に優しい)設定を心がける
- 高濃度の酸素は肺障害をきたすため,上述の目標値まで積極的にFIO2は低減する
- FIO2-PEEP換算表(➡︎付録13参照)などを参考に十分なPEEPを負荷する
酸素の弊害
- 高濃度酸素の吸入は,活性酸素の産生亢進を通じて,さまざまな程度の肺胞細胞障害をきたすことが,人間および動物の研究で証明されている2).どの程度の酸素濃度にどれくらいの時間暴露されると障害されるかについては明らかではないが,21%以上の酸素濃度であればいつでも起こる可能性がある.FIO2≧0.5~0.6の時間が長期化しないように心がける.
- PaO2が100 Torrでも300 Torrでも,SpO2は100%になる.SpO2を100%にしていると急にPaO2の悪化する病態が生じても見逃してしまう可能性がある.SpO2が100%にならない程度にFIO2を減量して管理する方が安全であろう.
吸気トリガー
- 患者の自発吸気を認識する感度.
- 吸気流速(フロー)で設定する場合と圧で設定する場合がある.
- トリガー感度の設定値が高すぎると人工呼吸器が患者の自発呼吸を認識しない.トリガー感度の設定値が低すぎると体動など自発呼吸以外の運動で換気が始まる
PEEPの設定
- 標準的な初期設定
5〜10 cmH2O
- 肺胞虚脱を防ぐ目的で呼気終末にかける圧
- FIO2-PEEP換算表(➡︎付録13参照)などを参考に,PaO2の目標値までFIO2とPEEPを同時に上下させる
- ARDSのような肺胞虚脱をきたしやすい病態ではPEEP 10~20 cmH2Oと高値に設定する
- 高PEEPによる循環動態の抑制効果や脳還流圧の低下効果は実際にはほとんど存在しない
呼気トリガー
- 人工呼吸器の機種により,Esens,フローサイクル%などとも呼ばれる
- 自発呼吸モードの際に,吸気流速が最大吸気流速の何%まで減ったら,呼気に切り替わるかを設定する
- 通常は25%
- 呼気トリガー値を上げると,自発呼吸の吸気時間が短くなる
- COPDの場合は呼気時間を長くとるため,50%まで上げる
アラームの設定
- 従圧式換気:volutrauma(量損傷)を防ぐため,また低換気を防ぐため,一回換気量,分時換気量,EtCO2のアラームを設定する
- 従量式換気:barotrauma(圧損傷)を防ぐため,最高気道内圧のアラーム設定が重要
時定数(time constant:TC)
個々の肺胞のコンプライアンス(C)と気道抵抗(R)の積(RC)をいい,単位は秒である.時定数が大きいというのは,肺が膨らみにくくしぼみにくいことを意味する.気道抵抗上昇あるいはコンプライアンス上昇に伴い,時定数が増加する.例えば閉塞性肺疾患のように気道抵抗が上昇する場合には十分な呼気時間を設定する必要があることがわかる(理論上は呼気時定数の3倍の呼気時間をとれば肺胞気の95%が呼出される.これより呼気時間が短い場合に,呼出不全となりエアトラッピングをきたしうる).また,異なる時定数をもつ肺胞が混在する(時定数が不均一である)場合があり,この場合肺胞間で膨らみ方やしぼみ方が異なることになる.文献
- Suzuki S:Crit Care Med, 42:1414-1422, 2014
- Davis WB, et al:N Engl J Med, 309:878-883, 1983