第3章 肩関節
1 上腕二頭筋長頭腱
a. 走査と正常像
1解剖(図1)
上腕二頭筋は長頭腱と短頭腱で吊られている筋肉である.
長頭腱は関節窩上縁の関節上結節と上方関節唇に付着し,上腕骨骨頭に沿って関節内から結節間溝を通り筋へ移行している.
2検査肢位
腕は下垂させる.肘から遠位側をどの肢位にしても長頭腱の位置は変わらないが(図2),図2cの「下垂腿上位」が被検者の負担が少なく良い方法である.後述する「外来中に短時間で肩検査を施行する方法」としては図2aの「下垂位」がよい.
3プローブ走査
短軸走査と正常像
長頭腱の横断像が画面の中心になるようにアプローチ
- ① 大結節と小結節の間の結節間溝内に収まっている,長頭腱を短軸にて描出する(図3a,b).
- ② プローブ走査または肩関節のわずかな内外旋により,大結節と小結節が同じ深さになるように画像を整える(図3c).
- ③ 異方性(アーチファクト,第2章-1)を生じさせないように,腱に対して超音波ビームが垂直に入射する角度にプローブを調整してアプローチする(図4).
プローブを遠位方向に走査
正しく長頭腱の横断像が描出できたら,腱を観察しながらプローブを遠位方向に走査する(図3a).
長軸走査と正常像
長頭腱全体のfibrillar patternが明瞭に画面へ描出できるように長軸でアプローチ
- ① 短軸像で描出した長頭腱の位置に長軸方向でプローブを当てて,三角筋と上腕骨の間に挟まれる長頭腱を確認する(図5).
- ② 近位側の上腕骨骨頭あたりから遠位側まで画面いっぱいに描出できるようにプローブの位置と角度を調整する.
- ③ 異方性を生じないように,プローブを下から振り上げて,超音波ビームが腱に対して垂直に入射する角度に調整してアプローチする(図6).
- ④ 必要に応じて,遠位方向にスキャンする.
不慣れな時期は,短軸像からプローブを時計回りに90°回転すると遠位が画像の右側になるように描出できる.検査手技に慣れたら,最初からプローブを長軸方向に持ち腱を探した方が早く検査効率がよい.
検査のポイント
短軸像・長軸像ともに,腱に対する超音波ビームの入射角度を意識して,腱を明瞭に描出する努力が必要である.長軸像ではfibrillar patternが見えることが重要である.超音波ビームが垂直に当たらず,腱が低エコーに描出され,fibrillar patternも不明瞭になると,腱断裂や腱損傷といった誤った判断をする可能性があるため注意する.
b. 疾患
1観察のポイント
- 結節間溝における超音波検査では上腕二頭筋長頭腱(long head of biceps tendon:LHB)の断裂や亜脱臼,脱臼,腱の腫脹や腱鞘の腫脹などが判断できる(図7).
- 基本的には短軸像で観察し,補助的に長軸像で観察する場合が多い.
- 例えば,腱の腫脹と腱鞘の腫脹は,短軸像では見分けることができない場合があるが,長軸像でfibrillar patternを確認すると容易に見分けられる.
2上腕二頭筋長頭腱炎疑い(図8)
短軸像で結節間溝の上腕二頭筋長頭腱をみると腱周囲をドーナツ状に囲む領域がある().
もやもやした腱より低エコーの領域()を認める.無エコーの部分は腱鞘内の液体成分で低エコー領域は腱鞘の膜の腫脹が考えられる.
長軸像で腱はfibrillar patternを呈しているが,膜の肥厚が疑われる部分にはそれがみられない.さらにパワードプラ(PD)法で血流シグナルを確認すると,エコー上にて腱鞘の炎症とそれに伴う水腫が示唆された(図8d).
3上腕二頭筋長頭腱断裂(図9)
上腕二頭筋長頭腱を短軸・長軸で観察すると,完全断裂では結節間溝内の長頭腱(*)が消失している様子が(),部分断裂では残存した腱が確認できる().
4上腕二頭筋長頭腱脱臼(図10)
健側では上腕二頭筋長頭腱(*)が結節間溝内に収まっている().
患側では上腕二頭筋長頭腱が結節間溝から内側に脱臼している様子が確認できる().
5LHB水腫(図11)
結節間溝でLHB周囲に水腫が確認できる().重力の関係で水腫は結節間溝より遠位で確認することができる.
長軸像でも腱鞘の周囲に水腫が観察できる(*).パワードプラ法で腱鞘周囲に血流増加が確認できることもある(図11d).