小児非感染性ぶどう膜炎初期診療の手引き 2020年版

小児非感染性ぶどう膜炎初期診療の手引き 2020年版

  • 一般社団法人 日本リウマチ学会 小児リウマチ調査検討小委員会 ぶどう膜炎ワーキンググループ/編,日本眼炎症学会,一般社団法人 日本小児リウマチ学会,厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 小児期および成人移行期 小児リウマチ患者の全国調査データの解析と両者の異同性に基づいた全国的「シームレス」診療ネットワーク構築による標準的治療の均てん化 研究班 若年性特発性関節炎分担班/他
  • 2020年11月27日発行
  • B5判
  • 128ページ
  • ISBN 978-4-7581-1888-0
  • 6,600(本体6,000円+税)
  • 在庫:あり
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第4章 小児非感染性ぶどう膜炎の治療

各 論
4 尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU症候群)

慶野 博1),八代将登2)
(杏林大学医学部眼科学1),岡山大学病院小児科2)

治療の概要

TINU症候群におけるぶどう膜炎では前眼部炎症を呈する症例が多くステロイド点眼療法と散瞳薬による局所治療が主体となる1).一般的に視力予後は良好であるが後眼部病変により視力が低下する症例もみられる.点眼治療を開始後,いったんは治療に反応するものの,点眼回数の減量により再燃をきたす症例が多い1).眼底病変の増悪,急速な腎機能の低下,ぶどう膜炎や腎炎が再燃,遷延化をきたした症例ではGCの全身投与が必要となる1,2).またぶどう膜炎と腎炎の活動性は必ずしも一致しない2).本稿ではTINU症候群のぶどう膜炎に対する局所,全身治療について述べる(図1).

図1

局所治療

0.1%ベタメタゾン(リンデロン®),または0.1%デキサメタゾン(オルガドロン®)をファーストラインの点眼薬として用いる.前房炎症細胞の減少が確認できれば回数を漸減するか,低濃度のものへと変更する2).ステロイド点眼の長期使用による白内障や眼圧上昇などの眼合併症の発生に注意する4,5)

虹彩後癒着の形成予防のためトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩(ミドリン®P)(1日1〜2回)の点眼も行う.

ステロイド点眼の減量により再燃を生じた場合は,直前の回数に戻して,再度改善した後はさらにゆっくり減量する.

●処方例

①ベタメタゾン(リンデロン®)0.1% 1日3〜4回(1回1〜2滴)

または

デキサメタゾン(オルガドロン®)0.1% 1日3〜4回(1回1〜2滴)

→前房炎症細胞の減少がみられれば回数を漸減(または低濃度のものに変更)

→さらに前房炎症細胞の減少がみられればフルオロメトロン0.1%に変更

②トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩(ミドリン®P) 1日1〜2回(1回1〜2滴)

※小児の場合,ベタメタゾンやデキサメタゾンなどの高力価のステロイド点眼薬の長期使用は副腎不全や成長障害が生じることがあり全身への影響について十分な注意を要する

全身治療

●GC全身投与

局所治療を行っても炎症が遷延している症例,または両眼性の中間部および後部ぶどう膜炎を呈した症例で所見の改善を認めない症例,また治療総論で述べた前眼部,または後眼部に重篤な視機能障害をきたす活動性病変を有する症例ではGCの全身投与を考慮する.また高度な腎機能障害や全身症状を伴う場合はGCの全身投与を行うことが多い.一般的には1 mg/kg/日程度のプレドニゾロンの投与を開始し,数カ月かけて漸減中止することが多い.ぶどう膜炎に対してはプレドニゾロン換算で20〜60 mg/日程度で開始されている報告が多い2,6,7).これまでの報告ではTINU症候群による前部ぶどう膜炎患者の約7割がGC全身投与を要したことが示されている3).なお小児に対してGCの全身投与を行う場合は,投与開始前の全身状態の確認,投与開始後の副作用の管理など小児科医と連携をとりながら治療を行うことが推奨される.GC投与前のスクリーニング,投与中の注意点の詳細については「第4章-1治療総論3全身治療」を参照していただきたい.

●処方例

プレドニゾロン0.5〜1.0 mg/kg/日(内服)

→投与開始後,眼所見が改善していることを確認しながら徐々に減量

※プレドニゾロン投与開始前の全身状態の確認,投与開始後の副作用の管理など小児科医と連携をとりながら治療を行うことが推奨される

GC全身投与にて減量に伴いぶどう膜炎の再燃をきたす症例,またGCによる全身副作用でGCの継続投与が困難な症例では免疫抑制薬の導入を検討する1).TINU症候群の難治性ぶどう膜炎に対してはこれまでシクロスポリンやアザチオプリン,メトトレキサート,ミコフェノール酸モフェチルなどを使用した少数例での報告がある1).腎機能障害合併時はシクロスポリンやメトトレキサートなどの薬剤はその副作用が増強する恐れがあるため,腎機能に応じた薬剤使用量の変更,中止を検討する必要がある8).小児に対して免疫抑制薬の全身投与を行う場合は,投与開始前の全身状態の確認,投与開始後の副作用の管理など小児科医と連携をとりながら治療を行うことが望まれる.なお本邦ではぶどう膜炎に対して前述の免疫抑制薬のなかでシクロスポリンのみが承認されている.

参考文献

  • Mandeville JT, et al:The tubulointerstitial nephritis and uveitis syndrome. Surv Ophthalmol, 46:195-208, 2001
  • 合田千穂,他:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群.臨眼,61:1598-1601,2007
  • Pakzad-Vaezi K & Pepple KL:Tubulointerstitial nephritis and uveitis. Curr Opin Ophthalmol, 28:629-635, 2017
  • Carnahan MC & Goldstein DA:Ocular complications of topical, peri-ocular, and systemic corticosteroids. Curr Opin Ophthalmol, 11:478-483, 2000
  • Thorne JE, et al:Risk of cataract development among children with juvenile idiopathic arthritis-related uveitis treated with topical corticosteroids. Ophthalmology, 117:1436-1441, 2010
  • Goda C, et al:Clinical features in tubulointerstitial nephritis and uveitis (TINU) syndrome. Am J Ophthalmol, 140:637-641, 2005
  • Kanno H, et al:Clinical and Genetic Features of Tubulointerstitial Nephritis and Uveitis Syndrome with Long-Term Follow-Up. J Ophthalmol, 2018:4586532, 2018
  • Gafter U, et al:Tubulointerstitial nephritis and uveitis: association with suppressed cellular immunity. Nephrol Dial Transplant, 8:821-826, 1993
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