Part3 ケース編 Ⅰ 診断が困難なケー ス
7 皮膚筋炎・多発筋炎「以外」を疑うケース
村中清春
(諏訪中央病院 総合診療科・リウマチ膠原病内科・感染症科)
封入体筋炎[70代男性]
神経筋疾患の家族歴なし.数年前から階段の上りやトイレの立ち上がりが困難になり,本人は年齢によるものと考えていた.徐々に進行するため内科外来を受診.HCV感染歴はあるが数年前に抗ウイルス薬を使用しウイルス学的寛解を得ている.
初診時診察で,皮膚筋炎を疑うような皮疹は認めなかったが,手指・手関節屈筋の筋力低下も伴い,CKは基準値の上限を軽度越えるのみであった.その他の血液検査所見に異常はなく,抗核抗体や筋炎特異抗体も陰性であった.
筋力低下の経過は長く,上肢の遠位筋力低下も伴うため脳神経内科を紹介した.筋生検で縁取り空胞を伴う筋線維,非壊死線維への細胞浸潤を認め,封入体筋炎の診断で加療することとなった.
抗SRP抗体関連壊死性ミオパチー[70代男性]
進行する間質性肺炎,四肢近位筋力低下,機械工の手を想起させる手指の角化性紅斑もあり,皮膚筋炎関連間質性肺炎が疑われた.
しかし,抗核抗体,抗SS-A/SS-B抗体,抗ARS抗体,抗Mi-2抗体,抗TIF1-γ抗体,抗MDA-5抗体などの自己抗体はいずれも陰性で,ステロイド投与にもかかわらず間質性肺炎は徐々に悪化した.壊死性ミオパチーを疑い,免疫グロブリン大量療法を追加した.後に抗SRP抗体陽性が判明した.
旋毛虫症[60代女性]
四肢筋肉痛,眼瞼浮腫,四肢体幹の淡い紅斑を主訴に医療機関を受診した.血液検査では好酸球優位の白血球上昇と軽度CK上昇を認めた.3週間前に冷凍保存していた熊肉を生食したことが判明し,Trichinella spiralis感染が血清検査で証明され,保存されていた熊肉からT. spiralisが検出された.
はじめに
炎症性筋疾患の鑑別診断は膨大だが(p251),どのような症状または所見(筋力低下,CK上昇,皮疹,間質性肺炎など)に着目するかによって,リストアップされる内容は変化する.リウマチ科受診となる皮膚筋炎は,皮疹,筋炎症状,間質性肺炎など多彩な症状を呈することが多い.皮疹が主であれば皮膚科を受診し,筋炎症状または呼吸器症状のみで医療機関を受診する場合は,それぞれ脳神経内科・呼吸器内科を選択することになる.そのため各科ごとに皮膚筋炎/多発筋炎(DM/PM)およびその鑑別疾患の捉え方が異なることを認識すべきである.特に問題となるのは皮膚所見に乏しく,四肢筋力低下から鑑別をはじめるときであるため,その鑑別法を本項でとりあげたい.まず基本となる流れは以下の3ステップである.
ステップ① 典型的皮膚筋炎を捉える
臨床徴候から皮膚筋炎を捉える際には,Bohan & Peter基準(p255)やTanimoto基準が参考になる1〜3).特徴的な皮疹(以下のPitfall参照),近位筋力低下,筋肉痛,全身炎症所見に筋炎特異抗体(Tanimoto基準では抗Jo-1抗体のみが含まれている)がそろえば,筋電図や筋生検は必須ではない.
ステップ② 筋炎特異抗体(MSA)を確認する
典型像を捉えるときに役立つ.比較対象疾患やMSAの種類によって結果は異なるが,特異度は高く4,5),陽性であればDM/PMの診断としてほぼ確信がもてる.商業ベースで特定できるMSAには抗ARS抗体,抗Mi-2抗体,抗TIF1-γ抗体,抗MDA5抗体がある.各種抗体と臨床像については別項参照(p248).
ステップ③ 四肢脱力から鑑別疾患を改めて捉え直す
典型的な皮膚所見がなく,筋炎特異抗体も陰性の場合は,表1に示すように鑑別疾患を広く考える.Tanimotoらの基準では感染による筋炎,薬剤誘発性ミオパチー,内分泌異常に基づくミオパチー,筋ジストロフィー,その他の筋疾患の除外を診断基準の1つとしているが,難しいことも多い3).本項ではこのステップ③について詳しく述べる.
筋炎,筋症状から鑑別疾患を再考する
1)「痛」:筋力低下に比べて,筋痛・筋圧痛が目立つとき
DM/PMにおける筋痛は,教科書ではあまり言及されていないが,厚生労働省調査では70%程度で,軽微な把握痛として感知されることが多い.筋力低下に比して筋痛・筋圧痛が目立つとき,真の筋炎であることは稀であり,以下のような疾患を考える.
- 外傷,過負荷など機械的な筋障害
- リウマチ性多発筋痛症(PMR):筋肉は炎症の主座ではないが,症状が漠然とした「筋痛」として訴えられることがある.詳細は別項目参照(p111).
- 線維筋痛症:遠位,近位の偏りなく全身的に痛みを訴える.痛みの強さの割にはその他の検査所見に異常がなく合併症がない.
- 感染症
【ウイルス性】様々なウイルス性疾患で筋炎の報告がある.一般的には一過性上気道炎や腸炎症状と同時期(もしくは二峰性)に急性に起こる病態である.
例:アデノウイルス,HBV,HCV,HIV,ヒトパルボウイルスB19,インフルエンザウイルス,ヒトパレコウイルスなどヒトパレコウイルス:小児では上気道炎や胃腸炎などの夏風邪の原因として知られている.成人では筋痛症状が主症状となることがあり,国内でも流行性筋痛症の報告がある6).【細菌】腸腰筋や大腿四頭筋などの容積の大きい筋に多い.小児では特に外傷歴がなくても起こり,黄色ブドウ球菌によるものが多数を占める.成人では外傷歴,HIVや糖尿病などの免疫抑制状態がリスクとなる.炎症性筋疾患に比べると痛みは局所的だが,菌血症期には全身症状が強く,病初期は局在がはっきりしないこともある.
【寄生虫】旋毛虫症を各論で詳述(p357). - 薬剤性:筋力低下よりも筋痛が目立つケースが多い.
- 甲状腺:甲状腺機能低下症の筋骨格症状として,筋力低下と筋痛は並列に記載されている.CKはしばしば上昇するが,症状との相関はない.
2)「分布」:筋力低下の場所
DM/PMは近位筋優位に侵されるが,以下のような特徴的な分布があれば積極的にDM/PM「以外」を考える.
- 上肢の遠位筋筋力低下 ➡ 封入体筋炎を考える:大腿四頭筋に所見があっても手・手指屈筋筋力低下があれば封入体筋炎を考える.
- 近位筋だけでなく手指屈筋も早期から侵されるとき ➡ 筋強直性ジストロフィー
- 顔面 ➡ 重症筋無力症(ただし顔面の筋力は皮膚筋炎のコンテキストで身体診察により拾われることは稀.日内変動などの病歴や顔貌から拾うべき)
3)「CK」:CK上昇がないとき,極めて高いとき
PMでは80%以上の症例で筋原性酵素は上昇するが,上昇しても軽度である.
- CK上昇がないとき ➡ リウマチ性多発筋痛症(PMR):インピンジメントサイン陽性で,顕著な炎症所見上昇があればPMRを疑う.ただし,PMRは通常臓器病変を伴わないので,間質性肺炎を入口に鑑別疾患を考えているときは,安易にPMRに飛びつくべきではない.
- 極めて高いとき ➡ 横紋筋融解症のカテゴリーから捉えていく.壊死性ミオパチーでも高値となる.
4)治療反応(特にステロイド)が悪い場合
炎症性筋疾患はステロイドの初期治療に比較的よく反応する.しかし半数程度で筋症状が残存することが報告されており,DM/PMの治療経過なのか「それ以外」の疾患なのかを見極めることは,治療選択や予後予測のためにも重要である.
- DM/PMの治療経過
- ステロイドミオパチー
- 封入体筋炎
- 壊死性ミオパチー
- 感染症:主として旋毛虫症(各論で述べる).ウイルス性は自然軽快することもあり,初期に想起しなければ不要な免疫抑制治療が入ることとなる.細菌性筋内膿瘍は通常日単位の進行があり,ステロイド抵抗性として捉えられることは稀.
- 神経疾患:以下で述べる.
5)神経疾患を想起すべきとき
皮膚症状,間質性肺炎合併,筋力低下があれば,必ずしも筋生検や詳細な神経診察による神経疾患の鑑別は要さない.以下のような状況で神経疾患を想起する.
- 慢性経過:初診時に慢性経過が判明していることもあるが,症状出現早期に医療機関を受診し別疾患が疑われていれば「治療反応が悪い」と認識される.
- 神経疾患の家族歴:脊髄筋委縮症,筋ジストロフィー,重症筋無力症(家族内発症は稀)など
- 悪性腫瘍があるとき
- 脳腫瘍:脳卒中に比べて麻痺症状の局在が神経学的に説明しにくい.
- ランバート・イートン(Lambert-Eaton)症候群:近位筋力低下が主で眼筋症状が目立たないことが多く,筋炎疾患との鑑別が重要な疾患の1つ.腱反射低下,易疲労感,自律神経症状(口渇感,発汗低下,便秘など),小脳失調があれば疑う.肺小細胞癌などの悪性腫瘍合併例が多い.
- 傍腫瘍症候群:DM/PMを疑った場合,年齢相応の悪性腫瘍検索(特に抗TIF1-γ抗体,抗NXP2抗体関連の皮膚筋炎で頻度が高い7))を行うが,DM/PMがなくても傍腫瘍症候群の筋骨格症状に注意する.
- 感覚異常があるとき
6)筋炎症状(筋骨格症状)を来す薬剤(“しいたけ”にも注意)
- 薬剤は常に疑うことが大事である.特異的な検査によって薬剤の関与を証明することは極めて難しいため,疑って薬剤を中止することが唯一の手段である.中止しても筋炎病態が遷延する薬剤もある(抗HMGCR抗体関連壊死性ミオパチー).
- アルコール,ステロイドとスタチンは比較的遭遇することが多い.違法薬物による筋骨格症状は欧米では頻度の高い原因として扱われている.また免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAEs)のなかに筋炎症状も含まれる.irAEsでは筋炎と重症筋無力症を合併することもあり,注意を要する.
- スタチン成分を含むしいたけなどのキノコ類も壊死性ミオパチーの病態に関与していることが知られている8).
- リウマチ性疾患に使用する薬剤で筋炎症状の副作用をもつものを表2に示す.原疾患による筋骨格症状か薬剤によるものかの鑑別は容易ではないこともあるが,常に「薬剤性」ではないかという視点で処方薬の見直しをする.
文献
- Bohan A, et al:N Engl J Med 292:344-347, 1975[PMID 1090839]
- Bohan A, et al:N Engl J Med 292:403-407, 1975[PMID 1089199]
- Tanimoto K, et al:J Rheumatol 22:668-674, 1995[PMID 7791161]
- Trallero-Araguás E, et al:Arthritis Rheum 64:523-532,2012[PMID 21953614]
- Mammen AL, et al:Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2:e172, 2015[PMID 26668818]
- 山川達志,他:ヒトパレコウイルス3型感染に伴う成人の流行性筋痛症17例の検討.臨床神経,57:485-491,2017
- Betteridge Z, et al : J Intern Med 280 : 8-23, 2016[PMID 26602539]
- Mohassel P, et al : J Neuromuscul Dis 5 : 11-20, 2018[PMID 29480216]