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第2部 肩/腕
第5章 鎖骨骨折
Julius Bishop1),Michael L.Brennan2),Michael F.Githens3),Eric G.Puttler4)
(スタンフォード大学医学部 整形外科手術班 助教およびアソシエイトレジデンシーディレクター1),ベイラースコット・アンド・ホワイトヘルス 整形外科手術班 整形外科外傷班副部長兼ディレクター2),ワシントン大学 ハーバービューメディカルセンター 整形外科スポーツ医学科 整形外科・スポーツ医学科助教3),レーニア整形外科研究所 整形外科医4))
滅菌器具/機器
- 前腕と手を被覆する防水性ストッキネットと4インチ(約10 cm)弾性包帯を含むドレーピング材
- 整復用骨鉗子の選択:
- 大・小のポイント付き整復鉗子(「Weber鉗子」)
- プレート把持用鉗子〔「Verbrugge(ヴェルブラッジ)センタリング鉗子」〕
- 小型鋸歯型骨把持用鉗子(小型の「ロブスターの爪」型)
- 骨片操作および髄内固定用として使用するためのネジ付きのKワイヤーや2.5 mmシャンツピン(例:小型創外固定に使われている)
- スモールディストラクター(特に遷延癒合,偽関節または変形治癒の場合)
- インプラント
- 観血的整復と内固定:
- 解剖学的にベンドされたプレート
- 3.5 mmコンプレッションまたはリコンストラクションプレート
- 2.7 mmコンプレッションまたはリコンストラクションプレート(非加熱強化処理)
- 仮固定用2.0および2.4 mmストレートプレート
- 独立ラグスクリュー固定用2.0および2.4 mmスクリュー
- 髄内固定:
- ステンレス製またはチタン製の小径で柔軟な髄内釘(通常2.5~3.5 mm).
- 髄内スクリュー固定:4.5,5.0,5.5,または6.5 mmの長いキャニュレイテッド(中空)スクリュー(髄内皮質骨との接触が得られる最大サイズを使用).
- 骨折部圧迫のために部分的にネジ山が切られたパーシャルスレッドスクリューを使用するか,ラ グスクリューテクニックを使ったコーティカル(皮質骨)スクリューを使用するかを検討する.
- 観血的整復と内固定:
- Kワイヤーおよびワイヤードライバー/ドリル.
体位
- ビーチチェアポジションまたは仰臥位で,患者はX線透過性手術台(例:X線透過性カンチレバー式手術台上で逆向き)に横たえる.
- 髄内釘固定に適した鎖骨骨折では,カンチレバー式手術台上で逆向きに患者を寝かせる.
- ビーチチェアポジションまたはカンチレバー式手術台上での逆向きへの配置は,プレート固定または髄内スクリュー固定が可能な鎖骨骨折に使用される.
- 通常,頭側と足側の脚によって支えられている平らなX線透過性手術台は,テーブルの端部で支える支持構造上,鎖骨の「インレット(inlet)」と「アウトレット(outlet)」のX線画像を取得するのが難しいため,鎖骨骨折には推奨されない.
- 自由な上肢の動きを可能にし,整復を容易にするために,患側上肢全体を消毒してドレープで被覆する.
手術アプローチ前
前下方アプローチ
- 骨折部位の中心部から切開し,鎖骨の下縁に沿って延長する.
- 鎖骨に対して斜めまたは垂直に走る鎖骨上神経の3~5 本の枝を保護するように注意を払う1).
- 外側部分では,三角筋の起始を鎖骨の前縁から鋭的に剥離する.
- これは閉創時に修復する.
前上方アプローチ
- 前下方アプローチに同様の皮膚切開.
- 深部展開するときは,鎖骨から広頚筋を挙上する.
髄内固定アプローチ
- 内側から外側へ向けてフレキシブルネイルを挿入する場合に,同側胸鎖関節の1.5 cm遠位に小切開をおく.
- 外側から内側へ向けた髄内スクリュー固定をする場合に,鎖骨外側部髄腔の延長線上にあたる肩峰後方に小切開をおく.
整復および内固定テクニック
- 整復および内固定の戦略は,骨折の位置とパターンによって異なる.
- 単純なパターン(長い斜め骨折または単純な蝶形骨折)の場合,小型Weber鉗子と2.0または2.4 mm独立ラグスクリューを使用して,解剖学的整復と骨片間圧迫を行う.最後に,3.5 mmニュートラリゼーション(中和)プレートを上方あるいは前下方のいずれかの位置に設置する.
- 粉砕骨折の場合,ブリッジ(架橋)プレーティングを前提として,鎖骨の長さとアライメントを回復する(図5-1).
- この場合,鋸歯状の鉗子を鎖骨近位部および遠位部に適用して整復操作を行い,骨表面に2.0 または2.4 mmの長いプレートを設置して暫定的に安定化をはかる.これは,根治的プレート固定前の暫定的な処置である.
- その後,鉗子を外し,フリーとなった鎖骨表面の至適位置に,根治的プレート固定として選択したブリッジプレートを設置する(図5-2).
-
暫定固定プレートは,骨折パターンに応じて,安定性を高めるためにそのままにしておくことも,また取り外すこともできる(図5-3).
- 粉砕型または分節型骨折でdual plate法を施行する場合,十分な構造強度を担保するために,プレートの一方を3.5 mm プレートにする必要がある.
- あらかじめ解剖学的にベンドされたプレート,またはベンド形成した2.7または3.5 mmのコンプレッションプレート,あるいは非加熱強化処理されている(つまり硬質な)2.7または3.5
mmリコンストラクションプレートを使って,上外側または前下側表面に設置する.
- プレートの選択は,患者の体型,予想される患者のコンプライアンス,骨折の形態,および明瞭度(acuity)に依拠する.
- 体格の大きい患者や骨折治療開始が遅れた症例には,小さいプレート(2.7 mm)やフレキシブルプレート(再建用)の使用は避けること.
- 2.7および2.4 mmプレートを組み合わせて使う90° - 90° dual plating法は,骨折パターンが単純で骨格構造が十分に強い症例でのみ使用可能であり,インプラント関連合併症状発症リスクを低減できる可能性がある(図5-4).
- 上記の戦略は,粉砕型や体格の大きい患者には使用するべきではない.
- 一般に,前下方プレートは突出が少なく,患者に忍容されやすいと考えられる(図5-5).特に
肩に荷物を載せて運ぶ人やバックパックを背負う人に適している.
- 前下方プレートは,骨強度がやや低く固定が非常に弱くなることが多い鎖骨遠位部で,より長いスクリューを挿入できる利点がある.
- 上方プレート固定で遠位上方から挿入されるスクリューの長さはおおむね10~14 mmであるが,前下方 プレート固定で前下方からAP方向に刺入されるスクリューの長さは通常22~28mmである(図5-6).
- 上方プレート固定は,とりわけ一部の偽関節でテンションサイドに設置された場合,力学的な利点があり,また三角筋を外側に剥離する必要もなくなる(図5-7).
- プレートの選択は,患者の体型,予想される患者のコンプライアンス,骨折の形態,および明瞭度(acuity)に依拠する.