書 評
免疫学のおもしろさに触れる本
宮園浩平
(東京大学医学系研究科,理化学研究所)
免疫学というと「おもしろい」,でも「むずかしい」というのが多くの学部学生,大学院生の印象ではないだろうか.私自身は40年前に免疫学を医学部の講義で習ったが,当時でもおもしろそうだが複雑で難しいと思った.免疫学にはさまざまなタイプの細胞が登場する.顕微鏡で細胞の形を見ても区別がつかない.免疫細胞の機能を制御する白血球表面の分子(CD分子)やサイトカインは膨大な数に上り,困ったことにアルファベットや番号で名付けられているものがほとんどで,名前を聞いただけでは何をしているものかわからない.教科書を読んだけれども覚えられないという人が多いと思う.それよりはまず免疫学とはどんな学問かを知るのは免疫学を好きになる早道であり,本書はそうした目的に最適の本だろう.
SARS-COV-2は私たちの生活を一変させた.その中で異例のスピードでワクチンが開発され,徐々にではあるが感染がコントロールできる状況に変わりつつある.免疫学が私たちの社会生活に大きく貢献した代表例である.現代の医療ではさまざまな感染症に用いられているワクチンだが,18世紀後半にジェンナーが種痘を開始した頃は,ウイルスや細菌という概念も存在しなかった.当時の科学者の慧眼には驚くものがある.ワクチンの歴史についても本書ではわかりやすく解説してあり,ワクチンにどうして効果があるかを理解する上でも初学者にとってはありがたい本である.
私の専門のがん研究の分野では近年免疫チェックポイント療法が広く臨床応用されるようになり,免疫学の最新の知識は不可欠となった.免疫学はものすごいスピードで進んでいるので,私自身も細かいことまでは理解していないことがたくさんある.免疫学は学べば学ぶほどおもしろい学問だと思う.本書は学生に限らず,医学・生命科学に関わる多くの方が,新しい知識を学び直し,免疫学のおもしろさに『小説みたいに』触れるうえでも良書で,広く推薦したい.