添削例
なぜよくないのか?
例文1〜3はすべて【概要】の全文である.
例文1は,はじめに要点を述べるというパラグラフライティングの原則にのっとり最初の1行に「目的」を示しているのはよい.しかし,この場合の『基礎研究を行う』はあまりに漠然としすぎている.『基礎研究を行う』だけでは,審査委員には研究目的が伝わらない.ただし,どこまでが基礎でどこからが応用か,分野において明確なコンセンサスがあるものは別である.さらに,2行目以降には方法論が書かれているが,研究の「背景」と「展開」が読みとれない.
例文2は「背景」と「展開」がなく,構造が「目的→方法」となっている.
例文3は「全体構想」「具体的な目的」と分けて書いていて,非常にわかりやすい.その反面,研究の「背景」(どのような研究状況なのか)が十分に書かれていない.【概要】は「簡潔に」とあり,記載できる量に限りがあるからだろう.
【概要】には,研究の「背景」「目的」「展開」の3つは抜かさず書くこと.「背景」は【(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」】,「目的」は【本研究の目的】,「展開」は【学術的独自性と創造性】などに対応する要約であるべきだ.「背景」で何がわかっていないのかを書いてこそ,研究目的の意義が審査委員に伝わる.
なお,この欄では上記の3つが書かれていることが重要であり,方法論や見た目の工夫の優先度は低い.
どのように改良すればよいか?
【概要】は平成29年度の申請書までは「10行程度で記述すること」と指示があった.現在の申請書でも10±1行くらいでまとめるのがよいだろう.また,例文のような【概要】になる原因のほとんどは,【研究目的、研究方法など】の【概要】と【本文】とを別々に書いているためだ.【概要】は全体のまとめであるので,一番最後に書くのがよい(補遺1参照).【本文】を書いて,それから重要な内容を抜き出して文章を整えればよい.すなわち,【研究目的、研究方法など】の【本文】の【(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」】,【(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性】,そしてスペースに余裕があれば【(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか】から重要な文章を抜粋して,
- 研究の背景:4〜5行
- 研究の目的:2〜3行
- 研究の展開:2行
くらいを目安にして書く.背景には研究で解決すべき課題(学術的「問い」)を加えること.「問い」があってこその,次に続く「研究目的」だ.
例文1ならばどのような『基礎研究』なのか説明しなければならない.目的と「方法」を簡潔にまとめ,「背景」と「展開」を加えてみよう.この場合は『連鎖移動反応の起こりやすさが鎖長依存性であるかどうかは明らかではない』が未解明の問題点(「問い」)になるのでそれを加える.
例文2の場合【研究目的、研究方法など】の本文中から,
- 構文文法と文法化のかかわりについてはほとんど解明されていない
- REC受動の拡大過程の分析には大規模言語コーパスの利用が有益だが,その分析は行われていない
と,この研究分野の解決すべき課題(つまり「問い」)や,この研究によって何がわかるのか(つまり「展開」)などを抜き出してきてまとめる.
例文3は,ここでは分けて書くという申請者のよい工夫を生かして,そのうえで研究の「背景」を加える.なお『モデルを開発』とは何のモデルかはっきりしなかった.具体的に『授業モデル』と書き加えた.
改善例
例文3の見出しをさらに目立たせるには,見出しのフォントをゴシック太字にして,より文字の違いを対比させるやり方(参考)もある(まあ,これは好みによると思う).