2章 イントロダクション2 生体防御における免疫系の役割
山田武司
(愛媛県立医療技術大学保健科学部臨床検査学科)
炎症
炎症とは,さまざまな傷害に対するからだの防御反応で,免疫系によって引き起こされる.やけどなどの外傷にみられる病変部の多くが,燃えたように赤く
炎症を引き起こす要因には,感染症やがん,アレルギー物質(アレルゲン),紫外線,化学薬品によるものまで,じつにさまざまなものがある.通常,損傷した組織での炎症のはじまりから修復までの一連の過程をまとめて「炎症」とする.このように炎症は異物の排除から組織の修復まではたらくため,からだにとって有益と考えられるが,炎症がなかなか終息せず,長い期間続くとからだにとって有害となることもある.
損傷した組織では,おもに貪食細胞やリンパ球といった免疫細胞が炎症を引き起こす炎症性サイトカイン※1 やケモカイン※2 を産生・放出している.感染症が生じた際に放出されるこのような生理活性のある物質は,病原体が侵入した場所へ仲間の免疫細胞をよび寄せるために産生される.したがって,多くの炎症は病原体などの異物を排除するためにはたらくと考えられるが,感染症以外の紫外線などで傷害を受けた組織でも炎症が起こる(図2-30).この項では,まずさまざまな炎症について知り,炎症の要因やメカニズム,治療法について学ぶ.
1)さまざまな炎症
炎症の特徴として,からだに「
炎症のはじまりから数日~数週間で症状が治まる場合を急性炎症といい,数カ月を経てもなお炎症が続く場合を慢性炎症という.感染症などでは,急激な炎症が全身で突発的に一気に進むサイトカインストームとよばれる致死的な症状がみられることもある(2) (図2-31).
❶ 急性炎症
短期間で治癒する感染症や軽度の外傷などでは,炎症の要因が除かれるとほどなく症状も治まるので,このような炎症のことを急性炎症とよぶ.
炎症がはじまる組織では,貪食細胞などの免疫細胞が損傷を感知し,炎症性サイトカインやケモカインを放出することでまず近くにある血管の透過性が亢進して,血管からの
炎症の場では,活性化したマクロファージや好中球が活性酸素※4 などを放出するため,組織に損傷が起きて炎症が進行する.炎症の要因が排除されてなくなれば,多くの場合は損傷した組織が再生することで修復し,炎症も終息する(図2-32).
❷ 慢性炎症
急性炎症とは違い,炎症の要因が除かれないために終息することなく症状が長く続くことを慢性炎症とよぶ.
結核や肝炎などの慢性感染症やがん,アトピー性皮膚炎などのアレルギー,関節リウマチなどの自己免疫疾患,重度のやけどといった外傷などの場合,炎症を引き起こす要因が容易に排除されない.そのため,炎症が長く続き,急性炎症とは違った慢性炎症に特徴的な病態がみられる.
慢性炎症では,単球や好中球だけでなく,リンパ球(T細胞,B細胞)や好酸球などの組織への浸潤がみられるようになる.異物が除かれない場合や損傷が激しい場合は,線維芽細胞の増殖や血管新生もみられるようになり,寄生虫の隔離(⇒p.75 図2-29)同様,
❸ サイトカインストーム
細菌やウイルスなどの感染症が全身に及ぶと敗血症とよばれる状態になることがある.これは,病原体そのものや細菌がつくる毒素※7 によって,免疫系の過剰な活性化が急激に起こり,炎症が全身に及んだ状態を意味する(4) .
敗血症では,炎症性サイトカインやケモカインが大量に産生されて,血管拡張や血管透過性が一気に亢進し,急激な血圧の低下から意識障害や多臓器不全を起こして死に至る場合もある.このような現象はサイトカインストームとよばれ,徴候がみられた場合は,血中のサイトカイン量をモニターするなど十分な警戒が必要である(図2-34).