丸山 敬
(埼玉医科大学 名誉教授)
- A悪性腫瘍の特徴は,「制御されない著しい増殖」「連続的な近接臓器への浸潤」「非連続的な転移」である.
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- B悪性腫瘍は著しい無秩序な増殖によって不利益をもたらす.
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- C正常細胞と悪性腫瘍細胞の違いは増殖の程度のみである.
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- D従来型抗がん薬は増殖が著しい細胞に毒性を発揮する.そのため,増殖がさかんな正常な細胞(免疫系,消化管粘膜,毛根)にも毒性を発揮する.
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- E従来型抗がん薬は数種類以上のがんにも有効なことが多い.
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- F浸潤と転移の分子機序はほとんど解明されていないが,増殖についてはシグナル伝達系が明らかになってきた.
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- G分子標的薬は悪性腫瘍細胞の増殖シグナルを特異的に阻害する(085参照).
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- H悪性腫瘍の生体防御系からの回避機序を阻害する免疫系抗がん薬が期待されている(087参照).
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悪性腫瘍
悪性腫瘍とは,自分自身の細胞が自分勝手に際限なく増え始め(増殖),本来の組織からその外の周りの組織へ連続的に侵入し(浸潤),そして,非連続的に,時には遠く離れた臓器でも増殖を開始する(転移)するようになった状態をいう(図1).自分の本来の組織の中でのみ増える場合は,外科的に除去すれば治療できるという意味で良性腫瘍とされる.多くの場合,良性腫瘍は悪性腫瘍よりも増殖速度は低いという点でも治療しやすい.しかし,重要な組織や到達しがたい場所(例えば脳)の良性腫瘍は外科的除去が難しくなる.
悪性腫瘍を大きくわけると,上皮性組織(胃粘膜や腸粘膜)から発生した癌(腫)※1,非上皮組織(上皮の下層や組織の中の間質)から発生した肉腫,そして造血系腫瘍(白血病など)となる(図2).それぞれに使われる薬物はだいたい共通であり,抗がん薬と総称される(正確には抗悪性腫瘍薬).


白血病

白血病細胞は1個の最初にがん化した細胞とほとんど同じ集団(モノクローナル)であるが,胃がんなどの固形がんは均一な細胞群ではなく,雑多な集団(ポリクローナル)と考えられる(図3).また,がんの黒幕のような細胞でがん細胞をつくり出すがん幹細胞が存在することが明らかになってきた.このがん幹細胞は普段はあまり増殖しないために,抗がん薬があまり効かない.また,耐性(最初は効いていた抗がん薬を投与しても増殖が活発になること)の出現とも関係しているようである.
増殖シグナル

従来型の抗がん薬は正常細胞であろうとがん細胞であろうと,とにかく増殖している細胞を傷害する.がん細胞は体内の最も増殖がさかんな細胞よりもさらに活発に増殖しているために,従来型抗がん薬はがん細胞により毒性を発揮する.しかし,正常な細胞でも活発に増殖している細胞には毒性を発揮するため,免疫抑制,脱毛,消化管出血(粘膜傷害)などの有害作用が共通して存在する(図4).
増殖細胞を非特異的に傷害する従来型抗がん薬に対して,がんを生じさせている分子機序に注目し,がんの原因となっている異常を特異的に阻害するのが分子標的薬である.近年,次々に新薬が導入されている(085参照).
しかし,浸潤や転移の分子機序はほとんど不明であり,これらを標的とした抗がん薬はほとんどない.したがって,抗がん薬は増殖を抑える薬物,あるいは増殖が活発な細胞に毒性を発揮する薬物ということになる.増殖を抑えれば,他の組織に攻め入ることもなくなり,転移した各組織での活動を抑えることになるので,「抗がん薬は増殖抑制薬」というのは,戦略としては問題ないだろう(085参照).
がん免疫療法
近年のトピックスとして,免疫療法がある.それまでの免疫療法(077参照)はがん特異的抗原を投与することによってがん細胞への免疫反応を惹起するものであった.もともとがんは生体防御を逃れる機能を獲得しており,満足できる効果は得られなかった.しかし,この免疫回避機序を阻害する薬物(例えばニボルマブ)は,ほとんど抗がん薬が無効だった悪性黒色腫に有効なことが見出された(087参照).
がん幹細胞
白血病細胞は,1個の,最初にがん化した細胞とほとんど同じ集団(モノクローナル)といえるが,胃がんなどの固形がんは均一な細胞群ではなく,雑多な集団(ポリクローナル)である.また,がんの黒幕のような細胞でがん細胞をつくり出すがん幹細胞が存在することが明らかになってきた.このがん幹細胞は抗がん薬があまり効かず,耐性(最初は効いていた抗がん薬を投与しても増殖が活発になること)の出現とも関係している.

幹細胞の定義は,「自己複製と分化能をもった細胞」ということである.細胞分裂の際,娘細胞2個ができる.幹細胞では,細胞分裂して,普通は通常の細胞と同様に,自分と同じ細胞2個をつくり出す(図5).しかし,時として,娘細胞の1個はそのまま自分と同じだが,もう1個は全く別の細胞へ分化していく細胞をつくり出す(図6).がんにもあまり分裂しないがん幹細胞が存在し,時として異常に分裂するがん細胞をつくり出しているらしい.あまり分裂しないがん幹細胞は従来型抗がん薬が無効である.



- 糸球体で濾過されないのはどれか.(創作問題)

- 従来型抗がん薬が標的とする細胞の性質を記せ.

- 分子標的薬の代表的な標的を記せ.
- 解答と解説はWebを参照