序
論文に使用される図表の種類が増えている.そのために,図表を理解するのがたいへんで,論文を読むこと自体を敬遠してしまう.「抄読会の準備があるので実験できません」などはもっての外だが,どうも本音はそうらしい.立派な大学院生は,実験書を読み,ネット検索をしながら勉強しているが,やはり時間がかかってしまう.じつは,自分も専門外の図表を解釈するのに苦労している.
これからますますたいへんな時代だなと思っていたところ,ついに「別に実験できなくてもいいので,図表の意味だけ知りたいです」という強者がでてきた.「とんでもない 原理から勉強しろ!」と言いたいところだが,まずは研究の面白さに触れて貰わないといけない.しかたないので「それではそういう本を買うので,探してきてくれ」と言うと,「そんな本はありません」との答えであった.
そこで,一念発起.それなら,そのような本をつくろうかとなった.実験・解析の詳細は思いっ切り割愛して,どのような目的の実験・解析で,何が示されているかのみを理解するための本,である.大学生・大学院生でまだ論文を読みはじめて間もない方,少し異なる研究分野の論文を読もうと思っている研究者の方を始め,すべての研究者の方が気軽に読めて,まずは論文を解読し,その次にもっと重要なことに時間を使っていただくための本を作りたいと思った.同時に,科学者とそのタマゴが読むのであるから,原理も,予備知識がない人向けに簡潔に説明されている必要がある.
編者2名で相談し項目立てを行ったが,インフォマティクス・マイクロバイオームなどわれわれが不案内な分野に関しては,その分野のトップの先生に編集のご協力を仰いだ.新しい試みにもかかわらず趣旨にご賛同いただき,さらには必要にして十分な項目を設定いただいたことに改めて感謝申し上げたい.
分かり易く書くということと正確に書くということはときとしてトレードオフになる.その場合,科学者の性分として正確に書きたくなる.「これもあった方がよいかも」というのも出てくる.そこをぐっと抑えて,分かり易く,最小限のことを簡潔にご記載いただけるように,執筆者の先生に伏してお願いした.すべての方が趣旨をご理解くださり,編者からの細かな注文にも快くご対応くださったことに深く感謝致したい.
本書が,研究を始めたばかりの方が図表の意図するところを簡単に理解する一助となり,ベテランの方にも専門外の図表を気軽に調べていただくお役に立てば,編者の望外の幸せである.
2022年6月
牛島俊和,中山敬一